北島隆(東京都スポーツ文化事業団スポーツコミッションTOKYO副機構長)<前編>「『みんなでつくる』デフリンピック」

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 昨年11月15日から26日にかけて12日間にわたって行なわれた東京2025デフリンピックは、21競技が実施され、当初の目標10万人を大きく上回る28万人もの観客を集めた。公益財団法人東京都スポーツ文化事業団のデフリンピック準備運営本部チーフ・オペレーティング・オフィサー(COO)として大会運営全体を統括した北島隆氏に大会を総括してもらった。

 

二宮清純: 今回のデフリンピック、これまでの国際スポーツ大会とは違い、広告代理店に頼らず、スポンサー獲得に成功したと言われています。

北島隆: 実は大手の代理店に相談したら、「スポンサーなんか取れるわけありません」ときっぱり言われました。セールスシートを含め、自分たちでやらざるを得なかったんです。実際、当初はテレビ放映も予定されていませんでしたし、いわゆるメディア価値というものは、ほぼゼロに等しかった。

 

伊藤数子: そこからどう積み上げていったのでしょう?

北島: じゃあ、どうしようかと考えた時、多くの方に協力をしていただくことがひとつポイントだと思っていました。大会のコンセプトは「みんなでつくる」。オリンピックのようにそれぞれの役割がきっちり決まっていなくても、いろいろな人たちの力を借り、大会をどうにかうまく進めていこうという発想です。皆さんにずっとお願いしていたのは、「共生社会に向かって、この大会を通じて一緒に土をつくる機会としてほしい」ということでした。

 

伊藤: 有名になった言葉です。いろいろな記事やインタビューで拝見しました。

北島: 大会は東京、福島、静岡の1都2県の21会場で21競技が行なわれました。私は21の植木鉢という言い方をしました。我々が耕せるものは、21の競技会場しかない。この先、どれだけ土を広げられるかが問題なんだ、と。なぜ土という表現にしたかというと、これまで私もパラスポーツにずっと長く携わってきました。パラスポーツ関係者がすごく一生懸命、パラスポーツ、デフスポーツのことを育てようと種を撒いてきた姿を見てきました。でも、なぜかそれは育たなかった。私がデフリンピックの開催準備に関わるようになった時、考えたのは「これまではコンクリートの上に種を撒いていたんじゃないか」ということです。コンクリートの上では、芽が出たとしても、根を張ることも実をつけることもありません。だから関係者たちが種を蒔いた時に、種がきちんと育つ肥沃な土をつくることが、この大会の目的だと考え、それで「土をつくる」という表現をずっと使っていたんです。

 

目標の約3倍

二宮: 競技会場には28万人の観客が集まりました。当初の目標10万人を遥かに上回るものでした。

北島: 10万人と言っても、約20会場ですから、各競技会場5000人が必要になってきますから簡単な数字ではありませんでした。しかしフタを開けてみたら、3倍近い28万人もの方に来ていただいた。それは我々としても想像を超えた世界でした。

 

伊藤: お客さんも含め、「みんなでつくる」大会を実現できたということですね。

北島: そこがすごく大きかったと思います。特に協賛企業の方は、通常の協賛とは全く違うかたちでした。普通、協賛をお願いする際、「じゃあ広告として見た時にどれぐらいの価値があるんですか」「バナーの大きさどのくらいですか」と費用対効果を見るんです。ところが今回は、「何か手伝わせてください」という反応がとても多かった。

 

伊藤: それはうれしい反応ですね。

北島: 既にボランティア募集は約6倍近い倍率で抽選していましたので、外れた方のことを考えれば、協賛社の方にボランティアをお願いするわけにはいきませんでした。それで今回は協賛で、「大会のお手伝いができる権利」を付与したんです。そういった意味でも、「みんなでつくる」大会になったと自負しています。

 

二宮: それにしても「お手伝いができる権利」とは斬新ですね。

北島: その通りです。今回はコーヒーショップのスターバックスにもご協力いただきました。実はスターバックスはこれまで協賛を出したことがないそうなんです。ただ、今回のデフリンピックの理念と、スターバックスという企業が持つスターバックスのインクルージョン&ダイバーシティの考え方「NO FILTER」に相通じるものがあった。「NO FILTER」には障がいの有無や人種、性別、価値観などの違いを超えて、誰もが自分らしくいられる社会を目指そうという想いが込められています。それで共生社会やダイバーシティを実現できる場を一緒につくりませんかということで、聴覚に障がいのある従業員が手話を中心に接客するカフェ「サイニングカフェ」をデフリンピックスクエアにつくっていただきました。これは選手たちにも好評でした。今回のデフリンピックは、そういったものを一つひとつ積み上げていき、パッチワークのようにかたちづくっていった。大会の12日間を通じて、共生社会という花を少し咲かせることができたと思っています。

 

(後編につづく)

 

北島隆(きたじま・たかし)プロフィール>

公益財団法人東京都スポーツ文化事業団スポーツコミッションTOKYO副機構長。1967年、東京都出身。法政大学卒業。1992年、東京都に入庁。様々な大規模イベント等の事業に従事。2009年、東京2009アジアユースパラゲームズでは運営総括を務めた。東京2020オリンピック・パラリンピックでは、選手村運営の総責任者であるヴィレッジ・ゼネラル・マネジャー(VGM)を務めた。東京2025デフリンピックでは、デフリンピック準備運営本部チーフ・オペレーティング・オフィサー(COO)として大会運営全体を統括した。2026年4月から現職(企画推進室長・デフリンピック室長兼務)。趣味は園芸、文房具。好きなスポーツはサッカー、ゴルフ。

 

>>東京都スポーツ文化事業団

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NPO法人STAND代表の伊藤数子さんと二宮清純が探る新たなスポーツの地平線にご期待ください。

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