第291回「『する』スポーツを守るために」

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 スポーツには、「する」「みる」「支える」という3つの関わり方がある、とよく言われる。近年はそこに「応援する」が加わった。スタジアムを埋めるファンの熱気も、テレビや配信で試合を楽しむ時間も、間違いなく人の体温を上げ、スポーツ文化を豊かにしている。

 

 だが、いま最も気になるのは、その土台となる「する」人たちが減っていることだ。プロ野球は観客動員を伸ばし、スター選手の活躍は連日のように話題になる。一方で、野球を実際に始める子どもたちは減っている。これは野球だけの話ではない。サッカーなどのメジャースポーツでも、そして競技人口の少ない種目ならなおさら、子どもたちがスポーツに出会い、続けるための環境は厳しくなっている。

 

 もちろん、少子化の影響は大きい。しかし、それだけを理由にしてしまってはいけない。子どもにとって「する」スポーツのハードルそのものが、以前よりずっと高くなっているのではないか。

 

 公園は整備されても、ボール遊びができる場所は減った。学校の校庭も、誰もが放課後に自由に使えるとは限らない。プールも維持費や老朽化、気候変動などを理由に、閉鎖や集約が進む地域がある。気軽に体を動かし、遊びの延長でスポーツに触れる機会が少なくなっている。

 

 さらに、スポーツを始めるには用具がいる。月謝や部費がかかる。遠征となれば交通費も宿泊費も必要になる。朝早くからの送迎、練習や試合での保護者の協力なしには立ち行かない場合もある。近年は、安全面への配慮から、練習や試合の送迎を保護者だけに頼り切ることも難しくなっている。ますます子どもの競技活動は、本人のやる気だけでは完結しなくなっている。お金も、時間も、親の理解も必要になる。

 

 先日、高校野球の部費が物価高の影響で、値上げする学校が出ているという記事を読んだ。硬式野球はもともと道具代がかかる競技ではあるが、経済的なハードルが上がってきた。野球をしたい、サッカーをしたい、水泳をしたい――。その思いの前に、家庭の事情が立ちはだかるとしたら、あまりに切ない。

 

 スポーツは、勝つためだけのものではない。思いきり走る、ボールを追う、仲間と笑う、負けて悔しがる。そこには、技術だけでは測れない学びがある。ルールを守ること。仲間と役割を分けること。失敗してももう一度挑戦すること。こうした経験が、テストの点数だけでは測れない力を育て、人との関わり方や、社会の中で生きる力につながっていく。

 

社会全体の利益

 だからこそ、いま進められている部活動の地域展開も、単に先生の負担を減らすための改革にしてはならない。教員の長時間勤務を解消することはもちろん重要だ。しかし、学校が抱えてきた負担を、そのまま地域のボランティアや保護者に振り分けるだけなら、持続可能とは言えない。

 

 8月6日に都内で行われた部活動の地域展開に関するシンポジウムで示された試算(経済同友会調べ)では、休日の地域展開だけでも年間約500億円、平日まで含めれば約1300億円の費用が必要になるという。国は部活動の地域展開を含む関連予算として139億円を計上しているが、これだけで課題が解決するわけではない。この1300億円は高いだろうか。私は、むしろ日本の将来を考えた時に、安い投資ではないかと思う。

 

 受益者負担という言葉も聞く。だが、受益者は誰なのか。子どもだけではないだろう。スポーツを通じて心身を育み、仲間をつくり、地域とつながる子どもたちは、いずれ社会を支える大人になる。その機会を守ることは、社会全体の利益のはずだ。

 

 さらに、地域の指導者だけに頼るのではなく、企業が副業や地域貢献として指導に関われる仕組みも考えたい。専門性と責任を持った指導者を育て、子どもたちと保護者が安心して活動を選べる環境を整える。スポーツ界だけの課題にせず、教育、行政、企業、地域が一緒になって支えるべきテーマである。

 

「みる」スポーツは、プロ化や配信の進化で、かつてないほど便利になった。だからこそ今度は、「する」スポーツを誰もが選べるようにしなければならない。公園、学校、地域施設を、子どもたちがもっと自然に体を動かせる場所にする。家庭の経済状況や住んでいる地域に関わらず、スポーツに挑戦できるようにするべきだろう。

 

 スポーツの裾野は、トップアスリートだけでは広がらない。ボールを蹴ったことがある、泳げるようになった、初めてゴールを決めた。そんな小さな「できた」の数が、未来のスポーツをつくっていく。

 

 子どもたちに必要なのは、「がんばれ」と声をかけることだけではない。安心して、気軽に、何度でもスポーツを始められる環境である。

 

 いま問われているのは、子どもたちにスポーツをさせるか、させないかではない。

 子どもたちの「やってみたい」を、社会全体でどう守るのか。その覚悟だと思う。

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール>

 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17~25年まで東京都議会議員を務めた。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

 

>>白戸太朗オフィシャルサイト
>>株式会社アスロニア ホームページ

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