二宮: 今回のゲストは国民的漫画『キャプテン翼』の作者・高橋陽一先生です。お会いするのは2年ぶりくらいですね。
高橋: そうですね。最近はお酒を飲む機会が少なくなったので、今日を楽しみにしてきました。

二宮: 用意したのは「そば雲海 黒麹」のソーダ割りですが、感想は?
高橋: あっ、すごくさっぱりしていて飲みやすいですね。濃さも好みに合わせられるので、そこまでお酒に強くない人にもぴったりな飲み方だと思います。これならお酒の強くない僕でも大丈夫かな?

二宮: ちなみに『キャプテン翼』のなかで一番の酒豪は誰なんですか?
高橋: 吉良監督ですかね。何せ、常に一升瓶を手にするほどですから(笑)。

 思い出深いW杯アルゼンチン大会

二宮: 若い人で『キャプテン翼』を知らない人はいないでしょう。そもそもサッカーを題材にした作品を描こうとしたきっかけは?
高橋: 高校時代に1978年W杯アルゼンチン大会をテレビで見たことですね。「サッカーっておもしろいんだな」と。それまではW杯があるというのも知りませんでした。ヨーロッパや南米ではプロリーグが当たり前にあるということを知ったのもその頃ですね。

二宮: 78年のW杯ではマリオ・ケンペス(アルゼンチン)ですね。まるで闘牛のような突進は衝撃的でした。
高橋: そうですね。ただ、サッカー漫画だけを描いていたわけではないんです。野球少年だったこともあって、野球漫画も描いていました。それとサッカー漫画を交互に新人賞へ応募していて、先に『キャプテン翼』が選ばれたんです。

二宮: では、野球漫画の方が先に入選していたら、そちらの方に進んでいたかも?
高橋: そうかもしれないですね(笑)。また、当時は野球漫画がたくさんありました。ですから、担当編集者の方も「誰もやっていないサッカーのほうがいいんじゃないか」と、『キャプテン翼』の連載を始めたんです。

二宮: まだサッカーはマイナーな時代ですから、制作段階では苦労もあったでしょう?
高橋: オフサイドのルールやW杯という世界一を決める大会があるというところから説明しなければいけませんでした。その部分で、わかりやすくするためにどうしようかという悩みはありましたね。あと登場するキャラクターが多いので、それらを全部把握しながら試合を進めていかければなりません。そういったキャラクターの描き分けも大変でしたね。

 漫画家として成功するためには

二宮: 下積み時代はどなたのアシスタントをされていたんですか?
高橋: 『ドーベルマン刑事』で有名な平松伸二先生ですね。編集者に紹介してもらいました。

二宮: アシスタント時代のご苦労は?
高橋: 僕はたばこを吸わないんですが、先生の仕事場では僕以外の方が喫煙者でした。ですから、煙がもうもうと立ち込める空間はきつかったですね。あと、やはり徹夜。先生が寝ないとアシスタントも寝られないんです(苦笑)。

二宮: 締め切り間際になったら大変ですねぇ。
高橋: もう、起きっぱなしでずっと仕事(苦笑)。朝方ぐらいに原稿があがってから、爆睡。これが毎週続くわけです。

二宮: タフじゃないと務まらない職業ですね。仕事内容はアシスタントによって違うんですか?
高橋: 平松先生の時は分かれてはいなかったですね。ただ、アシスタントにも上手い下手がありますから、一番難しい部分は上級者の方が描いていました。

二宮: 高橋先生から見てアシスタントで芽が出ない人と、すぐに成長する人はどこが違うと思われますか?
高橋: 何かひとつ突きぬけた武器を持っているかいないかじゃないでしょうか。たとえば誰も描いてないものを描けるという才能だったり……。

二宮: ほお。絵の上手い下手ではないと?
高橋: もちろん、それもあると思います。ですが、やはり人気商売なので読者に受け入れられる絵柄というのがあります。そういうキャラクターを生み出す力は必要でしょうね。

二宮: それは、作者の感性によるものが大きいんでしょうか?
高橋: そうでしょうね。あと、その人が生きてきたバックボーンや信念も影響してくると感じます。

二宮: 高橋先生が影響を受けた漫画家はどなたですか?
高橋: 水島新司先生ですね。『ドカベン』や『男ドアホウ甲子園』などはすごく好きで、本当によく見ていました。

二宮: 野球漫画といったら水島先生がほとんどやりつくした感があります(笑)。
高橋: おっしゃるとおり。野球ネタはほとんど水島先生がやりつくしたんじゃないでしょうか。新人が野球漫画を描こうと思っても、もうネタがない。ですから、僕にとって最初に評価されたのがサッカーの『キャプテン翼』でよかったと思っています(笑)。

 プロレス技がサッカーの必殺技に!?

