北島隆(東京都スポーツ文化事業団スポーツコミッションTOKYO副機構長)<後編>「デフリンピックのレガシー」
二宮清純: 今回のデフリンピックで話題になったのが、サインエールという応援スタイルです。手話言語をベースに考案された日本発のものだそうですね。
北島隆: その通りです。大会に向けた準備をしていく中、機運醸成を担当していた都庁の担当者が中心になり、ろう者とともに聴覚に障がいのある方にも届く応援をつくろうと考えました。
二宮: デフリンピックの約1年前に行なわれたデフ陸上の日本選手権でサインエールを披露したところ、選手からも好評だったとか。
北島: 複雑な動作がなく観客の方も分かりやすい応援の仕方で、選手にとっても競技の邪魔にならないので、非常に好評でした。
伊藤数子: 会場全体の一体感がすごかったですね。
北島: ありがとうございます。本音を言うと、想像以上に皆さんに広がったところもある。聴覚に障がいのある人のためだけの応援というものではなく、誰もが参加できる新しい応援スタイルをつくれたことは、デフリピックのレガシーのひとつだと思っています。
二宮: 大会の成功の要因として、2021年に開催された東京パラリンピックの影響も少なくありません。
北島: 私は、2021年の東京パラリンピックがハードのバリアフリーが進んだ大会だったと感じています。例えば段差が少なくなることで利益を得るのは、障がいのある方たちだけではありません。ベビーカーを使用する方、足が悪くなってきているお年寄りの方にとっても住みやすい社会になるわけです。それがパラリンピックの効果の一つだった、と。さらに今回のデフリンピックでコミュニケーションのバリアフリー化が進むと思っていました。
二宮: 具体的には?
北島: コミュニケーションのバリアフリー化は、いろいろなかたちでクリアできるという気付きを得られたことだと思っています。例えば東京都の保有施設に設置した透明ディスプレイです。ディスプレイに向けてしゃべった言葉を字幕で表示し、可視化するデバイスです。障がいの有無だけにとどまらず、言語の壁を越えた円滑なコミュニケーションが図れます。
苦情はゼロ件
二宮: パラリンピックやデフリンピックは、社会変革の実装実験という側面もあります。
北島: 耳が聞こえにくくなるのは、年齢を重ねていけば誰しもに起こり得ることです。それを他人事ではなく、自分の事のように思っていただくことができたのではと考えています。
二宮: 大会運営本部、輸送のハブ、メディアセンター、練習会場などの拠点として、大会期間中にオープンしていたのがデフリンピックスクエアです。私も足を運びましたが、最新の電動モビリティを体験するコーナーには行列ができていました。
北島: おかげさまでデフリンピックスクエアには、約5万人の来場者がありました。オリンピック・パラリンピックにはナショナルスタジアム、選手村、オリンピックパークの三大施設があります。今回のデフリンピックスクエアは、選手同士が交流を深める選手村、選手と一般の方がコミュニケーションを取れる場のオリンピックパークという2つの施設を兼ねたものを実現しようと考えていました。
伊藤: 手作り感があり、すごくいい雰囲気でした。
北島: 各出展企業や、全日本ろうあ連盟など、各部所が持ち寄ってきたものをパッチワークのように縫い合わせてできたのがデフリンピックスクエアです。たくさんの人たちに支えられ、ひとつになってできたものだと思っています。またデフリンピックスクエアに対する苦情が1件もなかったのは、うれしい驚きでした。
二宮: デフリンピックが閉幕し、約半年が経ちました。今後はどのような活動を?
北島: 今、デフリンピックの大会準備・運営に関わってきた東京都スポーツ文化事業団デフリンピック室は、6月をもって一旦形式上、解散します。今後は当事業団の中に新設したスポーツコミッションTOKYOという部署が、オリンピック・パラリンピック、世界陸上、デフリンピックのレガシーを引き継ぐ実働部隊として活動していきます。今回のデフリンピックを通じ、つくってきた共生社会実現のための土を、耕し、少しでも多くの花を咲かせるよう頑張ります。
(おわり)
<北島隆(きたじま・たかし)プロフィール>
公益財団法人東京都スポーツ文化事業団スポーツコミッションTOKYO副機構長。1967年、東京都出身。法政大学卒業。1992年、東京都に入庁。様々な大規模イベント等の事業に従事。2009年、東京2009アジアユースパラゲームズでは運営総括を務めた。東京2020オリンピック・パラリンピックでは、選手村運営の総責任者であるヴィレッジ・ゼネラル・マネジャー(VGM)を務めた。東京2025デフリンピックでは、デフリンピック準備運営本部チーフ・オペレーティング・オフィサー(COO)として大会運営全体を統括した。2026年4月から現職(企画推進室長・デフリンピック室長兼務)。趣味は園芸、文房具。好きなスポーツはサッカー、ゴルフ。