プロ野球公式戦のスケジュールは同一球団との3連戦をベースに成立している。3つのうち2つを勝てば勝率6割6分7厘。かなりのハイアベレージだ。
 昨季の巨人は3・4月、9勝13敗2分けと出遅れながら、終わってみれば86勝43敗15分け、勝率6割6分7厘という好成績でリーグ優勝を果たした。2位中日に10・5ゲーム差をつける圧勝だった。
 ちなみに5月以降の成績は77勝30敗13分け。勝率7割2分。大型車ゆえエンジンのかかりは遅いが、ギアがトップに入れば、もうどこも止められない。他の5球団との排気量の違いは一目瞭然だった。

 今季の巨人は昨季よりも、さらにグレードアップした感がある。1分けをはさんで、8日までに開幕7連勝。どこにも死角は見当たらない。開幕7連勝は1941年以来、72年ぶりだというから恐れ入る。まだ1リーグ制のこの年、巨人は62勝22敗2分け、勝率7割3分8厘で優勝を果たしている。

 今季の巨人の戦いぶりを見ていると、プロ野球史上初の100勝は無理としても、55年以来、58年ぶりの勝率7割台は可能ではないかと思えてくる。55年、セでは巨人が7割1分3厘、パでは南海が7割7厘という驚異的な勝率を残した。巨人のチーム防御率1・75は2リーグ分立以降の最高記録である。

 勝率7割台のペナントレース、戦っている選手にとってはどんな“体感”なのか。この年、12勝8敗、防御率1・74の好成績を残した安原(現・渡邊)達佳に聞いてみた。

「もう負ける気がしなかったですね。仮に6回まで負けていたとする。すると主将の川上哲治さんが“さぁ行くぞ”と声を張り上げるんです。その声を狼煙代わりに7、8、9回で大体、逆転していました。(監督の)水原茂さんは、チームのことはベテランの川上さんや千葉茂さんに任せて何も言わなかった。見るところ、今は阿部慎之助が川上さんの役割を果たしていますね。勝率7割台? 楽勝でしょう。55年もそうだったようにオールスターゲーム前に他球団は戦意を喪失してしまうと思いますよ」

 58年ぶりの勝率7割台への期待と懸念。巨人が強過ぎるのか、それとも他球団がだらしないのか。「まだペナントレースは始まったばかり」という声が、今年ばかりは虚しく響く。

<この原稿は13年4月10日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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