第3回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)もそろそろ佳境を迎え、現地時間3月15日には決勝トーナメントに進出する4チームが出揃う。
 1組から日本、オランダが勝ち進んだのに続き、14日にはドミニカ共和国がアメリカ合衆国を下して準決勝進出決定。さらに15日にはアメリカ、プエルトリコが最後の椅子を争い、翌日には順位決定戦が行なわれる。
(写真:終盤までもつれる熱戦が多い今大会も残り数試合)
 役者が揃う今回の決勝トーナメントは、どんな組み合わせになろうと興味深いカードになる。決戦の地であるサンフランシスコは、かなり華やかな雰囲気に包まれるのではないだろうか。

 それでもこのイベント全体を考えると、やはり今回も主催国のアメリカ国内では注目度が高かったとは言い難い。
 アメリカ代表が登場する日ですらも、多くの試合で観客動員は苦戦。特に第1ラウンドのイタリア戦(19.303人)、カナダ戦(22.425人)ではキャパシティの半分に満たない惨敗に終わった。3月8日のメキシコ戦や、14日のドミニカ戦では大観衆が集まったが、これは相手チームのファンのおかげによるところが大きい。

 ガラガラのスタンドがテレビに映し出されては、ビッグイベントムードが高まるわけもない。ちょうどNBA、NHL、大学バスケットボール、さらにはMLBの春季キャンプとも時期的に重なることもあり、アメリカ国内のメディアの扱いも基本的に小さいもの。熱心なスポーツファンでなければ、決勝トーナメント開始目前の今でも大会の存在すら知らないものも多いだろう。
(写真:球場には空席が目立ち、国内での関心はいまひとつ)

 散々喧伝されている通り、今回のアメリカ代表もいわゆる“ドリームチーム”と呼べるオールスター軍団からはほど遠い。
 野手ではバスター・ポージー(ジャイアンツ)、マイク・トラウト、ジョシュ・ハミルトン(ともにエンゼルス)といった選手たちは欠場。デレク・ジーター(ヤンキース)が、昨季プレーオフ中に負った足首の骨折が原因で出場できないのも痛かった。投手ではジャスティン・バーランダー(タイガース)、クレイトン・カーショウ(ドジャース)、デビッド・プライス(レイズ)、ジェレッド・ウィーバー(エンゼルス)といった大エースたちはロースターに名前を連ねていない。

 これだけ多くのスター選手が不在では、“代表”というより“選抜”。そして、スーパースターたちが出場を敬遠する傾向はアメリカに限らず、日本、ベネズエラ(フェリックス・ヘルナンデス(マリナーズ)、ヨハン・サンタナ(メッツ)という左右エースはともに欠場)なども同じだった。

 率直に言って、各国のベストメンバーの75%ほどしか出場していない現状では、WBCは現実的な意味で「世界最高の野球国・地域を決める大会」からは程遠い。ただでさえ世界大会に関心の薄いアメリカ人が、このイベントに興味をもたないのも、ある意味で仕方ないのだろう。

 もっとも、開催国での盛り上がりがもうひとつだからといって、「WBCは価値のない大会だ」などと言いたいわけではまったくない。
 大規模のスポーツイベントが相応しいステイタスを得るまでには時間がかかるもの。1967年に行なわれた史上初のスーパーボウルはチケットが完売せず、1930年に開催されたサッカーの第1回ワールドカップに出場したのも、わずか13チームのみだったことを忘れるべきではない。

 そして、アメリカ国内の興味はさておき、行なわれている試合自体はここまでかなりレベルが高いように思える。
 第1、第2ラウンドを通じて、日本対台湾、キューバ対オランダ、アメリカ対カナダ、ドミニカ対イタリア、アメリカ対ドミニカなど、既に多くの好勝負が展開されてきた。イタリア、オランダらの予想外の活躍もあって、一部の“野球国”が強さを誇示するだけでなく、立派にワールドワイドな大会の様相を呈している。そして、アメリカ、日本以上にベースボールに情熱を燃やすラテン諸国のファンは、スタジアムにて熱い雰囲気をつくりあげてくれている。

