いよいよJリーグ20年目のシーズンが幕を開ける。J1が3月2日(土)、J2は3月3日(日)に開幕だ。1993年に10クラブでスタートしたJリーグは今季、J1・J2あわせて40クラブで激闘を繰り広げることになる。昨季のJ1は、サンフレッチェ広島が悲願の初優勝を果たした。その広島が史上4クラブ目の連覇を達成できるかが最大のポイントだ。

 広島VS浦和、シーズン占う開幕戦

 広島を優勝に導いた指揮官・森保一のマネジメント能力はもっと評価されていい。彼はそれまで高い攻撃力が魅力だったチームに、守りのエッセンスを加えた。特に徹底させたのがファースト・ディフェンダー。つまり、攻撃から守備へ移った際に、誰が一番先に相手へアプローチをかけるかを明確にしたのだ。森保は「11人のなかのひとり目がうまくアプローチできないと、あとの10人がどうポジションをとっていいか決まってこない」と語っていた。果たして成果は数字にはっきりと表れた。11年に49あった失点は34に激減。これはリーグ2位タイの失点数だった。

 森保は選手に守備の大切さを説きつつも「広島の最もいい部分」と語る攻撃力を低下させることはなかった。得点63はリーグ2位と前年と比べて11も上乗せしたのだ。その要因として守備との相乗効果があげられる。森保はボールを奪った時、守から攻へスムーズに移行することにこだわった。

 改革と継続。これを両立させたところに、彼の指揮官としての非凡さが窺える。開幕を控え、チームは順調に調整できているようだ。2月23日に行われた富士ゼロックススーパー杯で柏レイソル(12年度天皇杯王者)を下し、早くも今季初タイトルを獲得した。この勢いをシーズンにつなげたい。

 キーマンは今季もFW佐藤寿人だろう。昨季は得点王とMVPに輝く活躍で優勝に貢献した。スーパー杯では左足ボレーで決勝点をあげた。佐藤はJリーグで最もイメージをマネージする作業に長けたストライカーと言っても過言ではない。本人はこう語っていた。
「自分のイメージと味方、特にボール保持者、パサーとのイメージが共有できなければ、、なかなかシュートシーンには至らない。事前にすり合わせをしていく作業がとても大事なんです」

 そのために佐藤が活用しているのが「iPadmini」だ。彼はこれを肌身離さず持ち歩き、常時、自身のゴールシーンを確認している。
「ときどきゴールを決めた時の自分のイメージと違っていることがあるんですよね。その部分も映像を見ながら確認できる。本当にこれは役立っています」

 Jリーグ開幕時は11歳だったストライカーは、昨季までにJ1通算117ゴール(歴代6位)を記録している。有望な選手が続々と海外へ移籍する中、「僕は僕で、ずっと国内でやってきたプライドがある」と“Jリーグ愛”は揺らぎがない。彼が今季も得点ランキングを独走するようなことになれば、広島は連覇に大きく近づく。

“打倒広島”の筆頭格は浦和レッズだろう。11年に15位まで低迷したが、昨季から招聘したミハイロ・ペトロヴィッチが、広島時代から掲げる攻撃サッカーでチームを再建しつつある。昨季は終盤まで優勝争いを演じ、3位でフィニッシュした。今季は06年以来のリーグ制覇を狙う。フロントもタイトル奪還に向けて効果的な補強を行った。広島の守備の要、森脇良太に始まり、FW興梠慎三、MF関口訓充ら主力級の選手を次々に獲得。MF長谷部誠(現ヴォルフスブルク)、DF田中マルクス闘莉王(現名古屋)らを擁してリーグと07年にアジアチャンピオンズリーグ(ACL)を制した時とそん色ない戦力を整えた。

 MF柏木陽介、DF槙野智章、森脇は指揮官の広島時代からの教え子だ。彼らが伝達役として攻撃サッカーをさらに浸透させることができれば、昨季47に留まった得点の大幅アップが見込める。ただ攻撃一辺倒では、やがて息詰まる時が来る。ボランチの阿部勇樹、鈴木啓太のベテランコンビやタメをつくれるブラジル人MFマルシオ・リシャルデスがゲームを落ち着かせることで、主導権を握った試合運びが可能になる。

 そんな広島と浦和は開幕カードで激突する。昨季の1位と3位のビッグマッチだけに、勝者は大きな自信と勢いを得ることができるはずだ。手の内を知り尽くす指揮官同士の采配も勝敗のカギを握るだろう。

