ドラフト1位指名の高校生がNPB(日本プロ野球組織)を経ずにメジャーリーグ挑戦を表明したのは初めてのことである。

 日本か米国かで注目を集めていた最速160キロ右腕の大谷翔平(岩手・花巻東)が渡米を決断した。記者会見で本人は「マイナー(リーグ)からのスタートになると思うけれどメジャーリーグに挑戦したい気持ちでいる」と抱負を述べた。

 と、この原稿を書いている時点で、北海道日本ハムが大谷を1位指名した。本人は「気持ちは変わらない」と述べたが、日本ハムもただでは引き下がるまい。
 大谷に対してはドジャース、レンジャーズ、レッドソックスなどが熱心に口説いている模様だが、あるメジャーリーグ球団のスタッフは「ドジャース優勢」と見る。

「ここは今季、経営陣が一新しました。経営陣は投資家集団で“必要なカネは使え!”と号令を発している。おそらく大谷君にも1億円くらいの契約金を用意しているはず。また西海岸には日本人や日系人も多い。レンジャーズやレッドソックスがドジャースを上回る条件を提示しない限り、逆転は難しいと思います」

 大谷を担当しているドジャースのスカウトは元巨人投手の小島圭市。自由契約後に渡米し、レンジャーズ傘下のチームでプレーしたこともある。自らの経験や知識を大谷サイドにも伝えているはずである。

 さて、大谷はメジャーリーグで通用するのか。
「8月にロングビーチで全米の有力な高校チームが集まる大会が開かれました。MLBのスカウトや大学の関係者も来ていたのですが、190センチの長身で150キロ台のストレートを投げる投手はザラ。大谷がMLBで成功するには、キレのいい変化球や打者のタイミングをはずすチェンジアップを磨き上げる必要があります」(前出・スタッフ)

 大谷の決意表明を受けて、在京球団のあるベテランスカウトが嘆く。
「もし大谷がメジャーリーグで成功を収めたら、今後、日本球界を背負って立つような高校生が続々、海を渡るようになるかもしれない。向こうで成功した場合、年俸だって日本の比じゃないですからね。
 そうなったらプロ野球は空洞化の危機を招いてしまうのではないか。高校野球はプロ野球にとって最大の選手供給源。メジャーリーグがここにまで手を突っ込むとは……。しかし、それを止めようにも止める手立てがない。情けないことにただ指をくわえて見ているというのが実情です」

 現在、NPBにはドラフト指名を拒否して海を渡った場合、帰国後、高校生は3年間、大学生・社会人は2年間、NPBでプレーできないという申し合わせがあり、さらに厳しくすることで水際で食い止めようとの声が出ている。
 だが、いくら規制を強化してもこの流れは止まるまい。そんな小手先の策を弄する前に、どうすれば日本のプロ野球の魅力が増すかについてもっと真剣に考えるべきだろう。

<この原稿は2012年11月11日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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