 第1ラウンドから多くの試合を観て、第2ラウンドではマイアミの地でプール2の試合を取材している中で、筆者もかなり感化された部分がある。現時点で「世界最高の野球国・地域を決める大会とは言えない」からといって、WBCを無視するべきでも、切り捨てるべきでもない。いつかシステムがより整備され、地位が上がり、世界中に誇れる国際スポーツ大会となることは決して不可能ではないと思えるようになったのだ。

 もちろん、ルール、開催地の選定をはじめ、現時点では改良点は山ほどあるのも事実である。第1ラウンドでの不明瞭なタイブレーカー制度(複数のチームが勝敗で並んだ際には1イニングあたりの得失点差などで順位を決める)や、延長戦での特別ルール(13回以降は無死一、二塁からプレーが開始される)など、システム的に再考の余地があると思える部分は多い。第2ラウンドでの準決勝進出チームが決まった後の順位決定戦も不要だろう。

 そして何より、決勝トーナメントはともかく、第2ラウンドまではすべてアメリカ国外で開催してもよいのではないか。依然としてWBCへの関心が高いと言えないアメリカよりも、他国の方がより華やかな舞台を演出してくれると思えるからだ。

「ドミニカ共和国の(選手たちとファンの)情熱は予想通りだった。もちろん我々も彼らも情熱を持って臨んでいるが、彼らは少し違う形で表現する」
 14日のドミニカ戦に敗れた後、アメリカ代表のジョー・トーレ監督はそんなコメントを残していた。国を代表して戦うことへの想いをより分かりやすい形で表現するドミニカとその他のラテンの国々は、WBCをここまで見応えあるトーナメントにしてくれた立役者でもある。
(写真:ヤンキースなどを率いた名将のトーレ(右)もメンバー編成には苦労した)

 そのドミニカか、あるいはプエルトリコ(今回の第1ラウンドを開催)、カナダ(前回、1次ラウンドの舞台となり、まずまずの観客動員)などで早いラウンドを行なえば、雰囲気は素晴らしいものになる。基本的に常にやや準備不足のアメリカ代表にとっても、遠征のメリットはあるだろう。四面楚歌の状況で大会に臨むことは、チームのケミストリー養成に役立つはずだからだ。

 また、開催時期に関する議論も今後も続いていくに違いない。「米スポーツ界が、より静かな(ワールドシリーズ後の)11月に変更するべき」という声がある一方で、MLBは3月の挙行に拘っているとも言われる。

 しかし、本来ならオープン戦時期の3月に大イベントを開催するのはやはり少々無理がある。それゆえに、まるで各選手の所属チームに気を遣ったような起用に繋がってしまっているのだろう。そんな事態を避けるべく、ベストのタイミングはいったいいつなのか?
(写真:開幕前のケガを恐れ、各チームの監督が選手を欠場させるケースも少なくない)

 一部のメディアが主張している「7月のオールスターゲーム期間中」というアイデアを筆者も支持したい。グループリーグを3月下旬に行っておき、勝ち残った8〜16チームが一発勝負のトーナメント戦をMLBオールスターゲーム後に開催する。このシステムならば決勝ラウンドは1週間程度で終了するし、参加する選手は心身ともに準備ができており、必要以上の消耗を心配する必要もない。

 7月はNFLもNBAも行なわれない時期だけに、スポーツファンの注目を独占できる。オールスター戦と合わせ、特にベースボールファンにとってまさに夢のような1週間になるのではないか……。

 このように、より上質なイベントにするにはどうすれば良いかを多くの人が考えることが将来に繋がる。大会が数を重ね、好試合が繰り返されることで、歴史が連なっていく。繰り返すが、3回目を迎えたWBCには間違いなく大きなポテンシャルがある。それを生かすも殺すも、関わる人々次第である。

 数十年後、WBCが多くの人に認められる地位を築きあげた後に、試行錯誤を続けた大会創設直後のことを懐かしく振り返る日が来るかもしれない。少々大げさに表現するなら、参加している選手、ファン、メディアは、新たな素晴らしい伝統を構築する役目を担っているとも言えるのである。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。
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