来年3月に開催される第3回WBC。3連覇を目指す日本代表のキャプテンに指名されたのが巨人の阿部慎之助である。今季のセ・リーグのMVPだ。

 監督の山本浩二はキャプテン指名の理由を「彼のこれまでの実績、今シーズンの十分な働きは、ご承知のとおり。彼ならチームをしっかりまとめてくれる」と説明した上で、こう続けた。「阿部をサポートしてくれるベテラン、たとえば稲葉(篤紀・北海道日本ハム)や井端(弘和・中日)が支えてくれるとチームがひとつになる。若い選手が多いだけにチームをまとめられるベテランの存在は重要です」

 代表監督に就任するなり、山本は「チームの中心は阿部」と言明した。それは次の理由に依る。「まずバッティングですが、平均して3割1分から2分くらいだった打率を最後には3割4分にまで持ってきた。巨人の4番として、あれだけ厳しくマークされながら終盤に打率を上げるのは至難の業。勇気と決断力と集中力。これがなければ甘いボールを1球で仕留めることはできない。僕にも経験がありますが心技体の技と体は若くても、ある程度、極めることができる。問題は心。彼は今、これがピークの状態にありますね」

 リード面はどうか。「今シーズンは、よくピッチャーに怒っていたでしょう。あれは自分に自信がある証拠。データを把握した上で自分なりに工夫してバッターを攻める。キャッチャーをやっていて、今が一番、おもしろい時期じゃないでしょうか」

 今季、阿部は打率と打点の2冠王に輝いた。本塁打王のタイトルこそ東京ヤクルトのウラディミール・バレンティンに譲ったが、それもわずか4本差だった。

 阿部の躍進を裏から支えたのが戦略コーチの橋上秀樹だ。阿部にとっては東京・安田学園高の先輩にあたる。
 阿部はリーグ優勝翌日のスポーツ報知(9月22日付)にこんな手記を寄せた。<ストライクを見逃す勇気を持てるようになった。橋上さんは「割り切りが大事」っていう。例えば、今まで打てなかった投手に対して「低めを絶対に我慢しよう」とか「見逃し三振はOK」とかね。これまでだったら、三振をしたくないから振りにいっていた。でも「三振をしてもいいんだな」って思えるようになり、余裕が生まれた>

 周知のように橋上は知将・野村克也の門下生だ。現役時代は野村の下でプレーし、東北楽天では4年間、ヘッドコーチなどを務めた。
 仮に3球三振に倒れたとしても、待っていたボールが来なかったと、きちんと説明すれば「次にいかせ」となるのが、いわゆる「ノムラの教え」である。逆に運よくヒットが出ても、それがたまたまの場合、野村は認めなかった。

 そうした観点で見た場合、野村流ID野球が阿倍を成長させたという言い方もできる。事実、辛口で鳴るノムさんも、「リードでもバッターの動きを見たりして、進歩がうかがえる」と褒めていた。

 話をWBCに戻そう。今回、初めてNPBプレーヤーのみの日本代表が結成される見通し。参加が期待されていたイチロー(ヤンキース)や青木宣親(ブルワーズ)、ダルビッシュ有(レンジャーズ)、黒田博樹(ヤンキース)らは3月末に開幕するシーズンに専念する意向を示している。

「NPBに所属している選手だけの日本代表って、逆にすごく価値のあることじゃないですか」と前置きして、阿部は抱負を口にした。
「NPBのプレーヤーだけでも、これだけやれるんだということを世界中に見せられるチャンス。今は“よし、やってやろう!”という気持ちの方が強いですね。チャレンジャーとしてWBCに挑みたと思います」。3連覇のキーマンは、彼を措いて他にはいない。

<この原稿は2012年12月12日付『電気新聞』に掲載されたものです>

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