NBAの2012−13年シーズンも後半戦に突入――。すでに全30チームが41戦の折り返し地点を過ぎ、今季の勢力地図がうっすらと見えてきた感もある。
 昨季王者マイアミ・ヒートは2連覇を果たすのか、MVP候補に名乗りを挙げるのは誰か、そして出遅れたロスアンジェルス・レイカーズとボストン・セルティックスはどんな方向に進んでいくのか……など、今回は後半戦の見どころを探っていきたい。
(写真:ファイナルの舞台に進んでくるのはどのチームか)
【4強の優勝争い】

 現地1月31日の時点で、.690以上の勝率を挙げているのはヒート、サンアントニオ・スパーズ、オクラホマシティ・サンダー、ロスアンジェルス・クリッパーズの4チーム。今季の優勝チームは、他を引き離した完成度を誇るこの4強の中から出ると考える関係者が圧倒的に多い。

 イースタン・カンファレンスでは昨季王者ヒートが絶対の大本命。今季のヒートは今季は必ずしも絶好調で進んできているわけではないが、いわゆる“栄光の二日酔い(優勝の翌シーズンにペースが落ちること)”は、どの優勝チームにも見られること。その中でもエースのレブロン・ジェームスがこれまで以上に圧倒的なプレ—を見せ続けているだけに、この怪物に引っ張られ、大事な時期に向けてチーム全体が徐々に調子を上げていくのではないか。
(写真:今季から移籍したレイ・アレンもヒートとレブロンを大いに助けている)

 インディアナ・ペイサーズ、シカゴ・ブルズ、ニューヨーク・ニックスなどが、ヒートに続くイースタンの対抗馬。ただ、これらのチームもヒートとの7戦シリーズで勝てるだけの底力を備えているかどうかは極めて微妙である。

 一方のウェスタンでは、老練なスパーズ、上り調子のクリッパーズを振り切り、サンダーが2年連続ファイナル進出を果たせるかどうかが焦点となる。ケビン・デュラント、ラッセル・ウェストブルックを中心とした、ほぼ同じコアメンバーを軸に数年に渡ってプレーしてきたサンダーは、そろそろチーム全体が成熟期を迎えつつあるように思える。

 とはいえ、スパーズもトニー・パーカー、ティム・ダンカン、エマニュエル・ジノビリの“ビッグ3”が元気。クリッパーズも勝負強い魔術師クリス・ポールを擁しているだけに侮れない。“ワイルド・ワイルド・ウエスト”のプレーオフは、今季も実力伯仲の激しい戦いになりそうだ。

 開幕前、筆者は今季ファイナルは昨季と同じヒート対サンダーの顔合わせとなり、サンダーが雪辱を果たすと予想した。現時点でも、その考えを変えるつもりはない。最終決戦でのリマッチは実現するのか、今後の行方に注目が集まる。

【MVPはレブロン? デュラント? ポール?】

 レブロン・ジェームスが今季、残しているスタッツ(平均26.6得点、8.3リバウンド、7.1アシスト)はキャリア最高級。現役最高と目されている選手がそれだけの数字を残せば、本来ならMVP最有力候補とされてしかるべきだろう。

 ただ、今季の場合、現時点でレブロンが必ずしもダントツの本命だとは考えられていない。理由は、まず所属するヒートの成績がイースタンでは1位ながら、リーグ全体5位に過ぎないこと。そして、レブロンは過去4シーズンですでに3度もMVPに選ばれており、自らへのハードルをすでに高くしてしまっていること。

 そんな状況下で、レブロンと同等かそれ以上に今季MVPの可能性が高いと目されているのが、デュラント、ポールの2人である。
 アシストでリーグ2位、スティールで1位のポールは、リーグ最高のPGの呼称を欲しいままにする司令塔。昨季開幕前に移籍以降、低迷していたクリッパーズを一躍、強豪チームに押し上げた。今季、もしもチームをリーグ最高勝率に導くようなことがあれば、終盤にかけて多くの支持を得るかもしれない。

 過去3年連続得点王のデュラントは、一般的にレブロンに次ぐ現役2番手の選手と目されているスーパースコアラー。今季も得点ランキングでは1位におり、“4連覇”も有力だ。さらにチームに多くの勝ち星をもたらせば、入団6年目にして初のMVPも視界に入ってくる。
(写真:デュラントが初のファイナル制覇、シーズンMVPの2冠に輝く可能性も)

 NBAにおけるMVPはチーム成績と密接に関わってくるだけに、いずれにしても後半戦のそれぞれのチームの戦いぶりが極めて重要。近年稀に見るハイレベルのMVP争いになりそうな予感が漂ってくる。

【名門2チームは不調から脱せるか】

 今季最大のサプライズは、開幕前は優勝候補の一角とみなされたレイカーズ、セルティックスという伝統の2チームが不振に喘いでいることだろう。レイカーズは20勝26敗、セルティックスは22勝23敗と、ともに負け越しレコード。優勝を目指すどころか、どちらもプレーオフ進出すら危うい状況に追い込まれてしまっている。

 オフにスティーブ・ナッシュ、ドワイト・ハワードという大物を加えたレイカーズは、コービー・ブライアント、パウ・ガソルと合わせて夢のカルテットを結成。華やかなスター軍団が、昨季のウエスタン王者サンダーを脅かす存在になると予想した関係者は多かった。

 しかし、蓋を開けてみれば、主力のケガ、ケミストリー不在、わずか5戦を終えた時点でのコーチ交代劇など、チーム内は大混乱。勝ち星はなかなか伸びず、ずるずると低迷を続けてしまっている。 プレーオフ圏内の8位にいるヒューストン・ロケッツに4ゲーム差をつけられ、レベルの高いウェスタン内での追い上げは容易なことではない。将来の殿堂入りも有力と思われる4選手を揃えながら、このままプレーオフ進出を逃すようなことがあれば、歴史的失態として語り継がれていくことになるだろう。

 一方のセルティックスも、オフには複数のロールプレーヤーを加入させ、近年で最も層の厚いチームになったかと思われた。ところが序盤戦はなかなかエンジンがかからず、勝率5割前後をうろうろ。そして1月27日、悪夢がチームを襲った。頼みの司令塔レイジョン・ロンドが右膝の重傷で今季終了となり、チームの周囲には一気に絶望感に覆われたのである。
(写真:頼みのロンドが離脱し、セルティックスは厳しくなった)

“セルティックスのエンジン”と呼ばれるロンド抜きでは、プレーオフでの上位進出は絶望的。そんな状況下で、ケビン・ガーネット、ポール・ピアースといったベテランたちまでがトレードの噂に取り巻かれ始めている。現実的に、セルティックスの場合、2月下旬のトレード期限までにどんな動きをみせるかが後半戦の最大の見どころとなりそうだ。ここで若返りの道を選ぶか、それともさらなる戦力補強に挑むか。大胆な策を好むダニー・エインジGMの手腕に、改めて熱い視線が注がれることになる。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。
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