収穫と課題の両方がみえた実りある欧州遠征だったのではないでしょうか。フランス、ブラジルとの2連戦は1勝1敗。ザックジャパンが現時点で世界に対して通用する部分とそうでない部分が明確になったと感じました。通用したのは組織立った戦い方、宿題として残ったのは攻守における速攻の対応力です。
 対世界にはカウンターが必須

 最初のフランス戦で日本は21本ものシュートを打たれました。そのなかでなぜ、無失点に抑えることができたのでしょうか。それは試合を通じてDFラインから前線までの距離をコンパクトに保って戦えていたからです。日本の選手たちはセカンドボールへの反応が速く、連続攻撃を許しませんでした。またカリム・ベンゼマやフランク・リベリーらひとりで局面を打開できる選手には2人以上で組織立って対応し、ボールを奪えていました。

 フランス戦ではカウンターの有効性も再認識しました。今まではパスをつないでゴールを奪うスタイルがサッカーの王道という向きがありました。ただ、W杯本番の決勝トーナメントのように負ければ終わりという状況下では、負けないサッカー、すなわち点を奪われない戦い方をしなくてはいけません。そして、しっかりと守った後、一気にボールを縦に運んでスピードアップするのです。

 日本の決勝点はそのカウンターから奪ったものでした。CKのこぼれ球を拾った今野泰幸がドリブルで一気にPA手前までボールを運びましたね。カウンターで守備側が数的不利な状況になると、DFは突破されないよう、下がりながら味方のサポートを待つことになります。もし裏をとられてしまえば、一気にゴールまでボールを運ばれてしまう危険があるからです。そのため、フランスとしてはPA手前まで攻め込まれる前にDFラインの選手が今野にプレスをかけて攻撃のスピートを落とし、その間に、中盤の選手が追いついて陣形を整える計算をしていたと思います。

 ただ、予想以上に今野のドリブルが速かったため、DFラインはプレスをかけられず、ずるずると下がらざるを得なかったのでしょう。加えて、香川真司もゴールに向かって走り込んでいましたから、そちらのケアも求められていました。戻りながらの対応では、どうしてもマークの受け渡しやクロスに対するポジショニングがずれます。日本はフランス守備陣のギャップをうまく突いたのです。

 これまでの日本の攻撃にはしっかりとパスをつないでゴールに迫る「遅攻」の傾向がありました。それがカウンターという今までにあまり見られなかったパターンから、得点を奪えたことは大きな収穫でしょう。

 王国の速攻に対応できなかった理由

 一方でブラジル戦は日本がやらなければいけないことを、相手にきちっとやられた印象を受けました。ブラジルはコンパクトな陣形を保ち、日本のパスミスやコントロールミスを見逃しませんでしたね。ボールを奪った後はネイマールやカカを中心に、スピードに乗ったカウンターを仕掛けてきました。日本はブラジルの速攻に対応できず、押し込まれてしまったのです。

 その要因は単に個人の能力差によるものではありません。組織の面でもDFラインと前線までの距離が間延びしていたからです。序盤は日本もパスをつないで攻撃のかたちをつくれていました。しかし、ブラジルに速攻からシュートまで一気に持ち込まれ、守備陣が恐怖を感じてしまったのでしょう。カウンターを警戒するがゆえにDFラインを高く保つことができず、前線との距離が開いてしまったのです。

 先制点のシーンは、自陣での不用意なクリアを奪われてからの速攻でした。あのシーンでDFラインがプレスに行くのではなく、引いてしまったためにボランチのパウリーニョがPA手前まで攻め上がるスペースを与えてしまいました。その結果、スリッピーなピッチ状況を利用されたミドルシュートをたたき込まれたわけです。ブラジルにとっては意図したとおりの得点だったと言えるでしょう。

 その後も失点を重ねるたびに日本はDFラインと前線との距離がさらに開いてしまいました。選手間の距離が遠くなると、当然、ひとつのパスの距離も長くなります。長いパスを多用しなければならなくなると、コースを読まれたり、パスが通るまでにプレスをかけられたり、インターセプトされる可能性も高くなります。また選手間の距離が離れている分、パスを奪われた後のアプローチやポジショニングの修正に時間がかかってしまう……まさに負の連鎖に陥ってしまったのがブラジル戦でした。

 速攻と遅攻の使い分けを徹底せよ!

