容認しがたいイランのW杯締め出し……FIFAは英断を
4年前の2月27日、FIFAはロシアのウクライナ侵攻を受けて声明を発表した。まずロシアの武力行為を非難し、ロシア国内での国際試合の禁止や、同年5月にサンクトペテルブルクで開催されることになっていた欧州CLの開催権を剥奪した。
4年後の2月3日、FIFAのインファンティノ会長はロシアに対する制裁の解除を検討していることを明らかにした。ロシアを国際サッカー界から排除することは「何のプラスにもならない」どころか、「さらなる失望と敵意を生み出すだけ」なのだという。
4年前、FIFAの決定を全面的に支持した人間の一人としては、いまだ紛争が続いているにもかかわらず、制裁を解除しようとするインファンティノ会長の発言は、受け入れ難いものだった。ウクライナはもちろん、4年前の決定を「生ぬるい」と非難した各国の中からも反発の声は沸き上がった。
だが、米国・イスラエルによるイラン攻撃という事態を受け、会長の発言は“免罪符”としての意味合いを持つことになるかもしれない。
領土を侵略したロシアと、政権転覆や核開発阻止を目的とした米国を同列に論じるべきではない、という意見はある。ベネズエラにしろイランにしろ、米国の攻撃を歓迎しているベネズエラ人、イラン人が存在している事実もある。ただ、ならばウクライナ在住のロシア系住民の中には、ロシア軍の介入を歓迎する層もあった、ゆえに許されるという論理にもつながってしまう。なぜ米国は許されて、ロシアは許されないのか。感情をはさまずに判断すれば、ダブルスタンダードという他ない。
だが、どんな事情があったにせよ、インファンティノ会長はロシアを許そうとしていた。ロシアが許されるのならば、当然、米国も許される。ちなみに、米国が突如としてベネズエラを攻撃し、マドゥロ大統領を拘束したのは1月3日のこと。ひょっとすると“制裁解除発言”は、ここにもきっかけがあったのかもしれない。
FIFAが揉み手しながら“平和賞”なるものを贈呈した大統領が、その数カ月で2カ国に対して武力行使を行ったという皮肉はともかく、ロシアへの制裁解除をにおわせていたことで、彼らは“ダブスタ批判”に対する特効薬を得た。今後は、その効果を増強させるためには、本腰を入れてロシアへの制裁解除に動き出すかもしれない。
FIFAの変節を責めるつもりはない。心のどこかでロシアはダメだが米国はOKと思っているわたしなんぞより、米国はOKだからロシアもOKとした彼らの方が、筋は通っている。
ただ、米国に寄り添いすぎるあまり、“犠牲者”が出ることだけは避けてもらいたい。
強権国家かもしれない。核開発をしたかもしれない。だが、他国を侵略したわけではないイランが、今回の紛争を理由にW杯から締め出されることだけは容認しがたい。
もちろん、選手の中には自国を攻撃した国になんか行きたくない、と考える者がいる可能性もある。だが、自分たちが勝ち取ったアジア代表の権利を行使したいとの思いがあるのであれば、それは最大限尊重してほしい。
米国がイランをW杯から締め出したがっているのは、組み合わせ抽選会でのビザ発給を巡るゴタゴタからも明らか。だが、FIFAがその思惑を認めてしまえば、生み出されるのは「さらなる失望と敵意」でしかない。
<この原稿は26年3月5日付「スポ-ツニッポン」に掲載されています>