第1回「社会課題対応型の学び」 ~柏木正博理事長インタビュー(前編)~
二宮清純: 柏木正博理事長の知己を得て、かれこれ10年以上たちます。大正大学地域構想研究所が徳島県阿南市と包括連携協定を締結したのが2015年。2年後の17年には市内に阿南支局が開設されました。地域創生学部の学生による現地実習や、関係人口創出の調査研究、高校生との地域交流などを通じての地方創生が目的です。
私は16年に岩浅嘉仁阿南市長(当時)の要請を受け「あなん未来会議」委員に就任。四国八十八カ所に想を得て、地域の観光資源とすべく「89番野球寺」のモニュメント設置を提案したところ採用され、17年に同市那賀川町の道の駅にて完成しました。この際、理事長には大変お世話になったのですが、そもそも、どういう経緯で学内に「地域構想研究所」をおつくりになったのでしょうか?

柏木正博理事長: きっかけは2011年の東日本大震災です。当時の私は大学の事務局長でした。これは被災地のお役に立たねばと思い、学生や教職員の有志を募って現地に向かったんです。しかし、団体では宿泊することができない。一般的なボランティア活動ですと、指示通りの行動が求められます。こっちはいろいろとお手伝いしたいことがあるのに、夕方にはもう帰らないといけないんです。
二宮: 人数は?
柏木: 全部で2週間にわたって延べ150人くらいでした。東京からの4泊5日、バスによるピストン移動でした。大学は予定していた卒業式を取り止め、入学式も延期にしました。それよりも大事なものがあると考えたからです。結局、私たちを受け入れてくれたのは宮城県南三陸町でした。現地では、地元の人々との信頼関係や友情も生まれ、その縁で現地に研修センターもつくりました。学生たちは復旧・復興のためにボランティア活動をしてくれましたが、現地の人々の頑張りを見て、逆にこちらが元気を頂いた面もあります。
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東日本大震災時、宮城県南三陸町で行ったボランティア活動
二宮: 大正大学の独自の取り組みである地域での分散型の実習やフィールドワークは、どのくらいの地域で実施しているのでしょうか。
柏木: 現在は南三陸の他、佐渡、南魚沼、京都、奈良、奄美などで活動しています。これらの地は、単なる拠点ではなく、それぞれが異なる歴史観、宗教観、自然観、共同体文化を持つ「知のフィールド」であると考えています。学生には、その土地に身を置きながら、地域の深層に潜り、問いを深めていく――。そんな学修経験を期待しています。また、それ以外にも毎年20から30以上の地域において実習やフィールドワークを行っています。
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東北復興拠点の宿泊研修施設「南三陸まなびの里 いりやど」
二宮: 理事長は昔から、斬新なアイデアをどんどん実行に移していく、まるでベンチャー企業の社長のようなイメージがあります。今度は「カルチャープレナー学部(仮称)」(通信教育課程)の創設を計画しているそうですね。
柏木: 大正大学はこの秋に創立100年を迎えますが、この機を「第二の開学」と位置付けています。
二宮: 「第二の開学」とは?
柏木: これは単なる記念ではなく、本学が次の100年に向けて多様な教育価値の創出を目指す決意を表したものです。

二宮: 「カルチャープレナー学部(仮称)」は通信制ですから、老若男女、地方からでもオンラインで受講することができますね。
柏木: そこなんです。本学は大学教育を「若者だけに届ける場」から「あらゆる世代が、自らを耕し、社会とつながる実践知の場」にしようと考えています。全国に開設しているエリアキャンパスやサテライトキャンパスは、地域を移動する際の研修所としても使える。たとえばそこで、2週間程度の宿泊研修を行う。それにより、いろいろな地域の学生たちが交流し、仲間をつくっていく。そんなイメージを構想しています。

二宮: 「地域構想研究所」といい「カルチャープレナー学部(仮称)」といい、野心的な取り組みが注目を集めています。
柏木: たとえば「地域構想研究所」については、昨年の中央教育審議会の会議で、文部科学省の職員から、「こうした地域活性化のための取り組みは、地域の大学だけではなく、東京の大学とも組んで、一緒にやることに意義がある。その流れを大正大学がつくってくれた」とのコメントを頂いたと聞いています。
二宮: 社会課題対応型ですね。
柏木: そうです。これからの学びは、社会課題対応型じゃなければダメです。また、そうしないと大学も生き残れない。
二宮: 後編はスポーツについてもじっくりとお伺い致します。
柏木: いや、こちらこそ意見を聞かせてください。よろしくお願い致します。
(後編につづく)

<柏木正博(かしわぎ・まさひろ)プロフィール>
1951年8月23日生まれ。1974年3月に大正大学文学部史学科を卒業後、同大事務局に入局。教務部長、事業推進部長、事務局長、専務理事を経て、2024年3月より理事長に就任、現在に至る。事務局長在任時より同大の地域連携活動を推進し、地域構想研究所の設立を主導。現在では、当研究所相談役を務める。
学外においては、2015年4月から2018年3月まで「日本私立大学団体連合会高等教育改革委員会「地方活性化(地域共創)問題に関する小委員会」専門委員を務めた。

<二宮清純(にのみや・せいじゅん)プロフィール>
1960年、愛媛県出身。明治大学大学院博士後期課程修了・博士(学術)。株式会社スポーツコミュニケーションズ代表取締役。広島大学特別招聘教授。大正大学地域構想研究所客員教授。経済産業省「地域×スポーツクラブ産業研究会」委員。認定NPO法人健康都市活動支援機構理事。『スポーツ名勝負物語』(講談社現代新書)『勝者の思考法』(PHP新書)『プロ野球“衝撃の昭和史”』(文春新書)『変われない組織は亡びる』(河野太郎議員との共著・祥伝社新書)『歩を「と金」に変える人材活用術』(羽生善治氏との共著・廣済堂出版)、『森保一の決める技法』(幻冬舎新書)など著者多数。