鹿島アントラーズのナビスコ杯連覇、W杯最終予選のオマーン戦、そしてサンフレッチェ広島のリーグ初優勝……。この11月もサッカーの話題が目白押しでした。中でも私が印象に残っているのは、ザックジャパンがオマーンに勝利し、ブラジル行きに王手をかけたことです。アウェー、しかも気温30℃を超える厳しい環境で、勝ち点3を持ち帰った結果は大きく評価できます。
 アウェーでも勝てる守備組織

 オマーン戦最大の収穫は、アウェーでも勝てるDF組織が構築されてきたことです。試合は、ホームで負けられないオマーンが立ち上がりから積極的に仕掛けてきましたね。日本は暑さの影響もあり、時折、足が止まったり、マークを見失ったりしてピンチを招く時間帯もありました。加えて、個々の身体能力でもスピード、高さ、強さなどは相手のほうが上ですしたから、1対1での勝負で劣ってしまう印象も受けました。それでも、失点はFKの1点のみ。流れの中でのゴールは許しませんでした。厳しい環境下で決して及第点の内容ではなくとも、DFが崩壊しなかった点はザックジャパンの進化を感じています。

 また、攻撃面ではアルベルト・ザッケローニ監督が進めてきたタテに速いサッカーが、よりかたちになってきました。特に先制点はまさに理想といえる点の獲り方でしたね。敵陣まで攻め上がっていた今野泰幸(G大阪)が、PA内左サイドを抜け出した長友佑都(インテル)へ縦に浮き球のパス。そこからのクロスを清武弘嗣(ニュルンベルク)が押し込みました。オマーン守備陣は速い縦パスで態勢を崩され、マークを一瞬見失ってしまいました。だからゴール前で清武の動きについていけなかったのです。

 指揮官の考えるサッカーが代表チームに浸透してきている要因としては、ザッケローニ体制になってから、ほぼ同じメンバーで戦ってきていることがあげられます。選手を大きく入れ替えることなく、着実にチームづくりが進んでいると言えるでしょう。オマーン戦のような内容でも、結果が残せるチームになってきています

 次のヨルダン戦(来年3月26日)に勝てば5大会連続のW杯が決まります。日本としては是非とも次戦で出場権を確定させ、本大会に向けた準備に早めにとりかかりたいところです。その点、3月という日程は日本にとっては追い風です。欧州組の選手はシーズン中ですし、国内組もリーグ戦の開幕に合わせて、キャンプや自主トレで体を仕上げた状態で臨めます。万全を期し、勝ってブラジル行きのチケットを手にしてほしいですね。

 柴崎に求められるゲーム支配力

 また先に挙げたように、11月はJリーグでも喜ばしいニュースが2つありました。ひとつは古巣の鹿島のナビスコ杯連覇です。ご存知のとおり、今季の鹿島はリーグ戦で残留争いに巻き込まれるほど、不振が続きました。そんな中、ナビスコ杯では鹿島の勝負強さが光りましたね。

 特に清水エスパルスとの決勝戦は、“鹿島らしさ”が発揮されたゲームでした。前半は清水の猛攻に耐え、GK曽ヶ端準やDF岩政大樹らが体を張ってゴールを割らせない。鹿島はいくら押し込まれても無理に反撃はしませんでした。一気に攻勢をかけることで組織にズレが生じたり、カウンターを受けるリスクを避けたのです。

 鹿島は落ち着いてボールを支配することで自分たちのリズムをつくり、後半には前線の選手がDFラインの裏に飛び出す場面も増えてきます。これが28分、柴崎の先制PK弾につながりました。直後に追いつかれたものの、選手たちは焦りの様子は見られません。同点のまま延長戦に突入すると、点を獲ろうと前がかりになった清水の守りのギャップを見逃しませんでした。柴崎がスキを突いての勝ち越しゴール。強いチームの特徴は、攻守のメリハリを知っていること。鹿島は「この時間帯は踏ん張りどころ」「今はどんどん攻めるべき時」という意識がチーム全体で共有できていました。

 MVPは2ゴールをあげた柴崎が獲得しました。彼は小笠原満男の後継者といわれ、昨年のファイナルもフル出場を果たしています。ただ、リーグ戦ではレギュラーを掴む段階には至っていませんでした。それが今季は28試合で先発出場。チームの欠かせない主力となっています。

 ただ、彼にはまだまだ成長が必要です。本来、柴崎に求められているのは、味方選手を使うプレー。視野が広く、速くて正確なパスを出せる長所をもっと生かしてほしいと感じています。残念ながら、現状はまだ誰かに使われている場面が目立ちます。小笠原のようにパスの長短やスピードを巧みに変え、試合の流れをコントロールできるようになれば、さらに上が見えてくるのではないでしょうか。

 広島の勝因はケガ人の少なさ

 もうひとつは森保一監督率いる広島のリーグ初優勝です。森保監督はJ創設期に戦い、オフトジャパンでは同じ釜の飯を食った仲間。その彼が率いたチームの活躍は本当にうれしく思います。今季の開幕前、彼が古巣を指揮することがすごく楽しみだと書きました。広島はJリーグ創設から参加している10クラブのなかで唯一、3大タイトル(リーグ、ナビスコ杯、天皇杯)を獲得できていませんでした。森保監督も古巣に栄冠を、と強く思っていたことでしょう。そして、1年で最高の結果を出しました。20年の時を経て選手から監督に立場は変わったものの、シャーレ(リーグ優勝皿)を持っている姿を見て、本当に良かったと思いました。

 広島が優勝した大きな要因は攻守のバランスの良さです。守りでは失点数(33)が第33節終了時点でリーグ2番目の少なさを誇ります。当然のことながら失点を抑えることが負けないための第一条件です。

 守った後の攻撃も機能していました。佐藤寿人のスピードを生かし、相手DFラインの裏をとるパターンが確立されていました。それを示すように佐藤は現在、得点ランクトップに立っています。実は今季の広島を見ていると、昔を思い出すものがありました。まさにリーグ創設時の鹿島に似ているのです。堅守から攻撃を展開し、得点を奪うのはスピードのあるアルシンド。彼も最終ラインの裏へ抜け出すのが得意でした。

 また、広島はレギュラーがケガで離脱するケースがほとんどありませんでした。特に佐藤は相手から激しく体をぶつけられるFWというポジションながら全試合に出場しています。ケガ人が少ないと、チームのサッカーが試合ごとに変化せず、戦い方に安定感が出てきます。逆にケガ人が出てメンバーを大幅に変えざるを得ない状況になると、組織を変えたり、役割分担を変えたりと、チームの構造を途中でいじることになるでしょう。それが監督、選手に迷いやズレを生じさせる結果になり、ピッチ上の結果にも影響してしまいます。故障者をいかに少なくするか。このリスクマネジメントがうまくいったことが優勝の背景にはあると感じました。

 リーグを制した広島は開催国代表としてクラブW杯(12月6日〜)に出場します。森保監督が築いた攻守にバランスのとれたチームが、世界を相手にどんな戦いを見せてくれるのか。試合が待ち遠しいですね。

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://kashima-hsp.com/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。
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