今季のアイランドリーグで一番のビッグニュースは、なんと言っても高知出身の角中勝也(千葉ロッテ)がパ・リーグの首位打者、ベストナインに輝いたことでしょう。そればかりではなく、来春に行われるWBCの日本代表候補にも選ばれました。このリーグからNPBのタイトルホルダーや代表選手が現われるのは何年先になるかと思っていただけに、リーグ創設から10年足らずで夢を叶えてくれた角中の頑張りは、本当にうれしいの一言です。
 こんな喜びを味わえるのも、曲がりなりにも8年間、リーグを継続して運営してきたからこそ。今季も含め、リーグからは35名のドラフト指名選手が生まれました。中には残念ながらNPBでは花開かなかった選手もいますが、毎年、人材を供給し続けてきた結果として、角中のような存在が出てきたのだと感じています。彼のおかげで今後、第2、第3の角中を目指そうと、独立リーグでのプレーを選択肢に入れる若者も出てくるはずです。日本に独立リーグが定着し、さらに発展する上でも、彼の快挙は大きな意義があったと思います。

 今季のアイランドリーグでは、米国の独立リーグから外国人選手を各球団で2名ずつ雇い、NPBへアピールする機会を設ける試みを始めました。その中から香川のアレッサンドロ・マエストリがシーズン途中でオリックスに移籍し、8月からの2カ月で4勝をあげました。これは100点満点とも言える成果です。マエストリ効果は絶大で現状、さまざまなエージェントから「アイランドリーグでプレーさせたい」との選手の売り込みをもらっています。

 このような状況であれば、今季のようにリーグが窓口になって選手を割り振らずとも、各球団が戦力に応じて外国人を補強する方法が十分可能です。外国人の場合、いくら実力はあっても環境になじめず、帰国してしまうケースも少なくありません。実際、高知に来た選手は長打力はズバ抜けていましたものの、2カ月足らずで帰国してしまいました。すぐに代わりを呼べれば良かったのですが、今季は提携していたエージェントが1社だったため、簡単には選手が見つからず、高知が苦戦を強いられる結果になってしまいました。

 ですから、来季はリーグに来ているエージェントからの情報をすべて各球団に渡し、それぞれに交渉して獲得する方法を採用しようと思っています。月3000ドル程度でいい選手を雇えますから、1ドル80円台の今なら他の日本人に少し金額をプラスする程度。球団経営を圧迫しない範囲で、うまく外国人を採用できる環境になっています。来季以降も、ぜひマエストリのようにアイランドリーグを経由してNPBで活躍する助っ人を輩出し、世界にもリーグの存在をアピールしたいものです。

 そして、以前から要望していたNPBからの育成選手派遣も開幕前に実現しました。リーグでは3名の選手を受け入れ、広島から来た山野恭介が16勝をあげて年間MVPと最多勝のタイトルを獲得しています。山野にとっては1年間、実戦経験を積むことで、このリーグがステップアップの場となったはずです。彼が支配下登録され、1軍で活躍すれば、派遣成功のモデルケースとなるでしょう。NPB側にも働きかけて、このオフには外国人に限って1年目から独立リーグへの選手派遣が認められ(日本人は従来通り2年目から)、来季はさらに受け入れ数が増えるかもしれません。

 一方で山野が好成績を収めた背景には、リーグのトライアウトを経て採用した選手たちの力量が不足していた面も否めません。事実、今季のドラフト会議ではリーグから指名を受けたのは2名にとどまっています。宮崎で行われたNPBの秋季教育リーグ(みやざきフェニックス・リーグ)でもリーグ選抜チームは1勝13敗4分で最下位に終わりました。NPBクラス相手に結果を出してアピールすべき選手たちが、この内容ではやや寂しいと感じます。

 いかにいい素材を集めて育成するか。外国人やNPBの育成選手を受け入れる中で、これはリーグの課題のひとつになってくるでしょう。特に若くて伸びしろのある高卒選手、10代の選手をもう少し増やしていきたいと考えています。角中にしても高校からリーグにやってきた選手です。ロッテで大ブレイクするまで時間はかかりましたが、まだ25歳。独立リーグでは、すぐNPBに行くような即戦力はなかなか獲得しづらいだけに、若手をリーグでじっくり鍛えることが大切になってきています。

 ただ、アマチュア関係者に話を聞くと、近年は大学全入時代に突入し、将来を考えて大卒資格の取得を希望する選手が多いようです。もし、それが若い選手にとってチャレンジの障害になるなら、リーグとしてもサポート体制を整える必要はあるでしょう。たとえば地元の大学に、選手が希望すればオフシーズンや休日を利用して単位が取得できるようにするのも一案かもしれません。四国の大学も少子化の影響で定員割れをしているところが多くなっています。そういった学校へ選手が入るのは、大学にとってもメリットがある話ではないでしょうか。

