二宮: 北海道日本ハムでの5年間のコーチ生活、お疲れ様でした。今回は慰労も兼ねてそば焼酎「雲海」を用意しました。グラス片手に積もる話ができればと思っています。
吉井: ありがとうございます。お酒はあまり強くないのですが、楽しくいただきます。酔っ払って、あまり話し過ぎない程度で(笑)。

 お酒でスタメン決定!?

二宮: 現役時代に伺った話で面白かったのが、亡くなった仰木彬さんは近鉄の監督時代にお酒を飲んだ順番で先発を決めていたと。これは本当ですか?
吉井: 本当です。北海道遠征に行った際に、チームの飲み会が盛り上がって、仰木さんが「おい、これから飲んだ順にスタメン決めるぞ」と(笑)。その時は僕たちリリーフ投手陣は関係なかったのですが、後日、先発の小野和義さんが1軍復帰して誰かピッチャーを2軍に落とす必要が出てきた。それも仰木さんはお酒の飲み比べで決めたんです(笑)。

二宮: アハハハ。それはものすごい決め方ですね。
吉井: 候補に挙がったのが僕と加藤哲郎と品田操士。結果は品田が途中でギブアップして2軍に行きました。おそらく監督の考えでは、誰が2軍に行っても良かったのでしょう。お酒の飲みっぷりで1軍に本気で残る気があるのか確かめたかったのかもしれません。

二宮: 当時の近鉄は豪快な選手が多かったですね。選手の中で一番お酒が強かったのは?
吉井: 印象に残っているのは大石大二郎さんですね。キャンプで夜、飲みに出かけたら、翌朝、8時の体操の時間ギリギリまで楽しんでいましたから。午前中の練習もウォーミングアップの時点では、まだ酔っ払った状態でしたよ(笑)。でも、練習メニューは普通どおりこなすのでビックリしました。

二宮: ピッチャー仲間では?
吉井: 野茂英雄と佐野慈紀はすぐ酔っぱらうんですけど、かなりの量を飲んでいましたね。野手では石井浩郎さんもお酒好きでした。マージャンも強かったんですけど、飲めば飲むほど負け始める。だから一緒に雀卓を囲む時は、どんどん石井さんにお酒を勧めていましたよ(笑)。

二宮: 今回はそば焼酎「雲海」をソーダ割りにしてみましたが、いかがですか?
吉井: 焼酎は、これまで主にお湯割りで飲んでいました。男ならお湯割りがツウな感じがするじゃないですか。だからソーダ割りは初めてです。口当たりが良くておいしいですね。

二宮: そば焼酎はクセがないところが飲みやすい要因かもしれません。
吉井: 先程も言ったように、僕はあまりお酒が強くないのですが、これならスイスイ飲めます。後味がスッキリしているのがいいですね。

 コーチ辞任の真相

二宮: 今季、日本ハムは栗山英樹監督の下、リーグ優勝を果たしました。絶対的エースのダルビッシュ有(レンジャーズ)が抜けたにもかかわらず、投手コーチとしてうまく投手陣をまとめた吉井さんの功績は大きかった。しかし、このオフ、コーチを辞任することになりました。
吉井: 栗山監督とピッチャーの起用法について考え方の相違があったのは事実です。でも、チームが勝つために、いろいろ話し合いを重ねるのは悪いことではありません。議論することに関しては、監督も僕も何とも思っていませんでした。最終的に決断するのは監督ですから。ただ、その監督と僕の間で意見が異なることが、選手たちにも伝わってしまった。これは組織としてひとつになって戦う上で決して良いことではありません。それなら自分が身を退くべきだろうと辞任を決断しました。

