アイランドリーグが現在、各地でトライアウトが行われています。最多勝を挙げた山野恭介が広島に帰りますし、このオフは3名ほどピッチャーを補強予定です。春先から気になっていた選手がうまく獲得できそうで、早くも来季が待ち遠しくなってきました。
 ここまで関西、関東、九州と3会場で実施されたトライアウトの中で、一番印象に残ったのは鹿児島城西高から受験した中村正利君です。左腕で、かつ真っすぐが素晴らしかったですね。冬場にも関わらず、球速は143キロが出ていました。高校生にしては下半身がどっしりしており、性格もまじめそうです。今春の県大会では優勝投手になるなど実績も充分。特別合格者としてリーグ入りが決まりましたから、ファンの皆さんには、ぜひ注目してもらいたいですね。

 今季の香川はリーグ制覇を達成したものの、独立リーググランドチャンピオンシップでは、僕の古巣でもある新潟アルビレックスBCに3タテをくらってしまいました。正直、内容は完敗と言っていいでしょう。エースの寺田哲也を中心にピッチャーはストレートに伸びがあり、かつコントロールが良かったです。バッターもタイミングを崩されても自分のスイングができるところが立派でした。ワンランク相手が上だったと認めざるを得ません。

 ただ、そのくらいレベルの高い彼らでも、残念ながらNPBのドラフトでは指名がありませんでした。力的には十分、指名されてもおかしくない選手たちですが、それでも声がかからなかったのですから、NPBはもっと上のレベルの世界であることを香川の選手たちも思い知ったはずです。悔しい3連敗で、チームに残留する選手は目の色を変えて、オフのトレーニングに励んでいます。独立リーグ日本一奪還はもちろん、その先を見据えて力をつけてほしいと感じています。

 特に来季のカギを握るのは、この1年を経験した2年目の選手です。渡辺靖彬後藤真人中野耐の3投手には大いに期待しています。彼らが一本立ちすれば、実績のある酒井大介大場浩史、そして新人選手を加えてピッチングスタッフはかなり充実します。

 3投手に共通する課題は精度の向上です。渡辺は前回も取り上げたように、この1年でかなりのレベルに達しました。リーグチャンピオンシップやグランドチャンピオンシップで初戦の先発を任せられるほど、ピッチングが安定してきています。しかし、NPBは1球の失投も逃してくれません。右のオーソドックスなタイプゆえに、スカウトにアピールするにはコントロールの良さをより追求しなくてはいけないでしょう。

 また後藤は左のスペシャリストとして、来季はフル回転してもらうつもりです。制球に難がありましたが、1年間、試合で投げる中でだいぶまとまりが出てきました。渡辺同様、よりコントロールが見につけば、来季のドラフト指名も夢ではないと思います。

 コントロールを良くするためには、何よりフォームを安定させることが第一です。そのために求められるのは下半身強化。オフに入ってからのトレーニングでは徹底的に走り込みを続けています。

 NPBでは1軍となると、試合数はアイランドリーグの倍近くになります。もちろん技術も重要ですが、その前に体力がなければ勝負になりません。これは今回、ドラフト指名を受けた星野雄大(ヤクルト5位)や水口大地(西武育成1位)にも言えることです。このオフでフィジカルを強化し、1月の合同自主トレから目立つこと。それが早期に1軍へ行くための第一歩だと思います。幸い星野も水口も香川に残り、しっかりとトレーニングが積めていますから、年明けからいい状態でキャンプを迎えてほしいですね。

 僕にとって1シーズン通じてコーチをするのは初めての経験となりました。投手担当としては昨年に続き、NPBに選手を送り込めなかったのは残念です。振り返ってみると、どうしても起用が実績のある選手や外国人頼みになり、若手にチャンスを与えて成長の機会をつくれなかった点が反省材料として残ります。やはり選手は実戦で投げないと伸びません。

 ただし勝敗を争い、競争の世界に生きている以上、すべてを度外視して単に若手を使うことは無理な話です。チャンスを与えるだけで、それが本人の成長につながらないのであれば意味がありません。やはり、いくら経験のない選手たちとはいえ、日頃の練習で監督が使ってみたい、育ててみたいと思うレベルまでは高めていく必要があるでしょう。

 それには時として厳しく選手に接することも求められているのかもしれません。一方で、ただ頭ごなしにやらせるのではなく、本人の自覚、ヤル気を引き出すアプローチも大切でしょう。こういった指導の方法については、このオフ、いろいろな本を読んで勉強しています。

 今季の初めに「投手王国をつくること」を目標に立てました。選手の頑張りで、チーム防御率2.58はリーグトップを記録し、一定の成果を収められたと思います。来季はさらに投手力をあげ、独立リーグ日本一と、ドラフト指名を目指して、全員で頑張ります。来季もどうかよろしくお願いします。


伊藤秀範(いとう・ひでのり)プロフィール>:香川オリーブガイナーズコーチ
 1982年8月22日、神奈川県出身。駒場学園高、ホンダを経て、05年、初年度のアイランドリーグ・香川に入団。140キロ台のストレートにスライダーなどの多彩な変化球を交えた投球を武器に、同年、12勝をマークして最多勝に輝く。翌年も11勝をあげてリーグを代表する右腕として活躍し、06年の育成ドラフトで東京ヤクルトから指名を受ける。ルーキーイヤーの07年には開幕前に支配下登録されると開幕1軍入りも果たした。08年限りで退団し、翌年はBCリーグの新潟アルビレックスBCで12勝をマーク。10年からは香川に復帰し、11年後期より、現役を引退して投手コーチに就任した。NPBでの通算成績は5試合、0勝1敗、防御率12.86。
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