混戦が予想される今季のパ・リーグで私が最も注目するのが秋山ソフトバンクと伊東ロッテの“新因縁対決”だ。

 福岡ソフトバンク率いる秋山幸二と今季から千葉ロッテを率いる伊東勤の因縁は高校時代にまで遡る。
 高3の夏、熊本・八代高校のエース秋山は同校史上初の甲子園出場に王手をかけていた。決勝の相手は強肩強打の捕手・伊東擁する熊本工。こちらは熊本球界きっての名門だ。

 8回が終わり、八代が4対3とリード。ところが9回にドラマが待っていた。熊本工は2死ながら走者が三塁に進み、打者は伊東。前の打席で秋山は2ランを浴びていた。
 ここでバッテリーは敬遠策に出た。逆転の走者となった伊東は二盗を決め、マウンド上の秋山にプレッシャーをかけると、続く4番打者の打球はセンター前へ。決勝のホームを踏んだのが伊東だった。

 秋山にとっては文字どおり不倶戴天の敵だろう。
 しかし、人生とはわからない。「昨日の敵は今日の友」とは、よく言ったものだ。その後はともに西武に進み、主力選手として黄金時代を築き上げるのだ。

 監督として先に日本一になったのは伊東だ。西武を率いて1年目の2004年、レギュラーシーズン2位からのプレーオフ、日本シリーズを制し、チームを12年ぶりの頂点に導いた。その5年後にソフトバンクの監督に就任した秋山も11年に日本一を達成している。

 2人とも常勝軍団の主力だっただけに勝負に対するこだわりは一方ならぬものがある。
 たとえば秋山。温厚そうに映るが、選手を見る目は実にシビアだ。自身、85年から90年にかけて6年連続全試合出場を果たしているだけに、レギュラーには“皆勤”を求める。
「僕らの時代は“休まなかった”んじゃなく“休めなかった”。控えの人が試合に出て活躍したら、自分の居場所がなくなってしまう。今の選手にも、それぐらいの危機意識を持ってもらいたいんです」

 しかしキメの細かさなら伊東の方が上か。捕手出身だけに、とりわけリードや配球面での考察が光る。
 第2回WBCでは総合コーチとして侍ジャパンの連覇に貢献した。強敵のキューバ相手に対し、徹底的な内角攻めを指示したのが伊東だった。
「ビデオを観て決めたんです。キューバの打者はこういう攻め方をされたことがないと」

 この2人を含め今季パ・リーグは6人の指揮官のうち、5人が監督としてのリーグ優勝経験者。指揮官たちの知恵比べが楽しみだ。

<この原稿は2013年2月1日号『週刊漫画ゴラク』に掲載されたものです>

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