二宮: 小出義雄監督の下で高橋尚子さんと一緒のチームになります。当時のQちゃんはシドニー五輪で金メダルを獲得し、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いにありました。
千葉: Qちゃんは、私が欠場した五輪前の名古屋国際女子マラソンで優勝してシドニー行きを決めたのですが、テレビで見ていて新しいマラソンのスタイルを打ち立てたように映りました。どんどん速いペースで刻んでいって、見ているほうがドキドキする。

 衝撃的だったQちゃんの走り

二宮: 確かにペースを上げてライバルたちを置き去りにしていくレース運びはこれまでの女子ランナーにはないものでしたね。いわばレースを“破壊する”ような走りでした。
千葉: 私がレースに出られなかった悔しさと、そのレースでQちゃんの素晴らしい走りを目の当たりにした感動で、自然と涙が出てきました。そのくらい私にとっても衝撃的なレースでしたね。

二宮: シドニー五輪でも前半から抜け出し、34キロ過ぎでサングラスを投げ捨てたのを合図に、併走していたリディア・シモン(ルーマニア)を一気に引き離しました。彼女のレースは一瞬も目が離せない。現地で取材していて、そんな感想を抱きました。
千葉: 正直、マラソンは長いですから、走っていて退屈になることがあるんです。あまりにもペースが遅い時には眠たくなってしまうことすらある(苦笑)。でも、Qちゃんの走りは本当におもしろい。最近は公認のペースメーカーがいて、黙っていても30キロ近くまで引っ張ってくれますから、その点ではマラソンのおもしろさが半減している気がしますね。

二宮: シドニー五輪のレースはテレビで見ていたのですか?
千葉: 出たくても出られなかった大会だったので、当時はまともには見れませんでしたね。それでもQちゃんが金メダルを獲り、その映像が何度も流れて自然と目に入ってくる。「先を越されちゃったな」という複雑な思いでした。

二宮: 小出監督の下でアテネ五輪出場を目指し、03年のパリ世界陸上では2位の野口みずき選手に続いて銅メダル。マラソンでの五輪出場は目前でしたが、選考結果は残念ながら補欠となってしまいました。結果的に五輪出場はアトランタ大会の1度だけになってしまいましたが、やはり五輪は他の大会とは雰囲気がまったく違いましたか?
千葉: 私にとっては意外と普通でした(笑)。“五輪には魔物が棲んでいる”とか“五輪のプレッシャーは想像以上”とか、いろんな話を聞いていたので、本番前にものすごくイメージが膨らんでいたんです。現地で選手村にいる時は、本当に緊張して心臓の鼓動が聞こえるくらいドキドキしていました。ところが当日、競技場に入った瞬間、“あれ? それほどでもないな”と(笑)。スタジアムが大きいせいか、400メートルトラックが小さく感じて、むしろ走りやすかったんです。

二宮: それが5位入賞という好成績につながったんでしょうね。
千葉: 走りながらスタジアムのスクリーンに自分が映っているのを見ていましたからね。髪を縛って走っている姿が「なんか中国人みたいだな」と(笑)。

 ゆっくりマラソンを楽しもう

二宮: Qちゃんは「走るのは本当に楽しい」といつも言っていましたが、千葉さんは?
千葉: ゆっくり走るのは楽しいですよ。でも、レースで速く走るのは、皆さんと一緒でつらく苦しい。だから、はっきり言うと好きではなく得意なんです(笑)。引退してからは1日に10キロ以上、走ったことがないと思います。現役時代は自分が輝ける場所だから必死に頑張っていましたが、寒い日にランニングウェアとランニングパンツでレースに出るのは、やはり大変ですよ(笑)。

二宮: なんだか、その話を聞いて安心しました。私も、たまにジョギングをするのですが、しんどくてなかなか続かない。市民マラソンで頑張っているランナーを観ていると、よくストイックに走れるなと感心してしまいます。前日のお酒を汗で発散して、またお酒を飲むために走っているようなものなので、そもそも動機が不純すぎるのでしょうが……(笑)。
千葉: でも、せっかくジョギングをされているなら、一度はフルマラソンに挑戦していただきたいですね。フルマラソンは体験した人でしか語れない発見がある。早歩きくらいのペースでも8時間ほどで完走できます。レースまでに、ゆっくりで構いませんので、約20キロを3回くらい走れば大丈夫です。

二宮: 5キロくらいで息が上がってしまうのに(苦笑)、42.195キロを走れるようになるでしょうか。
千葉: それは、きっとペースが速すぎるのだと思いますよ。特に男性の方は筋力が強い上に、見栄を張って速く走り過ぎる傾向があります。友達とおしゃべりできるくらいのスピードで、ゆっくり楽しんでみてください。

二宮: 千葉さんに指導してもらったら、走れそうな気がしてきました(笑)。
千葉: 最初に正しいフォームで走る練習をしたほうがいいでしょうね。効率のよい走り方を身につければ、距離が伸びても疲れにくい。疲れてくると、どうしても背中が丸まり、腰が落ちてきます。それを防ぐためには、走りながら時々、片方の腕を後ろに回して腰骨の位置につけ、ピンと背筋を張った姿勢を心がける。そうすると軸がしっかりして、いいフォームで走れるようになっていきます。