二宮: 野手出身の監督は、どうしてもピッチャーを早め早めに代えて、相手打線を抑えようとする傾向があります。しかし、投手コーチの立場としてはリリーフ陣が酷使にならないよう選手を守りたい。その部分で折り合わないケースが少なくないですね。
吉井: 僕もピッチャーの心身のコンディションをいい状態に保つことを最優先にして、コーチの仕事をやってきました。自身の経験からも、ピッチャーはマウンドには気分良く上がりたい。心の中に余計な感情が入ると集中できず、結果が出ないものです。だからリリーフ投手にはしっかり役割を与え、出番に向けて準備しやすいような態勢を整えようと考えていました。ただ、監督は6〜8回に関して相手の打順や点差に応じて臨機応変にピッチャーを起用したいとの考え。そうなると、たとえば増井(浩俊)が7回に出てきたり、8回に出てきたり、ビハインドの展開でも投げることになる。増井が故障でもしたらブルペンは大変なことになりますから、監督には「大事に使いましょう」と進言をしていました。

二宮: 栗山監督は納得していましたか?
吉井: それは分かりませんが、お互いに譲るところは譲っていたと思います。僕の意見を受け入れていただいたこともありますし、監督の意向に沿ったこともあります。今季、「日本ハムはダルビッシュが抜けて苦しい」と予想されていましたけど、先発陣はコマが揃っていました。開幕前の構想では武田勝にボビー・ケッペル、ブライアン・ウルフ、多田野(数人)、八木(智哉)……。ここに佑ちゃん(斎藤佑樹)と吉川(光夫)が加われば十分、頭数はいましたから。

二宮: ただ、どの選手もダルビッシュのような完投数は見込めない。つまり、優勝争いに加われるかどうかのカギはブルペンが握っていると?
吉井: その通りです。宮西(尚生)、増井、そしてクローザーの武田久。少なくともこの3人がしっかりすれば、何とか戦えると感じていました。だからこそリリーフ陣を1年間、いかに持たせるかが、今季の一番の仕事だと考えていたんです。

 斎藤は自分の映像を見なかった

二宮: 今季を振り返ると、まず開幕投手は斎藤でした。そこで勝って5月までは良かったのですが、夏場以降は結果が出なくなり、2軍落ちも味わいました。今のままでは通用しないという厳しい声も上がっていますが……。
吉井: 僕たちの佑ちゃんに対する評価と、周囲の評価がズレている部分があるかもしれませんね。僕は入団当初から彼を大卒のルーキー投手として1年1年段階を踏んで成長させていくつもりでした。しかし、周囲は即戦力として期待するし、本人もその気になっている。素材はいいだけに焦らないようにしてほしいと感じていました。

二宮: 即戦力としては厳しいと感じた理由は?
吉井: いいボールを投げられる確率が高くなかったんです。おそらく大学で結果を求められて、いいボールを投げるという作業が二の次になっていたのでしょう。だから1年目はいいボールを投げる感覚をつかんでほしいなと思いながら練習に取り組ませていました。

二宮: 専門家に聞くと、踏み出した前のヒザが突っ張って上体にうまく力が乗っていないとの指摘があります。吉井さんの見解は?
吉井: 決して良くないフォームですよ。ボールを前で放そうとする意識が強すぎて、手だけが前に行っている。本当に球持ちのいいピッチャーは、手だけではなく、体ごと粘って前に出てきているんです。下半身でしっかり踏ん張って、その力が上半身に伝わって、最後に腕が出てくる。「ボールを前で放す」という意味を勘違いしている面がありましたね。

二宮: それは指摘しても直らないのでしょうか?
吉井: いや、僕は敢えてピンポイントでアドバイスはしなかったんです。ズバリ指摘して直すのは簡単ですが、いいところもダメになってしまう恐れもある。それに、自らが気づいてくれないことには、今後、再びフォームが狂った際にどうしたらいいのか分からなくなってしまいますから。僕は佑ちゃん自身がいいフォームを取り戻してくれるようなヒントをいろいろと伝えて実践させてきたつもりです。それで1年目の終わりには、だいぶフォームが良くなってきた。今季も春先はいい投げ方をしていたから勝てたんです。

