二宮: 日本のプロ野球もいよいよ開幕しました。今回は「まいど!」のフレーズでおなじみの岩本勉さんと野球談義に花を咲かせたいと思っています。
岩本: まいど! 野球もお酒も大好きです。実は雲海酒造さんには知り合いがいて、そば焼酎はよくいただいています。

二宮: それは、ちょうど良かった。今回はそば焼酎でも長期貯蔵の「那由多(なゆた)の刻(とき)」を用意しました。ブランデーのような味わいが他のゲストの皆さんにも好評です。
岩本: 飴色で見た目からして普通の焼酎とは違って、熟成されている感じがしますね。では、そのまま水割りでいただきます!

 「まいど!」誕生秘話

二宮: ところで、「まいど!」が決まり文句になったきっかけは何だったんですか。
岩本: 実は、これは自分で考えたものではなく、たまたま飛び出したフレーズなんです。当時、グリーンスタジアム神戸に来ていた常連のおじさんが、いつも酔っ払って僕に声をかけてくれていました。先発で完投勝ちしてヒーローインタビューを受けている最中にも、「ガンちゃん、ナイスピッチングやったな」とベンチの上から話しかけてきたんです。「ありがとう。それにしてもベロベロやな。気ぃつけて帰ってや〜」と返すと、「まいど! おおきに〜」と言って帰っていく。それで僕もおじさんに「まいど! おおきに〜」と挨拶したら、その部分だけが夜のスポーツニュースで流れたんです。

二宮: アハハハ。酔っ払いのおじさんへの挨拶が、岩本さんの代名詞になってしまったと?
岩本: そうなんです。あの後、東京ドームで先発して調子が悪かったのですが、打線の援護で勝ち投手になった。広報の担当者からインタビューを受けるように促され、「いやいや、今日はやめてくださいよ」と断ろうとしたら、「ファンが待っているから」と……。渋々、お立ち台に上がると、広報から「あれ、あれ、やって」と言われたんです。「あれって、何?」「まいど、まいど」というわけで、ファンに向かって「まいど!」と挨拶した。すると球場がワーッと沸きました。それ以来、「まいど!」が僕の定番になったんです。

二宮: 偶然とはいえ、当時の日本ハムは注目度が高くない中、「まいど!」の効果は大きかったと思います。その後、北海道に移転してからの盛り上がりは凄まじいものがありますね。昨季はダルビッシュ有が抜けて苦戦が予想される中で優勝し、再び北海道を熱くしました。今季のパ・リーグは、どんなペナントレースになるでしょう。
岩本: 今季ほど解説者泣かせのシーズンはないでしょう。どのチームも戦力が均衡して、6球団すべてにチャンスがあります。

二宮: 昨季、Bクラスだった東北楽天はアンドリュー・ジョーンズ、ケイシー・マギーとメジャーリーグでも実績のある長距離砲を補強しましたし、最下位のオリックスも森脇浩司新監督の下、トレードでチームを活性化させています。
岩本: 森脇監督は指導力はもちろん、人間的にも素晴らしい方ですね。キャンプを取材に行くと、OBでもないのに、「ガンちゃん、よく来たな。いろいろ見ていってくれ」と温かく迎えてくれる。しかも、1日練習を見て回った後に、「ガンちゃん、どうだった? 意見聞かせてくれ」と質問してくるんです。そういったリーダーの姿勢はチーム内で必ずプラスに作用するとみています。オリックスは投打のタレントは揃っていますから、最下位から一気に上位に浮上する可能性は十二分にあります。

二宮: 翻ってディフェンディングチャンピオンの日本ハムは厳しい戦いを余儀なくされるのではないでしょうか。去年はダルビッシュ有投手の穴を吉川光夫投手が大ブレイクして埋めました。ただ、2年連続でうまくいくかどうか……。
岩本: 鋭いところを突きますね(笑)。確かに開幕投手に斎藤佑樹を立てて成功。中田翔を4番に据えた打線も機能した。歯車がうまくかみ合った面は大きいです。吉川も他球団のマークが厳しくなるでしょうし、優勝に貢献したコーチも数多くチームを去りました。栗山英樹監督の手腕が問われる1年になるでしょう。

