プロ野球は2月1日、NPB12球団が一斉にキャンプインする。今年は3月にWBCが控えていることもあり、代表候補に選ばれている選手は例年よりも調整を早めている。代表候補選手は15日に宮崎で本番に向けた合宿をスタートさせるため、主力の留守中は若手にとって絶好のアピールチャンスだ。仕上がりの早い代表候補に、伸び盛りの若手と、見どころ満載のキャンプとなることは間違いない。

 4番の重責をプラスに変えた阿部

 WBCで3連覇を目指す日本代表(侍ジャパン)のキーマンは何といっても、この男だろう。主将、正捕手、4番の3役を任されそうな巨人の阿部慎之助である。代表チームの指揮を執る山本浩二は「チームの中心は阿部。彼をおいて攻守の軸はいない」と全幅の信頼を寄せている。

 昨季はMVP、正力松太郎賞、首位打者(打率3割4分)、打点王(104打点)、最高出塁率(4割2分9厘)、ベストナイン、最優秀バッテリー賞(内海哲也との受賞)に輝いた。巨人の5冠(交流戦、レギュラーシーズン、クライマックスシリーズ、日本シリーズ、アジアシリーズ)は彼の存在を抜きには語れなかった。

 昨季はチームでも4番・キャッチャーだった。さぞ大きなプレッシャーと戦っていたのだろうと思って本人に話を聞くと、こんな言葉が返ってきた。
「だからこそ、やりがいがあるかなと最近は感じるようになりましたね。やはり人間なので、下位を打っている時は「ま、いっか」と集中を切らしてしまう打席も正直ありました。でも、僕はキャッチャーで、かつ打てる部分を評価していただいている。4番を打つことで今まで以上に1打席1打席を大事にできたのが、一番良かったのではないかと感じます」

 今回のWBCで日本は初めてNPBプレーヤーのみのチーム編成となる。参加が期待されていたイチロー(ヤンキース)や青木宣親(ブルワーズ)、ダルビッシュ有(レンジャーズ)、黒田博樹(ヤンキース)、岩隈久志(マリナーズ)らは3月末に開幕するシーズンに専念する意向を示し、代表に加わらなかった。下馬評では苦戦が予想される中でも、阿部は決して悲観的になっていない。

「メジャーリーグでプレーする日本人が出ないということは、逆にNPBのプレーヤーだけでもこれだけやれるんだと世界中に見せられるチャンス。今は“よし、やってやろう!”という気持ちのほうが強いですね」
 キャンプ中、巨人はもちろん、日本代表チームの中でどのようなキャプテンシーを発揮するのか。扇の要の一挙手一投足を追いかける日々になりそうだ。

 “変わらない”角中、世界で活躍なるか

 日本代表候補に選ばれた34名の中には昨季、大ブレイクを果たした選手がいる。千葉ロッテの角中勝也だ。昨年の今頃、彼が代表候補に名を連ねると誰が予想しただろう。四国アイランドリーグの高知ファイティングドッグスからNPB入りして今季が6年目。昨季は4月途中に1軍昇格を果たすとヒットを量産し、終わってみれば中島裕之(埼玉西武、現アスレチックス)を抑え、打率.312で初の首位打者に輝いた。独立リーグ出身選手がNPBで個人タイトルを獲得するのはもちろん、日本代表候補に選ばれるのも初のケースである。

 角中の強みはどこにあるのか。それは追い込まれてもヒットを打てるところにある。カウントが0−2の時こそ打率は1割台だが、1−2でも.242、2−2の並行カウントになれば.329と一気に率が上がる。フルカウントのケースも.367の高打率だ。「もちろん追い込まれたくはないですよ。でも、必死になるからですかね」と本人はその理由を多くは語らない。だが、カウント不利な状況から、スコアボードに“H”のランプを灯すには、何か秘密があるはずだ。

 彼の打席を目を凝らして見ていると、そのヒントに気づく。角中の場合、追い込まれるとスタンスを大きくし、重心を低くして構えているのだ。ほぼノーステップでスイングし、ミートに徹したバッティングに切り替えるのだ。
「それに追い込まれたら、相手の一番いい球、決め球を待っていますから。何が来るか分かっていたら、どんないいピッチャーでも打てると思っています」
 たとえ相手のウイニングショットでも分かっていれば打てる。物静かな口調ながら、その言葉からは強烈な自信がにじみ出ている。

