今シーズンは群馬ダイヤモンドペガサスにとっては、苦しい戦いの日々が続きました。他球団と比べて、戦力が劣っているということは決してありませんでした。ただ、新人選手が20人と、昨シーズンまでとはガラリとメンバーが入れ替わった中、私自身も監督1年目であり、全てが手さぐり状態。そうした中で選手の力を発揮させることができなかったことが一番の要因だったと思っています。
 私はソフトバンクで2軍外野守備走塁コーチをしていた時、BCリーグと同じ独立リーグの四国アイランドリーグプラスと交流試合をしたことがありましたので、野球に対するギャップは特にありませんでした。しかし、一番難しさを感じたのは、選手たちに野球に対する取り組み方、特に「考える」ということを浸透させることです。どのスポーツもそうですが、練習のメニューから試合でのプレーに至るまで、ひとつひとつしっかりとした考えをもたなければ、上達することはできません。しかし、その考えることのできる選手は多くはありませんでした。

 スポーツには「フィーリング」というものが非常に重要です。つまり、「感じる力」です。しかし、フィーリングは自然と身に付くものではありません。「考える力」がなければ、感じることはできないのです。また、いい感じをつかんでほしいと、監督やコーチがいくら技術指導をしても、選手自身が単に言われたことをやるだけでは、決してモノにすることはできません。やはり、意味を考えながらやれるかどうか、なのです。そのことを選手に意識づけすることが、なかなかできなかったと感じています。

 とはいえ、後期の後半には少しずつですが、考えることができるようになってきた選手が増えてきたという手応えもありました。エラーをしたり、チャンスに打てなかったりすることは致し方ありません。しかし、間違った考えや準備不足によるミスはだいぶ減少しました。選手たちが自分自身で考えられるようになってきた、ひとつの証です。

 各選手の課題と期待

 さて、1年間先発ローテーションを守ったのが栗山賢(日本文理高−鷺宮製作所)です。チームの守備や攻撃でのミスによって泣かされたこともあり、4勝12敗と勝ち星をなかなか伸ばすことができませんでした。しかし、防御率はリーグでベスト10に入る2.65と内容的にはまずまずのピッチングをしたと思います。

 今後の課題は、コントロールとスタミナでしょう。コントロールミスによって苦しいピッチングとなることも少なくないのですが、特に変化球のコントロールを磨けば、楽なピッチングができると思います。そして、1年間を通して投げたのが入団して初めてだったということもあり、後期には体力的にバテている様子がうかがえました。栗山自身も、さらにスタミナが必要だということを痛感したはずです。

 また、抑えとしてリーグ2位の12セーブを挙げたのが清水信寿(豊田西高−中京大−エイデン愛工大BLITZ−三重スリーアローズ)です。清水はもともとボールに力があるピッチャーで、抑えに向いていました。しかし、最初は自分の特徴を最大限に活かし切れていないと感じていました。その要因は考え過ぎるあまり、配球で交わそうとしていたところにありました。必要のないところで見せ球として変化球を投げ、それが甘く入って打たれる、ということも少なくなかったのです。そこで「大胆にいこう」と清水に話をしました。配球を考えるのは悪いことではないのですが、見せ球で打たれてしまっていては、勝負球を投げることができません。ですから、1点もやれないという場面で登板することの多い抑えですから、初球から自信のあるボールで勝負しよう、と伝えたのです。これがうまくいったようですね。

 一方、野手では萩島寿哉(境西高−城西大)が1年目ながらリーグベスト10に入る打率3割9分をマーク。これはチームで唯一の打率3割台です。萩島はしぶといバッティングをする半面、簡単に空振りをするようなところがあります。足も速いですから、ゴロを転がせば、出塁する可能性はあるのですが、追いこまれると空振りしてしまうことが少なくありません。彼の課題はタイミングの取り方を身に付けることにあります。勢いだけで振りにいかずに、追い込まれた状況でもしっかりとタイミングをとることが重要です。

 また、橋本拓也(羽生高)は打率1割9分5厘と、数字こそ残せませんでしたが、1年間出場し続けたことに関しては、高卒ルーキーとしてはよくやってくれたと思います。攻守ともに課題は山積していますが、手も足も出なかったわけではなく、それなりに対応できていました。バッティングセンスの良さも垣間見え、来シーズンが非常に楽しみな選手の一人です。後期はバテ気味のところも見受けられましたから、まずはしっかりと体力をつけ、1年目の経験を活かして成長して欲しいですね。

 既存と新人との融合性

 12月に行なわれたドラフト会議では、7人の選手を指名しました。投手2人、捕手1人、内野手1人、外野手3人と補強ポイントに沿って、バランスよく指名することができ、とても満足しています。2人の投手、町田翔司(前橋工業高−オール高崎野球クラブ)と東風平光一(武蔵越生高−大正大)は共に試合をしっかりとつくってくれるタイプと見ています。地元出身者の町田は緩急をつけられますし、東風平はストレートに威力があり、他の球種のコントロールもまずまずと、安定感があります。手薄の先発ローテーションの一角に食い込んでくれることを期待しています。

 野手では今シーズン、正捕手だった八木健史(工学院大学付属高−横浜ベイブルース)がNPBのドラフト会議で福岡ソフトバンクに育成で1位指名を受け、その穴を埋める捕手が急務とされています。今回、ドラフトで指名した宇佐美司(高崎工業高−ナカヨ通信機)は今シーズン、練習生として帯同していました。細かい指導はこれからですが、捕球してから送球するまでが素早く、俊敏さと肩の強さがあります。既存の古川翔輝(緑岡高−群馬大)と切磋琢磨してほしいと思います。外野手の三田俊輔(前橋工業高−東北福祉大−佐久コスモスターズ硬式野球クラブ)は、大学時代にクリーンアップを打っており、長打力に期待のできるバッターです。今シーズン、リーグワーストのチーム打率2割3分1厘の打線を引っ張っていってほしいと思います。

 来シーズンも10名ほどの選手が入れ替わる予定です。しかし、新人選手が20人だった今シーズンに比べれば、リーグを経験した選手が半数近く残る来シーズンは、チームづくりの基盤が少しある分、今シーズンよりも力を発揮できるのではないかと期待しています。既存選手の経験と、新人選手のフレッシュさを融合させたチームづくりをはかりたいと思っています。


五十嵐章人(いがらし・あきひと)
1968年4月12日、群馬県生まれ。前橋商業高校では3年夏にエースとして甲子園に出場。日本石油を経て、90年ドラフト3位でロッテに入団した。その後、オリックス、大阪近鉄でプレー。プロ野球史上唯一、全ポジションで出場し、全打順でホームランを放っている。2003年現役引退後は解説者・評論家として活躍した。07年より福岡ソフトバンクで2軍外野守備走塁コーチを務め、11年限りで退団。12年より群馬ダイヤモンドペガサスの監督を務める。
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