ロンドン五輪での男女代表の躍進、サンフレッチェ広島のJリーグ初優勝、香川真司のマンチェスター・ユナイテッド移籍……。今年のサッカーシーンもさまざまな話題がありました。その中で私が強く感じたのはJリーグが創設以来、取り組んできた“育成”の成果が実を結び始めたということです。
 ポイチら元Jリーガー指導者も光る

 今年はJリーグが開幕して20年目でした。リーグでは育成にも重点を置き、選手と指導者の養成に力を入れてきました。20年の年月の中で育成のメソッドが確立されたからこそ、ロンドン五輪での男子ベスト4といった結果につながったのです。ロンドン五輪の男子日本代表を見てみると、23人のうち半数以上(13人)がJクラブのアカデミー出身者(ジュニアユース含む)。これは各クラブが世界レベルで戦える選手の育成に成功している証といえるでしょう。

 さらにJリーグでステップアップした若手が海外クラブに移籍するケースも増え続けています。香川や長友佑都(インテル)らがビッグクラブで活躍する姿は、多くの子供たちに夢を与えてくれています。

 そして、指導者も自らが蓄積してきた経験を選手たちに伝えられる人材が増えてきたと感じます。その代表格が広島の“ポイチ”こと森保一監督でしょう。元日本人Jリーガー監督の優勝は、史上初の快挙でした。ポイチがJリーグで培ったものを、どのようにチームへ落としこむか。僕は今季、この点を注目ポイントのひとつにしていました。

 彼は、広島によく整備された堅いディフェンスをもたらせました。選手たちに常に危険なエリアを警戒させ、泥臭くボールを追いかけさせる。まさにポイチの現役時代のプレースタイルです。結果、今季の失点はJ1で最少(34)。攻守のバランスをうまく保ち、頂点へと導きました。

 今や多くの元Jリーガーが全国各地で指導に携わっています。彼らがJリーグや代表で学んだことを特に育成年代の選手たちに継承できれば、日本のサッカーはさらに前進していけるでしょう。

 ゴンに育ててほしいワクワクするFW

 若い選手が台頭すれば、ピッチを去るベテランもいます。ポイチと同じく“ドーハ組”の仲間でもある中山雅史が現役引退を発表しました。日本サッカー界の大きな花が終わりを迎えたことは残念ですが、まずはお疲れ様と言葉をかけたいですね。

 ゴンは引退記者会見で「(現役に)未練たらたら」と語っていたようですが、これは当然のことだと思います。私もそうでした。選手はいつまでも現役でプレーしたいものです。
 ただ、プロである以上はメンタルと体調を100パーセントに高めた状態でピッチに立たなくてはなりません。それができなければ、必然的に自身のパフォーマンスは低下し、結果、チームにも迷惑がかかります。ゴンはヒザの痛みで相当悩んでいたようですね。彼はサッカー、チームに対して本当に真っ直ぐな気持ちを持っています。完治が難しくなり、チームのことを考え、第一線を退く決断をしたのではないでしょうか。

 もちろん現役を終えても、ゴンには立ち止まってもらうわけにはいきません。彼には長い選手生活でつくりあげた財産を子供たちに伝える役割が待っているのです。
 トップレベルで戦ってきた我々が子供たちを指導する上での一番の利点は言葉だけではなく、実際に一流の技を体現できることです。目の前でプレーして見せることで、子供たちにより具体的に教えられます。自分の持っている感覚や理論を見よう見まねで子供たちが実践する。うまくいった時の子供たちの嬉しそうな顔は、指導者にとって大きな喜びです。逆に、うまくいかなかった時は、「なぜ、できないんだ」とはがゆい気持ちを抱く。ゴンもコーチライセンスの取得を考えているようですから、そういった指導者としての醍醐味を味わうでしょう。

 彼はどんな時も献身的に動き、最後まで自分の役割をやり通せる選手でした。「苦しい時はオレが何とかしてやる」という気概を持っていました。ですから、ゴンにはそういうスピリットを選手たちに植え付けてほしいと思います。

 残念ながら現状の日本には、絶対的な点取り屋はいないと言わざるを得ません。たとえば岡崎慎司(シュツットガルト)のように泥臭く、ゴール前に飛び込んでいけるタイプと、大迫勇也(鹿島)のように高さもあり、器用なプレーもこなせるタイプ。この2つを融合させたストライカーが必要とされています。全盛期のゴンは、その両方を兼ね備えた選手でした。だからこそ“コイツにボールが渡れば何かが起こる”という期待を抱かせてくれるFWをぜひ育ててほしいですね。

 コンフェデ杯、本気の王国に注目

 さて、来年はブラジルW杯の前年となります。アジア最終予選を戦っている日本は、3月のヨルダン戦(アウェー)で勝利すれば5大会連続の本大会出場権を得ます。
そんな大事な一戦でポイントになるのは、立ち上がりの入り方です。今年6月に日本で戦った時とは違い、ホームのヨルダンは攻勢を仕掛けてくることが予想されます。日本も攻撃的に出て、わざわざ泥仕合に持ち込む必要はありません。相手の攻撃をしっかりとしのいだ上で、主導権を握りたいですね。

 ヨルダン戦で出場権を手にすれば、日本は3大会連続でW杯出場一番乗りとなります。何であっても世界で一番というのは誇らしいものです。そういった意味でも、着実に勝ってブラジル行きを決めてほしいですね。

 そして、6月にはW杯のプレ大会となるコンフェデレーションズカップが控えています。この大会は、すべてが1年後の本大会に向けてのシミュレーションです。ピッチ内では各大陸優勝国をはじめとした強豪と対戦できます。日本はブラジル、イタリア、メキシコと同組になりました。

 特に注目したいのが開催国・ブラジルとの開幕戦です。今年10月の欧州遠征でも対戦しましたが、会場はポーランドでした。今回のブラジルはホームでの試合になりますから、絶対に負けるわけにはいきません。コンフェデ杯では欧州遠征の時よりも勝利にこだわる本気の王国を体感できるでしょう。そんなブラジルに日本はどうぶつかるのか。いちサッカー人として今から非常に楽しみです。

 この大会は欧州遠征と同様、自分たちのサッカーが世界でどれぐらい通用するのかを確認する場でもあります。本大会に向けて、フィジカル面や戦術面で通用しなかった点を見つけ出し、改善する機会にしてほしいですね。

 また、大会の開催時期はW杯本大会と同じですから、ピッチ外の部分でもリハーサルができます。現地の気候や、移動手段、食事……いずれも現地の様子を肌で感じた上で本番に臨めるのは大きな強みです。選手、スタッフにとって、有意義なブラジル遠征となることを望んでいます。

 早いもので来年は、あの“ドーハの悲劇”からちょうど20年となります。あの悲劇こそ日本サッカーが世界のトップクラスに昇り詰める出発点だったと語り継がれるよう、サッカーを頑張っている子供たちのために、よりよい環境づくりに引き続き携わっていきたいと思っています。来年もどうぞよろしくお願いします。

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://kashima-hsp.com/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。
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