二宮: 漫画は子供の頃から好きだったんですか?
高橋: 最初はアニメでしたね。『巨人の星』とか『あしたのジョー』を夢中になって見ていました。それが漫画にもなっているんだとコミックスを買ったのがきっかけですかね。小学校高学年ぐらいになってから、少年ジャンプなども読みだしました。

二宮: 当時はプロ野球全盛の時代です。東京育ちの高橋先生はやはり巨人ファン?
高橋: いや、逆にアンチ巨人でした。たぶんオヤジの影響だと思います。ちょっとひねくれた人間なので(笑)。僕も巨人だけテレビ中継されているのを見て「ずるいなぁ」と(笑)。

二宮: 東京生まれの東京育ちといことで巨人ファンという印象があったのですが、そうじゃなかったんですね(笑)。
高橋: そういうひねくれた人たちもいるということですかね(笑)。家の近くに東京スタジアムがあったので、ロッテの試合をよく見に行っていました。

二宮: 榎本喜八や江藤慎一、山崎裕之らがいた時代ですよね。羨ましいなぁ。確か東京スタジアムは南千住ですよね。
高橋: 狭くて、下町の球場という感じでした。当時のパ・リーグはお客さんがあまり多くなかった。だから、小学生だった僕は外野席で友達や兄弟と走りまわって遊んだりしていましたね(笑)。

二宮: 他に少年時代に見られていたスポーツは?
高橋: 相撲も友達と観戦に行っていました。まだ、蔵前国技館の時代ですね。あと、テレビ中継もおじいちゃんとよく一緒に見ていましたね。

二宮: ちなみにひいきの力士は?
高橋: 先代の貴ノ花がすごく好きでした。あとは藤ノ川。小兵力士が大きな力士相手に活躍するのがいいんですよね。得意技のけたぐりが格好良かった。

二宮: 僕も藤ノ川は好きだったなぁ。あと海乃山とか若浪とか。動きが速く、足技が多彩なので人気がありましたよね。プロレスもご覧になっていたそうですが、ジャイアント馬場派、それともアントニオ猪木派?
高橋: どちらかといえば猪木派ですかね。藤波辰巳がプロレス留学から帰ってきて「ドラゴン・ロケット」を繰り出した時は「おお!」と驚いたのを覚えています。あれは衝撃でした(笑)。

二宮: リングの中から、ロープの間を場外へ突っ込むんですからね。受ける相手も大変だったでしょう(笑)。ところでプロレス技が『キャプテン翼』に登場する必殺技に影響を及ぼしたことはありますか?
高橋: 多少、影響は受けています。立花兄弟の「スカイラブハリケーン」などの合体技は、プロレスのタッグ技のイメージだったりしますね。

二宮: へぇー。では大空翼の「ドライブシュート」や日向小次郎の「タイガーショット」などの必殺技はどういう時に考えつくんですか?
高橋: うーん……、基本的には「こんなことができたらいいかな」と思ったことを技にしていきます。、あとはキャラクターの特徴によりますね。日向だったら力強い技だったり、立花兄弟みたいに軽業師のキャラクターは空中技だったり……。そういう意味でもプロレスラーが各個性にあった技を考えるのと似ているかもしれませんね(笑)。

 大空翼をMFにコンバートした理由

二宮: それにしても『キャプテン翼』を見てサッカーを始めたという選手は本当にたくさんいる。連載を始めた時にここまで影響を与えると予想できましたか?
高橋: 僕が言うのも何ですが、さすがにここまでとは予想できませんでしたね(笑)。

二宮: 『週刊少年ジャンプ』のコンセプトは「友情」「努力」「勝利」。これらを意識した作品づくりをされたというふうにも聞いていますが……。
高橋: いや、実はそこまでは意識していなかった。昔のスポーツ漫画はいわゆるスポーツ根性ドラマが主流で、主人公が厳しい特訓を無理やりやらされているニュアンスもありました。『キャプテン翼』を描くにあたってはそういうスポ根的要素を排除して、スポーツは楽しいものだということを全面に出そうと思いました。

