愛媛とのチャンピオンシップは敵地で2連勝。投打がかみあい、一気に年間優勝へ王手をかけました。投手陣では初戦の渡辺靖彬、2戦目の山野恭平と両先発がしっかりゲームをつくってくれたことが大きかったですね。
 西田真二監督と相談し、初戦の先発には最多勝(16勝)の山野ではなく、ルーキーの渡辺を起用しました。その理由は2つあります。まずひとつは初戦で山野を立てて、万一、負けた時にチームへのダメージが大きいと考えたこと。そして何より渡辺の投球がこのところ安定していたからです。

 渡辺は、この1年でさまざまな経験を積み、着実に成長を遂げています。時には打ち込まれてKOされた試合もありましたが、その悔しさをバネに、日頃の練習から勝負どころでの精度を磨こうと取り組んできました。チャンピオンシップの初戦は、まさにその成果が出たと言っていいでしょう。毎回のように走者を背負う展開ながら、ピンチでも腕を振ってチェンジアップを効果的に使っていました。

 香川の投手陣は右投手が多く、元NPBの橋本将を始め、左打者が多い愛媛打線をどう封じるかがひとつのポイントでした。初戦で渡辺は左打者の懐にストレートをしっかり放り、外へのチェンジアップとの組み合わせで、うまくコースと緩急を投げ分ける投球ができましたね。これは後ろで投げる投手たちにとって、いい参考になったでしょう。渡辺が流れを呼び込み、初戦は完封リレーで勝利しました。

 2戦目は山野がストレート主体の投球で愛媛打線を抑え込みました。ソロホームランによる失点はあったものの、8回まで1失点。1年間の疲れが出たのか9月上旬に腰に張りが出ていただけに、このチャンピオンシップに照準を合わせて調整してきたことが吉と出ました。

 ただ、山野は派遣元の広島に帰れば、支配下登録を目指して、より高い次元でしのぎを削らなくてはなりません。1球が命取りになる世界ですから、ホームランを打たれた失投は反省材料でしょう。その点を差し引けば、他の部分では1球1球集中していたと感じます。特に愛媛先発のデイビット・トレイハンは150キロ台の速球を連発して好投していただけに、我慢比べで負けなかった点は評価できますね。

 そして、何より連勝の立役者はアンソニー・プルータ酒井大介という中継ぎ、抑えの投手たちです。プルータは、この9月に入団しました。回転数が少なく重いストレートを投げるのが特徴です。ボールに角度がありますし、チェンジアップにも落差がある。NPBの投手に例えるなら、福岡ソフトバンクのブライアン・ファルケンボーグのようなタイプと言えるでしょう。

 課題はコントロール。後期優勝へあと1勝と迫った9月26日の高知戦では押し出し四球を含む4四死球で自滅し、手痛い敗戦を喫しました。愛媛に優勝をさらわれた“授業料”は高かったとはいえ、本人にとってはいい勉強になったでしょう。プルータのようにボールに力があれば、現時点で細かいコントロールは必要ありません。「どんどんストライクゾーンに投げてほしい」とのアドバイスを受け入れ、チャンピオンシップでは2試合とも相手を球威で牛耳っています。

 酒井は後期からアレックス・マエストリ(現オリックス)に代わって抑えに指名しました。キレのあるストレートはもちろん、気持ちが強く、性格もリリーフ向き。他にも候補がいた中で、監督と話をして最終的には彼に最後のイニングを任せることになりました。

 このクローザー経験は酒井にとって一皮むけるきっかけとなったようです。短いイニングで力を出す方法を練習から自分なりに考え、ストレートの球速もスライダーのキレも非常に良くなってきました。何よりエースの高尾健太が不在の中、投手陣のリーダーとして他の若手を引っ張ってくれます。投手としても人間としても周囲から信頼できる存在になりましたね。

 やはり抑えはゲームを締めくくる重要なポジション。そこに誰もが認める選手がマウンドに上がることはチームに落ち着きをもたらします。2戦目の延長戦での勝利も「リードして酒井につなげれば勝てる」との思いでチームがひとつになって戦えたからでしょう。

 連勝してチームは当然のことながら、いい雰囲気です。6日の第3戦からはホームになりますし、ここで一気に優勝を決めたいと思っています。しかし、短期決戦は何が起きるか分かりません。王手をかけたからと言って少しでも気を緩めたら、あっという間に流れを手放します。マウンドに上がる投手たちには、1球1球、悔いのないよう全力投球してほしいものです。

 先発要員だった大場浩史も中継ぎに回し、次の第3戦で決めるつもりで投手起用を考えています。こういった負けられない戦いから各選手が何かをつかみ、もうワンランク、レベルアップしてほしいですね。土曜日からのゲームは、今季の集大成です。ぜひ胴上げの瞬間を観に、ひとりでも多くの皆さんが球場に来ていただけることを願っています。


伊藤秀範(いとう・ひでのり)プロフィール>:香川オリーブガイナーズコーチ
 1982年8月22日、神奈川県出身。駒場学園高、ホンダを経て、05年、初年度のアイランドリーグ・香川に入団。140キロ台のストレートにスライダーなどの多彩な変化球を交えた投球を武器に、同年、12勝をマークして最多勝に輝く。翌年も11勝をあげてリーグを代表する右腕として活躍し、06年の育成ドラフトで東京ヤクルトから指名を受ける。ルーキーイヤーの07年には開幕前に支配下登録されると開幕1軍入りも果たした。08年限りで退団し、翌年はBCリーグの新潟アルビレックスBCで12勝をマーク。10年からは香川に復帰し、11年後期より、現役を引退して投手コーチに就任した。NPBでの通算成績は5試合、0勝1敗、防御率12.86。
◎バックナンバーはこちらから