 初代表となった昨年11月のキューバ戦でも7回に口火を切る二塁打を放ち、貴重な追加点につなげた。
「あくまでも強化試合でしたし、日の丸の重みとかは正直、まったく感じなかったですね。(WBCに向けた)調整も、いつもより早めに、という意識はありましたが、結局は普段通りに変わらずやっています」
 首位打者を獲ったからと言って、新しいことにチャレンジするつもりはない。「今のままを継続していくことが大事」と語る。

 代表候補の外野は激戦区だ。長野久義(巨人)、糸井嘉男(オリックス)、中田翔(北海道日本ハム)、内川聖一(福岡ソフトバンク)……。この中で侍ジャパンの一員となるには、かなりのアピールが必要だろう。ただ、逆境に強く、取り巻く環境の変化にも動じない25歳が、国際舞台でどんなプレーを披露するのか見てみたい気持ちは強い。

 オリックス・森脇監督「変化は義務」

 一方で「変化は義務」と言い切ってチーム改革に乗り出した指揮官がいる。オリックスの森脇浩司監督だ。この10年で、チームは最下位5回。Aクラスはわずかに1回だけだ。落ちるところまで落ちたチームの再建を託されたのが、ジョン・トラボルタ似のイケメン監督である。

「ホークス時代、王(貞治)さんは“優勝したからこそ、我々は変わらなくてはいけないんだ”とおっしゃっていました。強いチームでさえ、さらなる上を目指して変わろうとしているのに、最下位のチームが変わらないほうがおかしい。僕はそう考えています。何を変えるかということも確かに大事ですが、まずは変化に時間をかけていてはダメなんです。何でもいいから、とにかく一歩を踏み出さないと何も始まらない。固定観念を捨てて思い切って前へ進む。秋季キャンプでは、そのことを選手たちに発信し続けてきました。幸いなことに選手たちもこの点は理解してくれて新たな一歩を踏み出しつつあります」

 現役時代に目立った成績は残していないものの、指導者としての手腕は確かだ。福岡ダイエー(ソフトバンク)時代は川崎宗則や本多雄一らを育てた。2006年に当時の王貞治監督が胃ガンの手術でチームを離れた際には監督代行として指揮を執り、30勝22敗3分だった。昨季もオリックスで残り9試合の段階からチームを率い、7勝2敗。合わせると勝率6割7厘だ。この数字は指揮官としての非凡さを物語っている。

「微差が大差を生む」
 それが森脇の口癖だ。一例として、彼はあるデータを持ち出した。
 14勝32敗(1分)――。
「これだけで借金18。シーズントータルでの借金が20ということは、この部分だけでも改善すれば違った戦いができると思うんです」

 森脇が示した数字はデーゲームの勝敗だった。この数字こそがチームの問題点を物語っていると新指揮官は力説する。
「昔は、よくこう言われました。“ベテランの多いチームはデーゲームに弱い”と。ところがウチのレギュラーで、そんなに年をくっている選手はいない。後藤光尊だって、まだ34歳です。ということは、別のところに原因があるんじゃないか。私生活も含めて、夜の過ごし方、朝の迎え方は果たして万全なのか。1年間、選手たちのウォーミングアップを見ていると、デーゲームの試合前のほうが朝早いせいか座っている時間が長い。要するに試合に対する準備の不十分さが、この数字に表れていると思うんです。こうした微差を放置しておけば、やがて大差になる。小さなことかもしれませんが、僕はそういうところにも目を向けていきたいと考えています」

 このオフは先発の寺原隼人(ソフトバンク)と捕手の日高剛(阪神)がFAで抜けたが、先発要員として東野峻らをトレードで獲得し、寺原の人的補償で馬原孝浩もやってきた。野手では平野恵一が阪神から復帰する。そして極めつけは先日敢行した大型トレードだ。WBC代表候補にも選ばれている糸井の入団は チーム打率と得点がともに昨季はリーグ最低だった攻撃陣にとって大きなプラスとなるだろう。変貌を遂げつつあるチームを、真の戦う集団に変えられるか否か。オリックスが台風の目になるかどうかは、このキャンプにかかっている。