二宮: 確かに、『キャプテン翼』は元来のスポ根漫画とは違って明るい作風です。また、ライバルの存在はあっても悪役がいないのも特徴的ですね。試合後には対戦相手と交流を深めるシーンも多く、スポーツマンに人気があるのも分かるような気がします。
高橋: ラグビーのノーサイドの精神ですね。競技を通じて友達になれるというのがスポーツのいいところだと思います。

二宮: 物語の冒頭では大空翼はFWでした。MFにコンバートした理由は?
高橋: 主人公なので、全部をやらせたいと考えたんです。ゲームをつくれて、ディフェンスもして点もとるという風に。FWは点をとるだけというイメージがありましたから。

二宮: それを読んだ少年たちの多くがMFをやりたがった。「日本サッカーはMFにばかりタレントが出てくるのは『キャプテン翼』の影響だ」という声もよく耳にしますよ(笑)。
高橋: まあ、それもあるのかもしれないですね(笑)。やっぱり日本人のメンタリティーがMF向きということもあるのでしょうから。どちらかというとチャンスをお膳立てして「どうぞ」とパスを出す美学と言えばいいのか……。欧米のFWのように「オレが、オレが」という選手が少ないのは事実ですね。

(後編につづく)

<高橋陽一(たかはし・よういち)プロフィール>
1960年7月28日、東京都生まれ。漫画家。高校時代は野球部に所属していた。アシスタントとして平松伸二に師事。80年、『キャプテン翼』で集英社主催の「フレッシュ・ジャンプ賞」に応募し、入選を果たす。翌年から同作品の連載が週刊少年ジャンプにてスタート。日本でサッカーがまだマイナーな時代ながら人気を博し、『キャプテン翼』を見てサッカーを始める少年が激増。テレビアニメも好評を得る。その人気は海外にも広がり、リオネル・メッシやアレッサンドロ・デルピエロなどが翼ファンであることを公言している。趣味は仕事の合間を縫って行なうフットサルやテニス。現在は携帯サイト「E★エブリスタ」内で『ゴールデンキッズ』を連載中(第2・第4水曜17:00更新)。この春から『週刊漫画ゴラク』にて『誇り 〜プライド〜』の連載を再開予定。


★今回の対談で楽しんだお酒★[/color]

本格焼酎「そば雲海」の黒麹仕込み「そば雲海 黒麹」。伝統の黒麹と九州山地の清冽な水で丹精込めて造り上げた、爽やかさの中に、すっきりと落ち着いた香り。そしてまろやかでコクのある味わいが特徴です。
提供/雲海酒造株式会社

<対談協力>
藪伊豆総本店
 明治15年、京橋のそば屋「伊豆本」は、神田藪そばの暖簾に包含され、「藪伊豆」となりました。その後も京橋の地で営業しておりましたが、平成8年に日本橋3丁目に移転し、現在に至ります。店先にある粉挽小屋の石臼で挽いた自家製粉の二八そばにやや辛口のそばつゆはすっきりとした味わい、江戸からの風情を伝えます。
 1階はテーブル席、2階はテーブル席と堀炬燵の小上がり、3階は6畳間と8畳間の和室です。その味噌から始まる昔ながらのそば屋のおつまみにそば焼酎のそば湯割り、最後はせいろそばで〆て、江戸町人の文化の名残をお楽しみください。毎月4、5回落語会も開催しています。
>>公式サイトはこちら

東京都中央区日本橋3−15−7
TEL:03-3242-1240
営業時間:
平日  11:00〜15:00/17:00〜21:00
土祝  11:30〜20:00(通し営業)
日曜定休

☆プレゼント☆
 高橋さんの直筆サイン色紙を本格焼酎「そば雲海 黒麹」(900ml、アルコール度数25度)とともにプレゼント致します。ご希望の方はより、本文の最初に「高橋陽一さんのサイン色紙希望」と明記の上、下記クイズの答え、住所、氏名、年齢、連絡先(電話番号)、このコーナーへの感想や取り上げて欲しいゲストなどがあれば、お書き添えの上、送信してください。応募者多数の場合は抽選とし、当選は発表をもってかえさせていただきます。たくさんのご応募お待ちしております。なお、ご応募は20歳以上の方に限らせていただきます。締め切りは3月13日(水)までです。
◎クイズ◎
 今回、高橋陽一さんと楽しんだお酒の名前は?

 お酒は20歳になってから。
 お酒は楽しく適量を。
 飲酒運転は絶対にやめましょう。
 妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。

(構成:鈴木友多)
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