二宮: 岩本さんは開幕投手を5度務めています。しかも98年、99年は2年連続で完封勝利。経験者からみて昨季、開幕に斎藤投手を持ってきた起用法はどう感じましたか?
岩本: ビックリしましたね。開幕戦は144分の1と言われますが、僕はそう思いません。少なくともスタメンで試合に出る選手は、そんな考えをするなら他の選手に出番を譲ってほしい。開幕戦の第1球目を経験したら、144分の1という意識は間違っても出てこないですね。開幕戦のスタメンはチームを代表して試合に出るわけです。ましてや開幕投手は144試合のチームの行方を決める1球を投じます。自分のみならず、監督やコーチ、選手、スタッフ、その家族の生活までもがかかっている。そう考えると、「楽しむ」という雰囲気はさらさらなかったです。チームのすべてを背負う責任感と誇りを持って第1球を投げていました。

二宮: いい話ですね。それくらいの覚悟を持ってマウンドに上がったからこそ、開幕戦でも結果を残せたのでしょう。
岩本: 野球はピッチャーが投げないと始まりません。グラウンドの中でひとり小高い丘に立って、止まったボールに力を与える。それによってドラマが起きる。人生が変わる。だからこそ、1球たりともおろそかにするわけにはいきません。現役時代はそういった意識を常に持って投げていました。これは若いピッチャーに対して、僕が一番伝えたいことでもありますね。

 二刀流成功の条件

二宮: 今季、日本ハムはもちろん、プロ野球で最も注目されている選手がドラフト1位の大谷翔平選手でしょう。彼の二刀流挑戦に対しては「どちらかに絞るべきだ」と指摘する評論家が多いですね。岩本さんの意見は?
岩本: 常識的に考えれば、両立は難しいという考えはもっともです。ただ、実際に彼のピッチング、バッティングを間近で見ると、意見が変わってくるように感じます。バッティング練習を見れば、「いいバッターだな」と素直に思えるし、ブルペンでのピッチングを見れば、「末恐ろしいピッチャー」だと感じます。バッター大谷、ピッチャー大谷をそれぞれ別の人間としてみれば、どちらも、ものすごい素材です。

二宮: でも、大谷選手の体はひとつしかない。そこが大きな問題ですよね。
岩本: たとえ両立できたとしても、どう彼を起用していくのか。僕自身も「どうするんだろう?」と思います。これだけピッチャーが分業制になって専門化している時代に、プロの世界で「4番兼エース」は難しいでしょう。当然のことながら、バッターとピッチャーでは必要な筋肉も違います。バッターとしては筋力をパワーアップすることが大事でも、ピッチャーとしては逆に柔軟性が求められる。ひとつのプランとしてはリリーフや抑えを任せる。これなら実現性が高いかもしれません。最初は野手でスタメンで出て、終盤でピッチャーをやればいいですからね。短いイニングを抑えるのであれば、パワーでねじ伏せることは可能です。

二宮: 佐々木主浩さんのようにクローザーは体つきがしっかりしているタイプも多いですね。
岩本: 先発ローテーションに入るピッチャーは、あまりパワーがありすぎると筋肉が邪魔して100球も150球も投げ続けることができません。先発型のピッチャーはひょろひょろとした細身か、ぽっちゃりしている体型が多いのはそのせいです。大谷には、どうせ両立するなら、「打率2割5分」「先発で6、7勝」という中途半端な選手にはなってほしくない。リリーフをさせて「3割20本塁打」、そして「30セーブ」という数字をゆくゆくは狙ってほしい。