 問われる藤浪の育成プラン

 そしてファンにとってキャンプの大きな楽しみは新戦力の動向だろう。今季も大物ルーキーがプロのユニホームに袖を通す。大きな話題をさらっているのは、日本ハムの大谷翔平(岩手・花巻東高)だ。投げて160キロ。打っては高校通算56本塁打。栗山英樹監督は投手と野手の“二刀流”に挑戦させる方針を示している。

 ただ、多くの評論家はこのプランに懐疑的だ。「“二兎を追う者は一兎をも得ず”になりかねない」という声が大勢を占めている。パ・リーグではDH制を敷いているため、ピッチャーが交流戦以外で打席に立つことは、まずない。加えて右投げ左打ちのため、死球が右腕に当たるリスクがある。

 沢村栄治、金田正一、江夏豊、堀内恒夫ら過去の名投手を例にとれば、バッティングも優れていた選手が多い。それだけ野球センスに恵まれていた証拠だろう。大谷について各球団のスカウトに聞くと、バッターとしての評価のほうが高かった。日本のプロ野球では古くは川上哲治、王貞治、最近では石井琢朗(現・広島内野守備走塁コーチ)のようにプロ入り後、ピッチャーから野手に転向して成功したケースは少なくないが、逆で大投手になった例はない。キャンプで本人が実感するであろうプロのレベルを踏まえて、どのような選択をするのか見守りたい。

 大谷と並んで高卒ルーキーで光るのは阪神・藤浪晋太郎(大阪桐蔭高)だ。エースとして春夏連覇に貢献。197センチの長身から投げおろす速球は魅力的だ。センバツから比較すると、夏はフォームのバランスがとれ、安定感が増していた。高校時点での完成度では田中将大(東北楽天)を上回るかもしれない。
 
 とはいえ、まだ高卒1年目の右腕だ。キャンプでは1軍スタートだが、このままシーズンに突入しても1軍で投げさせるのか、それとも2軍でじっくり育てるのか。この判断は難しいところだろう。楽天で田中を1年目から先発として起用した野村克也元監督は「マー君(田中)はシーズン序盤から1軍で登板させるかどうか悩みました。ただ、楽天には先発投手不足という事情があった」と明かす。そして自身も阪神で指揮を執った経験から「すぐに結果を求めるメディアや気の早いファンの声に左右されないようにしてほしい」と語っていた。金、いやダイヤモンドの卵と呼べる逸材だけに、球団の育成プランが問われる。

 大学出の新人ではソフトバンクが3球団の競合の末、獲得に成功した東浜巨(亜大)に注目したい。4年間で通算22完封は、もちろん東都大学リーグの歴代ダントツ1位。現役時代に東映でノーヒットノーランを達成したこともある中大の高橋善正元監督は「ボールの出し入れができるのは東都で一番。ここはストライクで追いこみましょう、ここは勝負にいきましょう、と頭を使って投げられる」と他校の選手ながら手放しでほめていた。いくら豪速球を放っても、キレのある変化球を投げても、それだけでは抑えられないのがプロのバッターだ。クレバーさも兼ね備えた22歳が、名前のごとく、どこまで“巨”大なピッチャーになれるか、キャンプからチェックしておきたい。

「1年の計はキャンプにあり」
 プロ野球の世界ではそんな言葉がある。シーズンに突入すれば目の前の試合や個人成績に一喜一憂しがちで、なかなかチームとしての戦術や方針を浸透させることは容易ではない。キャンプで野村克也前監督が連日、ミーティングを開き、選手たちに“ノムラの考え”を叩きこんだのは有名な話だ。年に1度しかやらないようなサインプレーや奇策の練習も、この時期にしかできない。

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【主なキャンプ特番】
◇プロ野球×Jリーグキャンプリレー生中継(BSスカパー!) 2月9日10:00〜など
◇巨人キャンプ中継(日テレG+) 2月1日12:30〜など
◇スワローズキャンプ初の生中継!!(フジテレビONE) 2月10日10:00〜など  
◇猛虎キャンプリポート2013(スカイ・A sports+) 2月1日9:00〜など
◇タイガースキャンプ情報(GAORA) 2月1日18:30〜など
◇ファイターズキャンプ中継(GAORA ) 2月1日9:00〜など

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