二宮: それが1年間通じなかったのは、相手に研究された側面もあるのでしょうか?
吉井: 佑ちゃんに関しては自滅の部分が大きいですね。開幕当初のピッチングを継続していれば2ケタ勝てたはずです。せっかく結果が出ていたのに、本人は「たまたま勝てているだけ」と試行錯誤しているうちにフォームが崩れてしまった。本来なら、そこでビデオを見たりして修正するものですが、実は佑ちゃんにはあまり自分の映像をチェックする習慣がなかったんですよ。

二宮: 研究熱心でクレバーな印象を持っていましたから、それは意外ですね。
吉井: だから今までは自分のイメージと感覚だけで投げていたんです。当然、それでは感覚と実際のピッチングとのズレが生じます。この秋、たまたま僕が彼のフォームを映像で見ていて、それを目にした佑ちゃんはビックリしていましたからね。「え、僕、こんな投げ方しているんですか? イメージと全然違う」って。映像を踏まえたイメージトレーニングの大切さには気づいたはずなので、来季以降は変わってくるのではないでしょうか。

二宮: 栗山監督は開幕投手を託したくらいですから、彼に対する期待が大きかったと思います。7月末に2軍落ちを決断する際には、かなりの葛藤があったのではないでしょうか。
吉井: ファーム行きに関しては監督と僕の間で意見は違いました。監督は2軍に落とすのはやむを得ないという結論でしたが、僕は佑ちゃんに足りないのは経験だと感じていました。開幕当初は良かったのに、1軍で結果を出そうと模索するうちに、だんだんフォームが崩れてしまった。だから、それを取り戻すには1軍で投げ続けるしかない。チームは苦しいかもしれないけど、彼の成長には1軍でもがいてくれるほうがプラスだと感じたんです。

二宮: 来季は勝負の3年目です。覚醒の兆しは?
吉井: 本人の頑張り次第ですが、いい方向には向かっていると思います。この2年で映像のチェックにしろ、プロのピッチャーとして必要な要素、やるべきことをだいぶ自覚できてきました。来季、どのくらいの成績が残せるかは分かりませんが、この2年よりも確実に進化した姿は見られるでしょう。

二宮: 決して目を見張るような速球があるわけではないですから、東尾修さんのようにインコースをどんどんえぐるようなスタイルを身につける時期なのかもしれません。ただ、夏に本人に会った際には、「それは自分の描いているスタイルとは違う」という趣旨の答えでした。
吉井: でも、いい時はインコースをしっかり突いていましたよ。キャッチャーの配球も真っすぐでどんどん押していましたからね。悪くなると自信がなくなるので、どうしても懐に投げられず、かわすピッチングになってしまう。インコースに投げることは大切ですが、その前にいいボールを投げられる精度を高めて、本人が自信を持たなければ結果は一緒だと思います。今季、佑ちゃんはシュートを投げる練習をずっとやってきました。ひとつ感覚をつかめば、自然とインコースもうまく使えるピッチャーになると信じています。

 日本シリーズで吉川が打たれた理由

二宮: それにしても吉川のブレイクは想定以上だったのでは? 2ケタ勝利どころか、14勝5敗、防御率1.71。今季に関しては、ほぼひとりでダルビッシュの穴を埋めたかたちになります。
吉井: うれしい誤算でしたね。昨季、2軍では最多勝と最優秀防御率などのタイトルを獲っていましたから、1軍で出番さえ与えれば、そこそこ勝ってくれるとは期待していました。それでも10勝できれば、という計算でしたから、予想以上に頑張ってくれました。

