日本のサッカーは強くなった 日本のスタジアムはどうなの?

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 かのウィンストン・チャーチルは、日本海軍航空隊によって戦艦プリンスオブウェールズなどが撃沈されたとの報に接した時のことを「戦争の全期間を通じて、これ以上の打撃を受けたことはなかった」と回顧している。ナチスドイツがポーランドになだれ込んだ時よりも、ドイツ空軍が自国上空に殺到した時よりも、遠いマレー沖での海戦に敗れた衝撃の方が大きかったというのだ。

 

 英国人にとって、あるいは欧米の人間にとって、アジアに敗れるということはそれほど大きな意味を持っているものらしい。

 

 どうやら、その傾向は21世紀に入っても完全に消えてはいなかった。日本がウェンブリーで勝利を収めた先週の一戦にしても、勝った日本よりも、負けたイングランドの方がはるかに大きく、長く、試合の詳報や分析を伝え続けていた。

 

 もっとも、英国人の受けた衝撃がどれほどのものにせよ、同じ日にイタリア人が直面した現実の過酷さに比べればかわいいものだ。4年前、北マケドニアにまさかの敗北を喫した彼らは、今回もW杯本大会への道を断たれた。14年の秋以降に生まれたイタリアの少年少女は、W杯で躍動するアズーリを知らないまま思春期を迎えることになる。

 

 一度の敗戦であれば不運や悲運といった言葉で片づけられるかもしれないが、3大会連続で予選敗退となるとそうはいかない。イタリア国内のみならず、欧州の他の国々までもがこの低迷……というか惨状の原因はどこにあるかを探ろうとしている。

 

 英国BBCが原因の一つとして指摘したのは、スタジアムの近代化に失敗したこと、だった。そのことによって商業収入が伸び悩み、クラブとしての収益で他の欧州リーグに後れを取ったことが響いたのだという。かつての英雄デル・ピエロも、BBCの取材に対して「問題点? スタジアムだ」と言い切っている。

 

 衝撃の敗退から2日後、イタリアにさらに追い打ちをかけるかのようなニュースが発表された。32年のトルコとの共催で欧州選手権を開催することになっているイタリアに対し、関連インフラの整備がなされない場合には開催権を剥奪するとの旨を、UEFAが発表したのだ。

 

 イタリア人からすれば、自国のインフラがトルコにも及ばないと宣告されたようなもの。とはいえ、07年から24年までに建設、もしくは改装されたスタジアムの数が「6」しかなく、ドイツ(19)やイングランド(13)、フランス(12)に遠く及ばない現状を鑑みれば、反論できる材料は多くない。デル・ピエロの言葉を待つまでもなく、経営と強化の両面において、近代的なスタジアムの重要性は、欧州の共通認識となっている。

 

 さて、衝撃を受けた英国人、打ちのめされたイタリア人に比べると、日本のサッカーファンは我が世の春を謳歌しているといっていい。自国のサッカーに対する自信や誇りは、史上最高レベルにある。これはもちろん、悪いことではない。

 

 ただ、ちょっと気にかけてほしいのは、欧州では例レベルにあるとされるイタリアのスタジアムだが、それでも、質量ともに日本よりははるかに上だということ。つまり、日本のサッカーインフラは、依然として世界レベルとはほど遠い。

 

 チャーチルを打ちのめした日本海軍の栄光は、しかし、長くは続かなかった。すべてがうまくいっているように見えるいまこそ、日本人が手をつけなければならない点は少なくない。

 

<この原稿は26年4月9日付「スポ-ツニッポン」に掲載されています>

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