5月4日、ラスベガスMGMグランドガーデン・アリーナ
 WBC世界ウェルター級王座統一戦
王者 フロイド・メイウェザー(43勝(26KO)0敗)
vs.
暫定王者 ロバート・ゲレーロ(31勝(18KO)1敗1分)
 
“現役最強ボクサー”の呼称を欲しいままにしてきた無敗の5階級制覇王者、フロイド・メイウェザーの次戦が正式決定した。
 5月4日、場所はメイウェザーにとって本拠地と呼んでいいラスベガスのMGMグランドガーデンで、対戦相手は現WBC世界ウェルター級暫定王者ロバート・ゲレーロ。昨年5月にミゲール・コットに判定勝ちしてから、メイウェザーにとってちょうど1年ぶりのリング登場ということになる。
(写真:長く王座に君臨してきたメイウェザーにも衰えが忍び寄っているのか)
「ロバートはアウトボクシングができて、パンチ力もある。打たれ強さも備えている。メイウェザーに勝つ大きなチャンスがあるよ」
 この一戦の共同プロモートを担当するゴールデンボーイ・プロモーションズのリチャード・シェイファー社長が語る通り、暫定タイトルも含めれば4階級制覇してきたゲレーロは侮れない相手ではある。

 2006年にIBF世界フェザー級王座を獲得したゲレーロは、徐々に階級を上げ続け、昨年からウェルター級戦線に参入。7月には23戦無敗のウェルター級コンテンダーだったセルクック・アイディン、11月には元王者アンドレ・バートを連破して真価を証明してきた。

 それでも本来であれば、やはりメイウェザーの圧倒的有利は動かし難いカードなのだろう。タフで技術の下地もあるゲレーロだが、攻防のスムーズさには欠ける。ポイントを確実に奪う上手さも、一発で流れを掌握するほどのパンチングパワーも不足気味。何より、長く中量級戦線の看板であり続けてきたメイウェザーと比べ、ビッグファイトでの実績で圧倒的に劣っている。

 順当に行けば、スピードで大きく上回るメイウェザーが中盤あたりまでにはペースを掴むはず。2011年9月のビクター・オルティス戦ほど一方的な流れにはならないにしても、スキルを生かして徐々にポイントをピックアップしていく試合展開が有力ではないか。

 ただ、そんなメイウェザーにも懸念材料は少なからずある。希代のディフェンスマスターもすでに36歳。昨年のコット戦では相手の射程距離にいる時間が長く、近年最高の苦戦を強いられた。おかげで平坦な展開が多いメイウェザーのファイトとしては屈指の面白さだったが、試合後には「少しずつ衰えが忍び寄っているのではないか」と囁かれたものだった。
(写真:2007年以降はすべての試合をMGMグランドで行なってきた)

「メイウェザーは衰えていると思う。足は以前ほど速くないし、スローダウンしている。しかも1年も試合から遠ざかっているのだから、鈍りはあるはずだ」
 ゲレーロのそんなコメントは無視できない。もともとメイウェザーは2007年以降は1年に1試合ペースのため、“1年ぶり”と気にし過ぎる必要はないと思う人もいるだろう。ただ、単にブランクが空いただけでなく、昨年6〜8月には暴行罪で禁固刑を受けていたことも忘れるべきではない。短くない時間を刑務所で過ごした36歳のボクサーは、久々の試合で果たして適切なコンディションを作ってこれるのかどうか……。
 
「メイウェザーと対戦するには最高のタイミングだとは思う。しかし、彼がとてもシャープな選手であることに変わりはない。しばらく収監されていて、ブランクがあるとしても、彼ならしっかり準備を整えてくるよ」
 そう気を引き締めるゲレーロの方は、コンディション面ではまず問題はないだろう。29歳とフィジカル的には今がピークであり、過去2戦では骨格的にはやや上回る相手との消耗戦を制して逞しさを見せつけた。

 2010年には白血病に冒された夫人の傍にいるために当時保持していたIBF世界スーパーフェザー級王座を返上した。夫人の回復後、再び戴冠を果たした信念の男。一歩ずつ着実に前に進むタイプのゲレーロは、ついに手にした生涯のビッグチャンスに、必ずやベストの状態で臨んでくるはずだ。

「家族全体がエキサイトしている。ずっと目標にしてきた試合の機会が手に入ったのだから最高の気分だ。準備はできているよ。世界に向かって自分がベストファイターだと示すのが待ち切れない」
 そう語るゲレーロに対し、メイウェザーが万全の調整で臨めなかった場合、あるいはリング上でさらなる衰えを垣間見せた場合、試合は混沌としかねない。

 それでもメイウェザーなら致命的な被弾は避けるだろう。だが、無骨に前に出るサウスポーの暫定王者を完全にはさばき切れず、“プリティボーイ”がロープ際に押し込まれ続ける意外なシーンも見られるかもしれない。

 この試合が発表される際、メイウェザーは過去20戦以上も自身の試合を放映してきたケーブルテレビ局のHBOに代わり、新たにショータイム(SHO)と契約を結んだことを明らかにして業界を驚かせた。
(写真:ゲレーロとの対戦はSHOとの複数戦契約の第1戦でもある)

 発表されたのは、30カ月間に6試合を行なうという超大型契約。金額は公表されていないが、最低でも1試合3000万ドル(約27億9000万円)の報酬が保証され、総額2億ドル(約186億円)に及ぶ莫大なものだと推測される。ゲレーロ戦を皮切りに、その後の相手候補にはサウル・アルバレス、ダニー・ガルシア、マルコス・マイダナ、デボン・アレクサンダー、アルフレッド・アングロらの名前も挙げられている。

 この電撃契約のニュースは、ボクシング界におけるメイウェザーの存在の大きさを改めて印象づけることになった。その一方で、SHOにとって本当に旨味のあるビジネスなのかどうか疑問を抱く関係者が多かったのも事実である。

 長く待望されたマニー・パッキャオ戦は、(“最強対決”という意味では)すでに完全消滅。前記された相手候補の中で、現時点でビッグスターと呼べるのはアルバレスくらい。そんな状況下では、メイウェザー本人にもうしばらくパウンド・フォー・パウンド最強と目される力を保持してもらわなければ、SHOには割が合わないというものだろう。
(写真:アルバレスとの新旧対決は今秋にも実現の可能性があるが、その後は?)

 すでに峠を越えたと目される36歳のスピードスターは、依然として2億ドルもの投資に見合う商品価値を保っているのか。過去同様にどんな相手との試合でも100万件以上のペイパーヴュー購買数を稼いでくれるのか。
 お世辞にもビッグネームとは言えないゲレーロとの対戦は、その試金石であり、リトマス紙。この試合後、いや試合中にも、メイウェザーの現在地と未来予想図がうっすらと見えてくる気がしてならない。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。
オフィシャルサイト>>スポーツ見聞録 in NY
Twitter>>こちら
◎バックナンバーはこちらから