二宮: 本人に話を聞くと、栗山監督が「ダメだったらユニホームを脱がせる」と厳しい言葉を投げかけられて気持ちが吹っ切れたと。「四球を出してもいいから、それよりもしっかり腕を振って投げてくれ」と言われて、「四球を出しても後を抑えればいい」と精神的にラクになったそうですね。
吉井: 吉川の場合、シーズン当初は自信をつけるために、打たれる前に早めに交代をしていました。競馬にたとえるなら、完全な逃げ馬(笑)。つかまる前にゴールさせていたんです。ただ、それを繰り返すうちに彼自身が成長して、後半戦はピンチでもうひと踏ん張り粘れるようになりました。この点は1年で大きく変わりましたね。

二宮: 吉井さんからアドバイスしたことは?
吉井: 彼の課題は精神面だけだったので、僕からは特に教えたことはありません。1球1球だけを見たら、もともと素晴らしかったですから。ただ、ひとつ話をしたのは、“力のコントロール”でしょうか。昨季までの吉川は練習でも試合でも常に全力で投げようとしていました。でも、それでは力が入りすぎるし、1年間は持たない。どこまで役立ったかは分かりませんが、今季はそのコントロールがうまくできるようになっていました。

二宮: ただ、日本シリーズでは第1戦、第5戦と先発しましたが、巨人打線に攻略されてしまいましたね。やはり大舞台での経験が不足していたと?
吉井: 僕も最初はそう思っていました。緊張で調子が悪いんだと。だから次の登板は本調子に戻って抑えてくれると信じていたんです。ただ、考えが甘かった。巨人は思っていた以上に吉川の対策を練っていました。“しまった”と気づいた時には、もう遅かったんです……。これは僕にとってシリーズの大きな反省点でしたね。

二宮: 巨人は橋上秀樹戦略コーチを中心に徹底して相手を研究し、指示を与えていました。吉川も丸裸にされていたんでしょうか。
吉井: 吉川の配球を分析すると、右バッターのインコースに来るボールは変化球が多く、アウトコースにはストレート系が多いという傾向が出ていました。だから、巨人のバッターはコースで球種を判断して打っていたんです。ストレートか変化球か割り切れるだけでもバッターは優位に立てますからね。

二宮: このことに吉井さんが気づいたのは?
吉井: 第5戦に先発した際、先頭バッターの長野(久義)の見逃し方を見て「見破られている」と分かりました。インコースの誘い球の変化球に全く反応しない。配球の傾向だけでなく、他にもクセを見つけていたのかもしれませんが、第1戦で打たれた時に「何かあるな」と気づいてやれなかったのは僕の完全な油断でした。

二宮: 結局、日本ハムは吉川と武田勝で1勝もできなかったのが響きましたね。
吉井: 準備力の差が出てしまいました。巨人は選手も揃っている上に、事前の対策もしっかり練れていた。戦力的に劣るのに、準備でも負けたら、いい結果は出ないですよね。僕にとって悔やんでも悔やみきれないシリーズになってしまいました……。

(後編へつづく)

<吉井理人(よしい・まさと)プロフィール>
1965年4月20日、和歌山県出身。箕島高で甲子園に2回出場し、84年にドラフト2位で近鉄に入団。5年目にクローザーとして10勝24セーブをあげて最優秀救援投手に輝くと、翌年もリーグ優勝に貢献。95年にはヤクルトへ移籍し、先発で3年連続2ケタ勝利をあげて2度の日本一の原動力となった。98年にFA権を行使してニューヨーク・メッツへ。99年に12勝をあげてプレーオフ出場を果たす。メジャーリーグ5年間で32勝をマークし、03年からは帰国してオリックス入り。07年途中にロッテに移って現役を引退した。翌08年からは日本ハムの投手コーチを務めた。日米通算成績は547試合、121勝129敗62セーブ、防御率4.14。
>>公式ブログ





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◎クイズ◎
 今回、吉井理人さんと楽しんだお酒の名前は?

 お酒は20歳になってから。
 お酒は楽しく適量を。
 飲酒運転は絶対にやめましょう。
 妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。

(構成:石田洋之)
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