冷たい冬の雨が降る12月15日、お台場の潮風公園が活気に満ち溢れていた。子供から人生のベテランまで、多くの人が様々なウエアーで走り、応援をしている。この日は「お台場EKIDENフェスティバル」が開催され、参加者たちが雨にも負けず走っていたのだ。その中には見覚えのある顔もちらほら見受けられ、それがまた皆を鼓舞することになった。実はこのイベント、「東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会」が主催し開催されたもので、様々なオリンピック種目のアスリートが参加していたのだ。招致の国内支持率をあげたい委員会が、ムーブメントを盛り上げるべく開催しているというわけだ。
(写真:お台場を走る!)
 オリンピック・パラリンピック招致に関しては賛否両論ある。反対派の意見の主流は費用問題で、「そこまでしてこのタイミングで、東京でやる意味があるのか」という懐疑的な見方だ。賛成派はその効果を費用以上のものがあるという計算をし、日本の活性化、景気の浮揚には不可欠という。費用対効果は単純に換算できないものだけに、ジャッジメントは容易ではない。また、アテネオリンピック後にギリシャ経済が傾いたことも事実で、そのハンドリングは慎重に丁寧に行うことが不可欠であろう。

 その議論はさておき、お台場でのEKIDENである。小雨というコンディションながらキッズランや親子レースで子供たちの生き生きとした表情が印象的だった。特に親子レースでは親が先走っているパターンや、逆に親がついていけないペアもいる。きっと普段からのコミュニケーションが、こういうときには出るのだろう。真剣にやっている本人たちには失礼かもしれないが、見ている方は楽しませてもらった。
(写真:親子ランのスタート)

 さらにそれを盛り上げたのはゲストランナーの高橋尚子さん。存在感十分の彼女は、時に参加者の緊張を解きほぐし、時に疲れた参加者を励まし、元気づけと大活躍。ランニングのエヴァンジェリスト(伝道者)として、これほどの適役もいないだろう。
(写真:参加者をサポートする高橋尚子さん)

 その後は、大人の駅伝が開催。見るからに速そうな人や、まったくスポーツの“におい”がしない人、派手な仮装をしている人まで様々。本来、個人スポーツであるランニングだが、「駅伝」という種目になった途端にチームスポーツになる。さらにチームスポーツになれば、皆で楽しむ「お祭り」にもなりやすい。そんなわけで日本では「駅伝を楽しむ」という素晴らしい慣習ができつつある。

 そこに今回の豪華なゲストたち。有森裕子さん、瀬古利彦さんというマラソン界を始め、バレーボール、ビーチバレーボール界からは吉原知子さんや、朝日健太郎さん、浦田聖子さん、バドミントンの潮田玲子さん、体操の米田功さん、自転車競技の竹谷賢二さん、トライアスロンロンドンオリンピックナショナルチームなど、ここには書ききれない他種目スポーツのオリンピアンが勢ぞろいしたのだ。この人たちが舞台の上で手を振るだけでなく、一緒に走るのだから参加者のテンションが上がらないはずがない。

 さらにオリンピアンたちも最初の挨拶では、にこやかな表情を見せていたものの、スタート地点では意外に真剣な表情に。とはいえ現役を離れて長い方や、「走る」という行為に縁がない方々など一般参加者より速くない方も少なくないわけで……。それでも一生懸命に遊ぶことには長けた人たちなので、まじめに走り、楽しんでいるのが伝わってくる。「いやぁ、思わず真剣になってしまいましたが、さすがにダメですね。このままでは終われないので練習します!」という吉原さんのゴール後のコメントがそれを代表している。そんないい雰囲気は伝染するのだろう、会場内の参加者もスタッフも含めて心地良い空間が生まれていた。
(写真:タスキがあるからチームスポーツ)

「一流選手と空間をともにして、スポーツの楽しさを共有する」というイベントの狙いは十分に果たしていたと思われる。だが、果たして本題の「オリンピック・パラリンピック招致ムーブメントの盛り上げ」というのはどうだったのだろうか。無理やりなロジックでこじつけることはできるかもしれないが、正直なところで言うならば、その効果は図りかねる。ただ、それを高めていくためにもスポーツの魅力や、楽しさを実感している人口を増やすことも大切だろう。さらに本物が解き放つ不思議なエネルギーや、それが周りに与える影響を感じてもらう機会は必須である。そういう点では十分に意味のあったイベントになったのかもしれない。

 ともあれ、一生懸命楽しんでいる参加者を見ていると、そんなことを考えることさえ不要に思えてくる。何かのために「スポーツをする」「させる」ということ自体がナンセンスなのかもしれない。
(写真:ゴールは誰にとっても格別)

「スポーツとは遊ぶこと。それも一生懸命遊ぶこと」
 そんなことを考えながら、ラストランナーを迎えてEKIDENはフィナーレを迎えた。

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦している。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための新会社「株式会社アスロニア」の代表取締役に就任。『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)が発売中。
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