二宮: いやぁ、貴重なアドバイスをもらいました。そば焼酎「雲海」のソーダ割りもどうぞ召し上がってください。
千葉: お話するのに、すっかり夢中になってしまいました(笑)。このソーダ割りは本当に飲みやすいですね。すっきりとした甘さがあって、これは流行るかもしれません。田中雅美さんたちと女子アスリート会に参加することもあるので、ぜひ勧めてみたいと思います。

 完璧でないから自らを磨き続ける

二宮: 日本のお家芸と言われたマラソンも、近年はスピード化が進み、世界に差をつけられている感があります。再び日本人選手が五輪でメダルを獲得するためには何が必要でしょう。
千葉: 単純に強い選手のところへ行って練習することでしょうね。海外勢がどんどん力をつけているのですから、同じフィールドに飛び込まないとレベルは上がっていかないと感じます。サッカーだって野球だって、より高い実力の世界を求めて海外に出ている時代です。ジュニアの頃から海外で経験を積んでいる競技もある。マラソンも、もっと外に打って出てほしいですし、そのくらいの覚悟を持った選手が現れてほしいと願っています。

二宮: 千葉さんが今、現役なら海外に拠点を移すと?
千葉: はい。国内にいると、どうしても甘えが出てしまいます。日本では外国人選手がチームの中にいても、“別格だから”と、まともに勝負しようとする意欲が薄れてしまう。外国で強い選手だらけの環境に飛び込めば、やらざるを得ませんから、火事場の馬鹿力のようなものも出てくるのではないでしょうか。本当に強くなりたいんだったら、そういった状況に自分に追い込むと思いますね。

二宮: 現役を退いて早いもので7年になります。振り返ってみて未練はありませんか。
千葉: 現役を終えた時に全く後悔がない選手なんていないのではないでしょうか。どれだけ続けても100%完璧だと思えることは永遠にやってこない気がします。たとえ金メダルを獲ったとしても。だからこそアスリートは自らを磨き続けるのでしょう。完璧ではないからこそ、今もこうやって頑張れる。

二宮: 引退後はランニングクラブを立ち上げるなど、普及活動にも力を入れています。いずれはトップ選手を指導したいとの思いはありますか。
千葉: 引退直後は考えましたが、世界と差をつけられた日本の現状を思うと、まずはジュニアの普及、育成にしっかり取り組んだほうがよいと感じるようになりました。素質のある若い選手に私の経験を伝えられたら、どのくらい伸びるんだろう。今はその部分に興味がありますね。

二宮: これからも、お子さんの子育てに、若い選手の発掘に、と多忙な日々が続きそうですね。
千葉: 旦那も競輪選手として、もっと頑張ってもらわないといけないですからね。もしかしたら、それが一番の仕事かもしれません(笑)。

二宮: 旦那さんと祝杯をあげる際には、そば焼酎「雲海」をプレゼントしますよ。
千葉: お酒好きなので喜ぶでしょうね。現役選手ですから節制はしていますが、お酒は強い。いいお酒が飲めるように2人で頑張っていきたいと思います。

(おわり)

<千葉真子(ちば・まさこ)プロフィール>
1976年7月18日、京都府生まれ。立命館宇治高校から旭化成に入社し、96年のアトランタ五輪10000メートルで5位入賞。97年のアテネ世界陸上10000メートルでは日本トラック界では初となる銅メダルを獲得するなど、日本女子長距離界のトップ選手として活躍。旭化成退社後は豊田自動織機に所属し、佐倉アスリート倶楽部・小出義雄監督の指導を受けて、03年パリ世界陸上はマラソンで銅メダルに輝く。世界陸上で日本人で初めてトラック、マラソン両種目のメダルを手にした。05年からは小出監督のもとを離れて独立。競技人生の集大成として自らの考えと計画のもとでマラソンに挑戦する。06年8月の北海道マラソンを最後に第一線から引退。現在は“スポーツで世の中を元気にしたい”との目標を掲げ、各地のマラソン大会でのゲストランナーを中心に、講演会、メディア出演などで幅広く活動中。また、「千葉真子BEST SMILEランニングクラブ」を立ち上げ、市民ランナーの指導や普及活動も積極的に行っている。
>>オフィシャルブログ「BEST SMILE」

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<対談協力>
味街道 五十三次
東京都港区高輪4−10−30 品川プリンスホテル
TEL:03-5421-1114
営業時間:
昼食 11:30〜15:30(L.O.15:00)
軽食 15:00〜17:00(L.O.16:30)  
夕食 17:00〜22:00(L.O.21:30)

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◎クイズ◎
 今回、千葉真子さんと楽しんだお酒の名前は?

 お酒は20歳になってから。
 お酒は楽しく適量を。
 飲酒運転は絶対にやめましょう。
 妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。

(構成:石田洋之)
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