「侍ジャパンマッチ2012」と銘打った日本代表対キューバ代表の2連戦は2対0、3対1と日本が2連勝を飾った。
 光ったのは投手力の充実ぶりである。

 来年3月に開催されるWBC本戦では、ダルビッシュ有(レンジャーズ)、黒田博樹(ヤンキース)、岩隈久志(マリナーズ)の不参加が既に決まっている。
 今季、メジャーリーグでダルビッシュと黒田は16勝、岩隈は9勝を挙げた。この、いわば“ビッグ3”が揃って不参加となれば、「1点も取られない投手力中心のチーム」と語っていた日本代表・山本浩二監督の戦略は根本から見直しを迫られることになる。

 ネット裏からは「国内組だけで投手陣は大丈夫か?」との声も上がっていたが、キューバとの2連戦を見る限り、不安は杞憂に終わりそうだ。

 投手陣を預かる東尾修投手総合コーチが、第2戦翌日のスポニチ紙(11月19日付)で興味深い分析を行っていた。<右打者が多い打線に対し、沢村(拓一)のインスラと森福(允彦)の外スラが有効であることが確認できたのは収穫だ。いずれもボールからストライクになる球。沢村は初回、グリエルを見逃し三振に取り、森福は6回、A・デスパイネを外スラで追い込んで最後はインハイの真っすぐを振らせて三振に取った>

 沢村のインスラとは、右打者の内角からホームベースに向けて滑るボール。一方、サウスポーである森福の外スラとは、右打者の外角から、ホームベースに向けて食い込むボール。東尾が言うように、いずれも「ボールからストライクになる球」だ。

 現役時代、スライダーを得意にしていた東尾ならではの分析である。
 右打者の腰を引かせるインコースへのスライダー、いわゆるインスラの開発者こそ東尾である。このボールを用いることで打者は踏み込みが甘くなり、外の球をより遠くに見せることができる。ベース幅43.2センチのストライクゾーンを広く使おうとの狙いがインスラ開発の背景にはあった。

 WBCで優勝候補にあげられるキューバ、米国、韓国には共通した特徴がある。ストライクゾーンが、どちらかといえば内角に厳しく、外角に甘いのだ。幅43.2センチのストライクゾーンを杓子定規にとるのは、野球先進国においては、日本だけだろう。

 現役時代、スピードに恵まれなかった東尾はスライダーやシュートを駆使して打者を翻弄した。いわゆる“柔よく剛を制す”ピッチングで251もの勝ち星を積み上げたのだ。
 プロの同期生である山本は当時から東尾の投球術に一目置いていた。代表監督に正式に就任する前から「オレが(代表監督を)やる時は(投手コーチを)頼むな」と声をかけていたというのだから、信頼の程が窺える。

 西武監督を辞任して以来だから、東尾にとっては11年ぶりのユニホーム。「燃えるものがありますよ」と本人。3連覇の隠れたキーマンと言えよう。

<この原稿は2012年12月9日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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