残り4試合で後期優勝へのマジックは3。目標のひとつに掲げていた優勝は目前です。ただ、残り試合はすべて最下位の高知相手とはいえ、4試合で3つ勝つのは決して簡単ではありません。プレッシャーなのか、投手陣が15日の福岡ソフトバンク3軍戦で11失点を喫するなどチーム状態には不安もあります。
 それでも15日の試合は攻撃陣が12点を挙げ、逆転サヨナラ勝ちを収めました。8月は打線が低調で苦しみましたが、優勝争いの中で悪い時期を乗り越えたことに選手たちのレベルアップを感じます。香川、徳島と3つ巴の戦いになっても、愛媛は1度も2位に転落することなくここまで来ました。苦しいところで踏ん張れたのはチームに地力がついている何よりの証拠でしょう。

 野手ではDHの大井裕喜が打率.351で香川の桜井広大を抑え、首位打者に立っています。春先から打撃は好調でしたが、選球眼などに課題があり、いずれ壁にぶち当たる時期が来ると見ていました。ところが、若い選手は試合に出て結果を出すことが自信につながるものです。自信が向上心を生み、技術面でも飛躍的に良くなってきています。

 選球眼の問題も、ファーストストライクから狙いを絞って積極的にスイングすることで欠点が目立たなくなりました。前期は狙いではないボールに手を出したり、追い込まれてから打ちに行っての凡打や三振が少なくなかっただけに、予期せぬ成長ぶりに僕も驚かされています。打撃だけならNPBのスカウトにも充分アピールできるレベルに達しました。あとは守備、走塁をどれだけ磨けるかが来季への宿題になるでしょう。

 投手では後期に入り、デイビット・トレイハン小林憲幸に次ぐ柱として古舘数豊が本領を発揮してきました。昨季は10勝を挙げた右腕も前期はわずか2勝止まり。防御率は5点台と苦しみました。不振の主な原因はメンタルです。結果が出ないことで「オレはこんなはずじゃない」と自分を悪い方向へ追い込み、負のスパイラルに陥っていました。

 ただ彼の救いは、どんなに苦しい状態でも練習にしっかり取り組んできたこと。僕も彼には「一生懸命練習していて、1年間悪い選手は絶対にいない」と励ましてきました。現に昨年に比べるとストレートのキレは増しています。NPBのスカウトも、その点を指摘するほどですから、これは自信を持っていいでしょう。後期も3勝と勝ち星は増えていませんが、メンタル面も投球内容も格段に良くなっています。先発として安心して任せられる存在になってきましたね。

 しかし、優勝できなければ今までの頑張りは何の意味もありません。残り試合で僕がひとつのポイントとして考えているのは、元NPB選手の使い方です。橋本将に関しては、ここまでキャッチャーとDHの併用で起用してきました。もちろん、これまでの実績を踏まれば、勝負どころで残りの全試合でマスクを被ってもらうのが一番です。ただし、彼も腰やヒザに古傷を抱え、この起用は現実的ではありません。

 また、この1年、橋本の影響を受け、ルーキーキャッチャーの宏誓が大きく成長を見せました。優勝すれば、彼は陰のMVPと言っていいでしょう。やはりトップレベルを知る選手から直接指導を受け、リードに関してベンチで会話を重ねたことは財産になったはずです。最近はNPBのスカウトからも「守りが安定している」と評価が高まっています。始めて迎える長丁場のシーズンで彼も正直、疲れが溜まっている面は否めません。でも、この負けられない戦いを経験することは必ずや今後につながります。橋本と宏誓を使い分けながら、あと3勝をどう手にするか。試合日程や先発ピッチャーを考えながら起用法を決めるつもりです。

 一方の河原は8月中旬からコンディションが万全でなく、ずっと登板を回避してきました。ただ、このところは状態も上がっており、次戦(20日)の高知戦では、1イニングでもワンポイントでもマウンドに上げる予定で考えています。ここでの状態を見て、もし可能なら残り試合はフル回転してほしい気持ちです。冒頭で挙げたように投手陣はやや不安定なだけに、経験豊富な河原が投げることで若いピッチャーに落ち着きが出てくればと願っています。

 キャンプインから僕は「今年こそ優勝する」と言い続けてシーズンを過ごしてきました。それを有言実行に移すためには残り4試合、何が何でも勝つことです。

 と言っても勝利への秘策はありません。急に選手たちの能力が上がるわけでもありません。平常心ではいられない状況で、いかに今までやってきた野球ができるか。優勝へのカギはここに尽きると考えています。
 
 その意味では監督としての力量が最も問われる残り4試合になるでしょう。優勝の可能性が残る香川と徳島、そして対戦する高知の各監督が、どのように自分たちの野球を徹底し、チームを勝利に導けるのか――。ファンの皆さんにはそんなところにも注目しながら試合を観ていただけるとうれしいです。

 とにかく最低あと3つ。あと3つを必ず勝ちます。雨天中止による振替日程で平日のデーゲームが多いのは残念ですが、ひとりでも多くの皆さんの応援をお待ちしています。 


星野おさむ(ほしの・おさむ)プロフィール>:愛媛マンダリンパイレーツ監督
 1970年5月4日、埼玉県出身。埼玉県立福岡高を経て、89年にドラフト外で阪神に入団。内野のユーティリティープレーヤーとして、93年に1軍デビューを果たすと、97年には117試合に出場。翌年には開幕スタメンで起用される。02年にテストを経て近鉄へ。04年に近鉄球団が合併で消滅する際には、本拠地最終戦でサヨナラ打を放つ。05年に分配ドラフトで楽天に移籍し、同年限りで引退。06年からは2軍守備走塁コーチ、2軍打撃コーチなどを務めた。11年より愛媛の監督に就任。
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