 復活期す鹿島、仙台は悲願のVなるか

 注目クラブとしては鹿島アントラーズを挙げたい。昨季はヤマザキナビスコ杯こそ制したものの、リーグ戦は過去最低の11位。今季は“常勝鹿島”の復活を期すシーズンとなる。その第一段階として、クラブはトニーニョ・セレーゾを指揮官として迎え入れた。セレーゾは00年から05年まで指揮をとり、リーグ連覇を含む5つのタイトルを鹿島にもたらした。MF小笠原満男、MF本山雅志、DF中田浩二などセレーゾ時代にプレーしていた選手も多い。指揮官が自らの考えをイチから伝える手間が省けることもプラスに働きそうだ。

 チームは興梠やDF新井場徹ら主力数人を放出した。彼らの穴を埋めるのは容易ではないと思われたが、代わりに獲得した新戦力の評判がいい。まずは昨季J2得点王(38試合35得点)のブラジル人FWダヴィ。近年の鹿島には「アイツにボールを渡せば大丈夫」という絶対的なストライカーが不在だった。ダヴィは強靭なフィジカルを誇り、前線の起点にもなれる。精力的に守備もこなす献身性も魅力だ。

 2列目には1年で古巣復帰となった野沢拓也、J2で14ゴールをあげた中村充孝を獲得した。いずれも技術の高い選手であり、ボランチの小笠原、MF柴崎岳が加わる中盤の構成力はリーグ屈指だろう。DFラインもDF岩政大樹ら青木剛らベテランに加え、ルーキーのU−19日本代表DF植田直通など有望な若手も揃っている。彼らをセレーゾ監督がどうレベルアップさせるかが見ものだ。昨季は開幕から5戦勝ちなしとつまずいた。今季は開幕戦を飾り、常勝復活の足がかりにしたい。

 前年は惜しくも2位に終わったベガルタ仙台は、東北初のJ1王者を虎視眈々と狙っている。主力選手の関口を手放したが、ガンバ大阪で実績のあるMF佐々木勇人を獲得した。脆弱だった左サイドバックにはロンドン五輪代表候補にもなったDF和田拓也(東京V)を補強。各ポジションのバックアッパーも充実させた。

 就任6季目を迎える手倉森誠監督が築き上げた組織力はリーグ随一だ。昨季は持ち前の堅守に加え、ボールポゼッションを向上させた。今季、指揮官は仕掛ける意識を選手たちに植え付けようとしている。昨季は引いて守る相手を攻めあぐねる場面も少なくなかったからだ。今オフに獲得した優れた個人技で局面を打開できるMFヘベルチ(C大阪)、佐々木らが攻撃のアクセントとなれば、仙台のサッカーの幅は一気に広がる。

 不安なのはクラブ史上初のACL出場による過密日程だ。きめ細かく選手の状態をチェックし、状況によっては主力を温存する策も必要になってくるだろう。シーズンを通して大幅な戦力低下を防ぐことが栄冠への前提条件となる。

 次々と有望な若手が出てくる中、第一線で奮闘するベテランの輝きにも目が離せない。その代表格が横浜F・マリノスのMF中村俊輔(34歳)だ。昨季はインフルエンザの影響で出遅れたが、今季は「コンディションは若い時に比べてもいいですね。乳酸値のデータも20歳の時と一緒でした」と、万全な体調でプロ17年目を迎える。さすがにスピードの衰えは隠せないが、精力的なフリーランニングの量は増加している。技術の高さは健在で、彼の代名詞であるFKの場面では、スタジアムの時間が止まったような感覚にとらわれる。中村は今季もファンタジー溢れるプレーで多くの人を魅了してくれるだろう。

 中村は今季の横浜FMについてこう語っていた。
「もう見どころ満載ですよ。まずオジサンがいっぱいいる(笑)。ボンバー(DF中澤佑二、34歳)も含めて、FWマルキーニョス(36歳)とDFドトゥラ(39歳)。そういった選手たちに注目してほしいですね。僕も彼らの存在が個人的にすごくモチベーションになっています。サッカーに対する姿勢、メンタル、向上意欲がすごいですからね。見ていて『もっとやらなきゃ』って刺激を受けます」

 他にもカズことFW三浦知良(横浜FC、45歳)を筆頭に、MF服部年宏(39歳)などが存在感を示している。溌溂とした若い選手のプレーもわくわくするが、そんな若武者をいとも簡単にひねるベテランの老獪さもスポーツの醍醐味だ。長くJリーグを支えてきた男たちが見せる技術の髄を堪能したい。