 ブラジル戦ではオフェンス面でも差を感じました。なぜ、日本の攻撃陣は最後までゴールを奪えなかったのでしょうか。それはフランス戦とは一転して、遅攻でゴールに迫ろうとしていたからです。相手陣内に入って細かいパス交換からスペースを見出して本田圭佑がシュートを放ったり、サイドから長谷部誠が中にドリブルで仕掛けてミドルを打つ場面はありました。しかし、速攻でDFラインの裏に飛び出す展開はほとんど見られませんでしたね。それはなぜでしょうか。まずブラジルが前線とDFラインの間をコンパクトに保っていたため、日本はボールを奪ってもすぐにプレスをかけられ、スピードアップできなかった点があげられます。

 さらに、日本の選手たちは相手のDFラインの前でプレーさせられていました。守る側としては、自分たちの前でボールを回される分にはそんなに怖くありません。ボールもマークにつく選手も同一視野で捉えられるからです。繰り返しになりますが、フランス戦のように奪った瞬間にスピードアップされると、DFは戻りながらの対応になるためズレが生じやすくなります。試合を通してDFラインの裏をとれなかった日本は、ブラジル守備陣の術中にはまってしまったといえるでしょう。

 この状況を打破するには、攻守の切り替えを早くするしかありません。その上で、奪った後はカウンターを仕掛けるのか、それともしっかりボールを回して攻撃を組み立てるのか。いわゆる速攻と遅攻の使い分けをチーム内でカチッと意思統一しておくことが重要です。そうしないと今後の戦いでもチグハグな場面が多く出てしまいます。これは11月のオマーン戦やその先の試合を通じて解消してほしい課題です。

 守備では選手間の距離をコンパクトに保ってインターセプトを狙い、セカンドボールへの反応も速くする。ボールを奪ってからの攻撃ではシュートで終わる意識を高く持つ。そのなかでパスをつないでの遅攻、サイド攻撃、カウンター、ミドルシュート……とバリエーションを増やす。ブラジルのように選手個々の持っている攻撃に対するイマジネーションをフル活用することが世界と対等に戦うためには必要です。

 頑張れカズ!

 最後に、キングカズこと三浦知良選手の話題にも触れないわけにはいかないでしょう。皆さんもご存じのとおりカズはタイで行われるフットサルW杯(11月1日〜)に臨む日本代表に選出されました。今回の代表挑戦は彼のプレーに対する情熱がまだまだ衰えていないことの表れだと感じています。

 カズについてはどうしても45歳という年齢が注目されます。確かに、瞬発力や心肺機能の低下はあるでしょう。ただ、横浜FCで他の選手たちと同じトレーニングをこなしているわけですから、そこまで体力不足を心配しなくてもよいと思いますね。むしろ、サッカーよりコートが狭くなる分、負担が減り、より高い質のプレーができるのではないでしょうか。

 彼の一番の特徴はゴールに向かうプレーができることです。私が現役時代に対戦した時も、常にカズは貪欲にゴールを狙う姿勢を崩しませんでした。これだけでも守る側はプレッシャーを感じるものです。相手のかわし方や、シュートの蹴り方といった技術は今も高いものを持っています。そういった部分は、畑違いのフットサルでも、十分に生かすことができるのではないでしょうか。

 カズの挑戦は、私たち同年代のみならず、幅広い世代に対するフットサルのアピールにつながっていると感じます。20年前、オフトジャパンで同じ釜の飯を食った戦友として、彼の活躍は本当に誇りです。キングカズ、そしてフットサル日本代表をみんなで応援しましょう!

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://kashima-hsp.com/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。
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