二宮: ただ、それだけの素質であれば、ひとつに絞れば、もっとすごい選手になるという見方もある。日本の場合、ピッチャーからバッターに転向して成功した例はありますが、その逆はあまり聞きません。
岩本: 最近の日本ハムではオリックスに移籍した糸井嘉男もピッチャーから野手になって大成しましたね。日々投げ続けて感覚をキープしておかなくてはならないピッチャーと違って、バッターは少々、ブランクがあっても身についた技術は簡単には消えない。僕も、もし、どちらかをメインにするなら、ピッチャーをやってほしいと思います。
 ただ米国では、野手上がりがピッチャーになっているケースもあるので、どちらがいいとは断言できません。僕は91年と93年にヤンキースの教育リーグに参加しました。その時、最初は野手でプレーしていた選手が2年後にはピッチャーをやっていたんです。本人に聞くと、「バッティングの調子が悪いからピッチャーやっている」と。他にもそういう選手は米国では何人もいるみたいですよ。

二宮: もうひとつ心配なのは、彼が右投左打という点です。大事な右腕が打席ではピッチャーに対峙するかたちになる。死球が当たった時にピッチングに支障が出ないか心配です。
岩本: 厳しいところズバズバきますね(笑)。まさにその通りです。不安がないとは言えません。腕はもちろん、ヒザに当たっても投げる時の踏ん張りがきかなくなります。現状の大谷に関してはピッチャー、バッターともに甲乙つけがたいものがあります。本人も両立に関して、1度も弱音を吐いたり、マイナスな発言をしていない。最終的に一本に絞るとしても、しばらく見極めの時間があってもいいのではないでしょうか。

 バッターは不必要な防具をつけるな!

二宮: 大谷選手の陰にすっかり隠れてしまったのが昨季の開幕投手、斎藤佑樹投手です。肩痛で出遅れていますが、昨季のピッチングを見ても、もう一皮むけてほしいところです。
岩本: 彼は本当に素晴らしい青年です。ただし、プロで生き残るには泥臭さも必要になります。理想を追い求めることも大事です。ただ、現実を見据えたピッチングも身につけてほしいですね。個人的には東尾修さんのように、どんどんインコースを攻めるタイプを目指すべきだと感じています。

二宮: この点は意見が合いますね。私も昨年、彼と対談をした際に、「東尾さんのようなスタイルはどうか」と水を向けたんです。彼はあまり乗り気ではないようでしたが……。
岩本: でも目を見張るような速球があるわけでもなく、絶対に打てない変化球を投げられるわけではない。ならば投球術でバッターを上回るしかないんです。相手に少々嫌われるくらいがちょうどいい。ピッチングで脱・優等生になれるかどうかが、斎藤佑樹の今後を左右するとみています。

二宮: 彼の話を聞いていると、高校時代の本格派のスタイルをまだ引きずっている部分を感じます。
岩本: インコースをどんどん突くことは卑怯でもなんでもありません。僕は現役時代、近鉄にいたタフィ・ローズ相手に徹底したインコース攻めをしました。あまりにも多いので、ローズは怒っていましたよ。そうやって威嚇して懐に投げさせないようにするのも彼の作戦だったんですね。それも分かっていたので、僕はこう言い返しましたよ。「いくら怒ってもインコース投げるよ」って。「Why?」とローズが言うものだから、「だって、いいバッターだからインコースに投げないと抑えられない。これはリスペクトの証だ」と。

二宮: プロは何よりも結果が求められる世界です。インコースを投げずに踏み込まれて打たれていては、当然ながらいい成績は残せません。
岩本: 僕だって人一倍優れたボールがあったわけではありません。インコースを突くピッチングをしたからこそプロでご飯が食べられたと思っています。内角を攻めるにあたり、今のプロ野球に対して、ぜひピッチャーの立場から訴えたいことがあるんです。

二宮: それは何でしょう?
岩本: バッターはヒジ当てとか、防具をいろいろつけ過ぎではないでしょうか。あれだとピッチャーが一生懸命、インコースを突いても怖くないから、どんどん踏み込んでくる。それでもインコースに投げて、バッターが避けずにひじ当てに当たってデッドボールになったら、ピッチャーは仕事にならない。

