WBC1次ラウンド初戦のブラジル戦が7安打5得点。2戦目の中国戦が6安打5得点。予想されたこととはいえ、国際試合は甘くない。打線の爆発は、まず期待しない方がいい。この先、ピンと張ったタイトロープを渡り切るには、少ないチャンスを確実にモノにするしかないのだろう。
 そんな中、本来の力を発揮しているのが3番の内川聖一(福岡ソフトバンク)だ。初戦は2四死球に、逆転の口火を切るレフト前ヒット。2戦目は初回にセンター前ヒット、5回には追加点となる2点目のライト前タイムリー。3本のヒットは左、中、右ときれいに打ち分けている。こんな芸当ができるのは内川くらいのものである。

 内川は第2回WBCでも決勝の韓国戦で3安打を放つなど、打率3割3分3厘と活躍した。国際舞台で無類の勝負強さを発揮する理由、それは独自の野球観に依るものだと私は考える。

「審判の決めるストライクゾーンと僕のストライクゾーンは一緒ではない」。本人から、そう聞いたのは前回のWBCの直後だ。普通は逆ではないのか。審判がストライクと言えばストライク、ボールと言えばボール。それが野球ではないのか。

「いえ、違うんです。要は野球というスポーツをつくった人が勝手に“ここがストライク”と決め、審判がそれに従っているだけでしょう。僕がそれに従うかどうかは別問題。よく“ボール球を打ってもヒットにはならない”という人もいるけど、それはウソ。“そこは自分のストライクゾーンだ”と思えるなら打ってもいいんです。ただ、ボール球に手を出した以上は、きちんと自分の言葉で説明できなければいけません。こう思ったから、このようにして打とうと思いました、と自分の言葉でね」

 国際試合は審判によってストライクゾーンがマチマチだ。「ストライクゾーンは外に広く、内に辛いのが外国の審判」という定説があるが、その幅は人によって微妙に異なるばかりでなく、中には定説さえ疑われるような審判もいるから厄介きわまりない。

 ところが内川の場合、あくまでも「自分のストライクゾーン」で勝負しているから、審判に振り回されることがない。チャンスメーカーとして、あるいはポイントゲッターとして「不動の3番」の役割は、この先、ますます重みを増すと見る。

<この原稿は13年3月6日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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