 現実問題、リーグに来た選手のうち、NPBに行けるのは、ほんの一握りです。もし野球で夢が叶えられなくても、四国で学んだことが第二の人生で役立つのであれば、その場を提供するのもリーグの役割だと思っています。この点は大学関係者の意見も聞きながら、選手採用のひとつのオプションとして、システムを構築していくつもりです。

 選手育成では、逆に海外へ選手を送り込む方法も模索しています。NPBでは若手がドミニカやプエルトリコ、台湾などのウインターリーグにどんどん参加して実戦機会を増やしています。アイランドリーグも一時期、オーストラリアのリーグに選手を派遣していたことがありましたが、今はメジャーリーグから大量に選手が集まってきており、なかなか入りこめないのが実情です。エージェントを通じ、米独立リーグとのパイプもできてきましたから、単に外国人を受け入れるだけでなく、逆にこちらから選手を出して武者修行をさせるのも良いでしょう。早ければ来年中に実現できるよう、さまざまなルートで可能性を探っています。

 創設当初は不安視されていた経営面も、昨年度は高知が初めて単年黒字を計上するなど軌道に乗ってきました。他球団も赤字幅はかなり縮小し、近い将来の黒字が見えてきています。決して景気状況が良くない中、各球団がスポンサーを増やしている点は、地域に密着した活動の成果だと評価しています。

 そして、さらに経営基盤を強化すべく、来年は全国から広く共同オーナーを募集したいと考えています。「プロ野球チームのオーナーになりたい」。これは野球好きの経営者であれば、一度は夢見る話ではないでしょうか。プロ野球選手になるのは難しくても、プロ野球のオーナーになることはお金と愛情があれば可能です。とはいえNPB12球団のオーナーは、何10億円もの莫大な資金が必要。これがアイランドリーグであれば、数100万円単位で共同オーナーとして球団経営に関われます。

 これまでは球団経営も苦しく、高知や徳島のようにオーナー探しに四苦八苦した時期もありました。今回は、その頃のオーナー募集とは意味合いが異なります。8年間、リーグが存続し、経営が安定しつつある中、一緒にお金を出し、意見を出し合い、夢を見よう。そんな前向きな話なのです。オーナーになれば、経営はもちろん、運営や監督人事、戦力補強にも携われます。まさに人気ゲームの「プロ野球チームをつくろう!」がリアルの世界で体験できるでしょう。今まで独立リーグは若者にとって夢を叶える存在でしたが、今後は少しお金に余裕のある大人にとっても夢を与える場所になればと感じています。

 今季はBCリーグ王者とのグランドチャンピオンシップでは2年連続で敗れ、ドラフトの指名数でも追い抜かれてしまいました。来季は独立リーグ日本一を奪回し、NPBにより多くの選手を送り込めるよう、お互いに切磋琢磨しながら盛り上げていきたいと考えています。2013年はリーグが9年目に突入し、いよいよ節目の10年が近づいてきました。日本に独立リーグの文化を定着させ、多くの人に認めていただけるよう、この点はBCリーグとタッグを組んで取り組んでいきます。

 リーグをより知っていただくために、四国以外で公式戦を実施する構想も練っています。多くの方にぜひ一度、アイランドリーグの試合を見ていただきたい。そして、また球場に足を運びたいと思っていただける試合をお見せしたい。その思いで来季も各球団と知恵を絞っていきます。今年1年間の厚いご支援、ご声援、本当にありがとうございました。新たな年も引き続き、よろしくお願いします。


鍵山誠(かぎやま・まこと)プロフィール>:株式会社IBLJ代表取締役社長
 1967年6月8日、大分県出身。徳島・池田高、九州産業大卒。インターネットカフェ「ファンキータイム」などを手がける株式会社S.R.D(徳島県三好市)代表取締役を経て、現在は生コン製造会社で経営多角化を進める株式会社セイア(徳島県三好市)代表取締役社長、株式会社AIRIS(東京都千代田区)代表取締役。10年10月にはコミックに特化した海外向けデジタルコンテンツ配信事業を行なうPANDA電子出版社を設立。アイランドリーグ関係では05年5月、徳島インディゴソックスGMに就任。同年9月からIBLJ専務取締役を経て、07年3月よりリーグを創設した石毛宏典氏の社長退任に伴って現職に。07年12月より四国・九州アイランドリーグCEOに就任。
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