21歳の石井が2年ぶり2度目の優勝で、五輪初代表に決定した。
 北京五輪男子柔道100キロ超級代表の最終選考会を兼ねた全日本柔道選手権が29日、東京・日本武道館で行われ、一昨年の覇者・石井慧(国士舘大)が、決勝で昨年の覇者で同五輪100キロ級代表に決定している鈴木桂治(平成管財)に決優勢勝ちし、2年ぶり2度目の優勝を遂げた。全日本柔道連盟は大会後に強化委員会を開き、石井を北京五輪100キロ超級代表に選出した。
 シドニー五輪100キロ級金メダリストで3大会連続の五輪代表を目指した井上康生(綜合警備保障)は準々決勝で高井洋平(旭化成)に一本負け、昨年の世界選手権100キロ超級を制し代表入りの有力候補だった棟田康幸(警視庁)は準決勝で石井に敗れ、ともに代表入りはならなかった。
(写真:決勝戦。石井(上)の抑え込みから28秒で逃れた鈴木(下))
 昨年秋に100キロ超級に転向後、2月のオーストリア国際、3月のカザフスタン国際をオール一本勝ちで制するなど実績を残してきた石井は、怪我で4月の選抜体重別選手権を欠場し、この大会にかけてきた。
 3回戦の高橋和彦(新日鐡)戦では終盤に攻め込まれ判定2−1と辛勝だったが、準々決勝では谷口徹(旭化成)に大外刈りで一本勝ちをおさめ、勝ち上がった。
 準決勝では、昨年9月の世界選手権無差別級と2月のドイツ国際を制し、代表争いでリードする棟田康幸(警視庁)との直接対決。間合いをとって棟田の組み手にさせず、相手の攻撃を封じ込めた。棟田の反則ポイントでリードするとそのまま逃げ切り、初出場から3年連続の決勝進出を決めた。
 決勝では、先輩・鈴木に対し、開始早々に「出そうと決めていた」という大内刈りで「有効」を奪うと、さらに上四方固めで抑え込んだ。鈴木が意地を見せ28秒で解けるも、「技あり」で大きくリード。その後、鈴木の怒涛の攻撃で、防戦一方となり警告まで与えられるが、逃げきった。
 試合後、石井は「情けない柔道ばかりしてしまった」と号泣。代表が発表される前に行われた会見では「(抑え込んで)残り2秒で逃がしてしまった。あそこできっちり一本獲れないのが情けない。これで(代表から)外されたら、外されるだけの柔道しかしていないということ」と反省の弁ばかりが口をついて出た。

(写真:2度目の優勝とともに初の五輪代表入りを決めた石井)
 怪我による練習不足の影響もあったのか、すっきりした勝ち方は少なかったものの、棟田との直接対決に勝利したこと、さらには100キロ超級に転向してから、国内外で負けなしと結果を残していることなどが評価され、石井が五輪代表に決定。斉藤仁・全日本男子監督は「棟田、鈴木と、勝つために違う戦い方をした。何が何でも五輪に行くんだという執念が、棟田より勝っていた」と石井の代表入りの理由について説明した。
 代表入りが決定し、再び会見を行った石井は「今日の試合は全然納得していない」と言いながらも、ホッとした表情を見せ、「外国人選手の方が勝つ自信はある。課題はいっぱいあるが、北京まで一回りも二回りも強くなって、絶対に金メダルを獲りたい」と誓った。

 一時は石井に抑え込まれあわや一本負けかという場面で意地を見せるも、2年連続4回目の優勝を逃した鈴木は「(石井)慧が強くなったのか、自分が弱くなったのかは分からない。前に出る気持ちが、初戦から足りなかった。勝つことだけ考えていたが、どうして闘争心が足りなかったの自分でも分からない」と振り返った。
 北京五輪を自身の集大成の舞台と位置付けている鈴木は「(北京は)恐らく最後の試合になるので、こういう(悔しい)顔はしたくないですね」と言うと、涙も見せた。後半の攻撃は石井を圧倒していただけに、悔やまれる敗戦となった。
(写真:2年連続4度目の優勝を逃した鈴木)


 井上、3大会連続五輪ならず、引退へ

 シドニー五輪男子100キロ級の金メダリスト・井上は、自分の柔道に徹した。初戦の2回戦は「有効」ポイントでの優勢勝ち、3回戦は大藤尚哉(警視庁)に一本勝ちと調子を上げて迎えた高井との準々決勝。互いに大内刈り、払い腰、大外刈り、内またと、積極的に技を仕掛ける中、残り10秒、井上は得意の内またで勝負に出るが、高井にすかされ「技あり」、そのまま抑え込まれ、合わせ技一本で敗れた。
(写真:高井(手前)に敗れ準々決勝敗退に終わった井上)
 今回が最後の全日本選手権と位置付け、「選手として最後の年」と五輪代表入りを逃した場合は引退することを表明していた井上は、試合後の会見で「しょうがない。アテネで負けて、肩を怪我して、北京を目指してやってこられたことは良かった。成功には終わらなかったが、この挑戦は今後、いろんな面に生きてくると思う。力は出し切った」と淡々と語った。去就については「先生方と相談して決めたい」と明言を避けたが、今大会限りでの引退は濃厚。日本柔道界をけん引してきた井上が、深々と一礼し畳を降りると、観客からは惜しみない拍手が送られた。

 棟田、「一からやり直す」

 代表入りの最有力候補と見られていた棟田は、準決勝で石井に敗れ、無念の落選。試合後の会見では「弱いです。何もかも今のままではだめだと思う」と険しい表情で語った。
 石井に勝利すれば、代表入りはほぼ確実とも言えたが、組み手を封じられ、チャンスを生かせずに終わった。技が出せなかった場面については「自分の組み手にしないと何も始まらないと思っていたが、それができなかった」。 
 吉村和郎強化委員長は「棟田は石井の作戦にはまってしまった。直接対決で負けたのは大きなマイナス。五輪に出たいのなら先に指導を取られてはダメだし、組み手を変えてどう攻めればいいか考えないといけない」と厳しく評価した。
 悲願の日本一と五輪切符を逃した世界王者は「一からやり直します」と再起を誓った。
(写真:昨年の世界王者・棟田は準決勝で石井に敗れ、五輪切符獲得ならず)