二宮: 確かにピッチャーは腕一本で勝負しているのに、バッターは防具をたくさんつけていますね。
岩本: 最近はバッティンググローブの上から、さらにクッション材をつけるバッターも増えてきています。これをつけると詰まっても手が痛くないし、その分、バットがしなって打球が内野の頭を越えていく。先っぽに当たっても手がしびれないから、そのまま押し込める。僕たちはバッターを詰まらせて打ち取ることに命を賭けているのに、それもできなくなります。いくら低反発の統一球が導入されて以前よりピッチャー有利になったとはいえ、これはどこかで歯止めをかけたほうがいいのではないかと考えています。

二宮: さすが、ガンちゃん。お酒が入ってトークもさらに乗ってきました。ところで「那由多(なゆた)の刻(とき)」はいかがですか。
岩本: メロメロになりそうなくらい、おいしいです。以前は「焼酎=クセがある」というイメージでしたけど、雲海酒造のそば焼酎は本当に飲みやすいです。

二宮: グラスが空いてますから、どうぞ、たっぷり召し上がってください。
岩本: まいど! おおきに。お酒飲みながら、野球の話ができるなんて最高です。これから、まだまだ何杯でもいきますよ(笑)。

(後編につづく)

<岩本勉(いわもと・つとむ)プロフィール>
1971年5月11日、大阪府生まれ。阪南大高から90年にドラフト2位で日本ハムに入団。6年目の95年から1軍に定着し、翌96年には初の2ケタ勝利をマークする。98年と99年には2年連続、開幕投手で完封勝利(パ・リーグタイ記録)を収め、11勝と13勝をあげる。チームのエースとなり、「ガンちゃん」のニックネームで愛された。05年の交流戦ではパ・リーグでは指名打者制導入後、日本人投手としては初となるホームランを放つ。同年限りで現役を引退。現在は野球解説者、スポーツコメンテイターとしてTV、ラジオを中心に幅広く活動中。現役時代の通算成績は239試合、63勝79敗3セーブ、防御率4.44。オールスターゲーム3回出場(98〜00年)。
>>オフィシャルtwitter





★今回の対談で楽しんだお酒★[/color]

長期に渡り、樫樽の中で貯蔵熟成した長期貯蔵の本格そば焼酎「那由多(なゆた)の刻(とき)」。豊かな香りとまろやかなコクの深い味わいが特徴。国際的な品評会「モンドセレクション」2013年最高金賞(GRAND GOLD QUALITY AWARD)受賞。

提供/雲海酒造株式会社

<対談協力>
日向地鶏と焼酎 おはな
東京都千代田区平河町2−4−5平河町KビルB1F
TEL:03-3264-0087
営業時間:17:00〜23:00(L.O.22:30)
定休日:日曜・祝日
>>詳しくは店舗サイトへ

☆プレゼント☆
 岩本勉さんの直筆サインボールを長期貯蔵本格そば焼酎「那由多(なゆた)の刻(とき)」(720ml、アルコール度数25度)とともに読者3名様にプレゼント致します。
 ご希望の方はより、本文の最初に「岩本勉さんサインボール希望」と明記の上、下記クイズの答え、住所、氏名、年齢、連絡先(電話番号)、このコーナーへの感想や取り上げて欲しいゲストなどがあれば、お書き添えの上、送信してください。応募者多数の場合は抽選とし、当選発表は商品の発送をもってかえさせていただきます。たくさんのご応募お待ちしております。なお、ご応募は20歳以上の方に限らせていただきます。
◎クイズ◎
 今回、岩本勉さんと楽しんだお酒の名前は?

 お酒は20歳になってから。
 お酒は楽しく適量を。
 飲酒運転は絶対にやめましょう。
 妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。

(構成:石田洋之)
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