 J2はG大阪の独走? 2位以下は混戦必至

 J2には今季からV・ファーレン長崎がFC町田ゼルビアと入れ替わるかたちで参入する。さらにJ1から降格したG大阪、ヴィッセル神戸を合わせた22チームが昇格3枠を争う。昨季は初めて導入されたプレーオフ制度(3位〜6位がトーナメント制で1枠を争う)の効果で、終盤まで熱い戦いを繰り広げた。

 昇格の最有力候補はG大阪か。日本代表のMF遠藤保仁、DF今野泰幸ら多くの主力が1年でのJ1復帰のために残留した。昨季J1最多の67ゴールを稼いだ攻撃力は他の追随を許さない。65失点を喫した守備組織を再構築し、代表戦で不在がちな遠藤と今野の代役を確保できれば、独走でJ1復帰を果たす可能性が高い。

 2番手には横浜FCを挙げたい。前年は開幕から8試合未勝利のどん底からプレーオフ圏内の4位まで浮上した。第5節から就任した山口素弘監督がパスサッカーを浸透させ、うまく上昇軌道に乗せた。今季も高いポゼッションからゴールを狙うスタイルは変わらない。今季はその精度をより高め、チャンスを逃さない決定力が求められる。目指すは自動昇格となる2位以上だ。

 プレーオフ圏内となる3〜6位争いは今季も熾烈を極めるだろう。昨季、プレーオフで敗れたジェフユナイテッド千葉、京都サンガF.C.、降格組のヴィッセル神戸、コンサドーレ札幌が順当とみる。名門復活を期し、元日本代表FW高原直泰を獲得した東京ヴェルディもおもしろい存在だ。J2には突出したチームはない。もちろんここに挙げなかったチームもチャンスは十分ある。42節に及ぶ長期戦においては、新戦力の獲得や戦術変更などにより、チーム状況が一気に上向く可能性があるからだ。序盤で勢いに乗って先行するチーム、怒涛の追い上げで上位陣をまくるチーム……いずれにしても、最終節まで目が離せない試合が続くのではないか。

 来年のブラジルW杯に向けて、Jリーグは重要な戦力発掘や戦力底上げの場でもある。これまでもDF長友佑都(インテル)やFW岡崎慎司(シュツットガルト)らが、Jリーグで結果を出してステップアップを果たした。急増する海外移籍で国内の空洞化を心配する声もある。そんな中で「Jにはオレがいる!」と豪語する選手にもっと出てきてもらいたい。そんなJリーグの伴走者こそは「スカパー!」であり、切っても切れない両者の幸せな関係が日本のサッカーを支えている。

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【2013Jリーグ 第1節】

J1
・3月2日(土)
ベガルタ仙台 × ヴァンフォーレ甲府(14:00、ユアスタ)
横浜F・マリノス × 湘南ベルマーレ(14:00、日産ス)
名古屋グランパス × ジュビロ磐田(14:00、豊田ス)
セレッソ大阪 × アルビレックス新潟(14:00、長居)
サンフレッチェ広島 × 浦和レッズ(14:00、広島ビ)
サンフレッチェ広島 × 浦和レッズ(14:00、Eスタ)
サガン鳥栖 × 鹿島アントラーズ(14:00、ベアスタ)
大宮アルディージャ × 清水エスパルス(16:00、NACK)
大分トリニータ × FC東京(19:00、大銀ド)

・3月3日(日)
柏レイソル × 川崎フロンターレ(13:00、柏)

J2
・3月3日(日)
栃木SC × 松本山雅FC(13:00、栃木グ)
ジェフユナイテッド千葉 × コンサドーレ札幌(13:00、フクアリ)
FC岐阜 × 横浜FC(13:00、長良川)
徳島ヴォルティス × ヴィッセル神戸(13:00、鳴門大塚)
東京ヴェルディ × アビスパ福岡(14:00、味スタ)
ギラヴァンツ北九州 × カターレ冨山(15:00、本城)
ロアッソ熊本 × ガイナーレ鳥取(15:00、うまスタ)
水戸ホーリーホック × ザスパクサツ群馬(15:30、Ksスタ)
ファジアーノ岡山 × V・ファーレン長崎(15:30、カンスタ)
愛媛FC × モンテディオ山形(15:30、ニンスタ)
ガンバ大阪 × 京都サンガF.C.(16:00、万博)

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