元日本スーパーウェルター級王者、現東洋太平洋同級王者のチャーリー太田にとって、約1年ぶりとなる故郷ニューヨークでの試合が決まった。
 2月21日、マンハッタンのローズランド・ボールルームでチャーリーが迎え撃つのは、元アマのアラスカ王者アベル・ペリー。身長180cm、リーチ198cmという恵まれた体格のペリーは、アマ戦績84勝6敗と豊富な実績を誇る。しかし、34歳にしてプロ戦績は18勝(9KO)6敗ともうひとつで、すでに底を見せた選手であるのは確かだろう。
(写真:チャーリーにとって重要な一戦が来週に迫っている(左はジムの中屋廣隆会長、右は中屋一生プロモーター) Photo by Naoki Fukuda)
 1年前と同様、勝敗のみならず、チャーリーにとっては内容が問われる一戦となる。戦場にするのはウェルター級、スーパーウェルター級という世界的に層の厚い階級だけに、力試しのチャンスはそう何度も訪れないはず。母国アメリカでの2度目の試合は、分かりやすい形での結果が求められる重要な一戦である。

 1981年にニューヨークで生まれたチャーリーは、2001年に米海軍の艦船整備士として横須賀基地に赴任。除隊後の2004年に日本人女性と結婚し、今でも東京の八王子市に住み続けている。

 日本でボクシングを始めると、2006年には全日本社会人選手権で優勝。プロデビュー後、2010年に日本&東洋太平洋の王座を獲得し、東洋太平洋王座は6度も防衛してきた。その過程で世界ランキング入りも果たし、昨年3月には、ついに故郷ニューヨークで初めての試合を行なうに至った。

 マディソンスクウェア・ガーデン・シアターで行なわれた一戦では、ガンドリック・キングに7ラウンドTKO勝ち。“聖地”と呼ばれる舞台で初登場にして、見事にストップ勝ちを収めたことは評価されてよい。

 もっとも、ただ勝つだけではなく、客を喜ばせるエンターテイメント性が常に求められるのがアメリカのリングだ。キング戦はミスを犯さないように慎重に戦った感もあり、試合後、「チャーリーの能力を持ってすればもっと早く仕留められていた」と述べた関係者が少なくなかったのも事実だった。

 凱旋試合の緊張はあっただろうし、絶対に負けられない一戦への重圧は大きかったはず。それでも、通算21勝(15KO)1敗1分というチャーリーのパワーを考えれば、より豪快な結末を演出することも確かに可能だったかもしれない。
(写真:昨年3月のニューヨークでの試合では内容に不満の声も周囲から飛び出した) 

「今回の試合では支配的な形で勝ちたい。これまでの僕は相手のレベルに合わせてしまう傾向があったけど、それを解消したい。昨季にニューヨークで戦った経験は、今度の試合に間違いなく生きるはず。準備は円滑に進められるはずだし、精神的にもより集中できると思う。プロモーターにアピールするためにも、早いラウンドから仕掛けていきたい」
 チャーリー本人もそう語り、再び巡って来たチャンスに意欲を示す。

 今回の一戦は、実際にこれから先のチャーリーのキャリアに大きな影響を及ぼす可能性が高い。HBOの元番組責任者だったルー・ディベラがプロモーターを務める興行で、鮮やかなボクシングを展開できれば、将来への展望は一気に開ける。逆にベテラン相手に、もしも手惑うことがあれば、商品価値を疑われてしまっても仕方ない。負けは論外、苦戦も許されない。客を喜ばせる形で圧倒的に勝ち、さらなる大舞台に繋げていく必要がある。

 ペリー戦後の4月には、保持する東洋太平洋タイトルの7度目の防衛戦を座間市の米軍基地で行なうことがすでに決定。この2試合を順調にクリアすれば、その後、再びアメリカ本土で試合を組みたいというのがチャーリーが所属する八王子中屋ジムの希望である。
(写真:ディベラ(左)もリングサイドで目を光らせている)
 
 中屋ジムの中屋一生プロモーターは、近未来にチャーリーとユーリ・フォアマン(元WBA世界スーパーウェルター級王者)、ディミトリー・サリタ(元世界タイトル挑戦者)といったビッグネームとの対戦を実現させたいと言う。
「ユーリ・フォアマンは名前が知られた選手だし、チャーリーは世界ランキングで高位にランクされています。フォアマン戦が実現すれば、サバイバルマッチとして互いにメリットのある試合になるんじゃないかと思っています。そのためにも、今回の一戦を良い内容で勝ってアピールしなければいけません」

 そう語るプロモーターの願い通り、チャーリーは明日への扉を自らの拳でこじ開けることができるか。豪快KOで目の肥えたニューヨーカーを喜ばせ、ステップアップの権利を手にできるか。
(写真:八王子から真の意味で世界に飛躍していけるか)

 チャーリーが生まれ育ったのは、“It's up to you(すべては自分次第)”が合言葉のニューヨークの街だ。その場所に再び戻って迎える2月21日の一戦は、彼のアメリカでのキャリアを左右しかねない大一番である。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。
オフィシャルサイト>>スポーツ見聞録 in NY
Twitter>>こちら
◎バックナンバーはこちらから