「弓道は自分と的との勝負――これに尽きます。すなわち、的に負けるということは自分に負けるということです」。法政大学体育会弓道部監督の藤井俊雄はこう語っていた。その意味で、川田悠平は自分との勝負に勝った。大学3年の4月、川田に再び的中が戻ってきたのだ。「矢数をかけることで、的中する感覚に体が慣れてきました。それがつながったという感じですね」と本人は分析した。スランプを脱した川田はその後、顔面麻痺を患いながらも全国学生弓道選抜大会、全日本学生弓道選手権の優勝に貢献していく。そんな大学3年のシーズンで、川田は「ここ最近で一番悔しい」と振り返る出来事も経験していた。
 準優勝に終わった第42回全関東学生弓道選手権(6月、日本武道館)である。川田は予選から準決勝までの16射で15中という高い的中を見せたものの、決勝では4射2中と振るわなかった。結局、法大は決勝で明治大学に的中20対21という僅差で惜敗したのだ。外したのは彼だけではなかった。しかし、川田は「自分が2本外したせいで負けたと思っています」と自身の実力不足を嘆いた。

 リベンジに燃える今年は、キャプテンとしてチームを牽引している。掲げる目標は主要5大会(選抜、全関東、全日本、東京都学生リーグ、全国学生弓道王座決定戦)の完全制覇だ。5冠を達成すれば、史上初の快挙となる。

「全関東は5年間、優勝から遠ざかっていますので、そろそろ日本武道館での優勝を味わってみたいですね。逆に、3連覇中の選抜では、まだどこも成し遂げていない4連覇を絶対に達成したい。あとは9月から始まる学生リーグ。そのために1年間、練習をするようなものなので、リーグで勝つことには大きな意義があります。そして、11月下旬の王座も優勝して、シーズンを締めくくりたいですね」

 全員が勝ちたいと言い合うチームに

 そんな壮大な目標に向かう上で、川田は主将としてどんなチームづくりを心掛けているのか。
「『勝ちたい』と言い合えるチームにしたいですね。誰かひとりでも『どうでもいいよ』と思うようでは勝てません。全員が勝ちたいと思った上で、試合に臨みたいと考えています」

 また、自身の課題については、こう語っている。
「自分は『離れ』の時に左腕を振ってしまう傾向があるんです。そうなると、矢の軌道がぶれしまって的に当たらないので、絶対に直さないといけません」
 右手にかける 矢が途中で離れても、弓を持つ左手がぶれずに狙いが定まっていれば、当たる場合がある。しかし、左手が崩れれば、矢先と的までを結ぶ線がぶれて的中する確率は低くなるのだ。課題を克服するためにはどうすればいいのか。藤井は「弓の本来の引き方を心掛ける」ことを挙げた。

「右手と左手との線上を意識して引くことです。基本的なことですが、克服するにはそれが一番だと思います。川田はどうすれば的中するかを理解しています。ですから、左手のブレさえ克服すれば、さらに上のレベル、すなわち安定した的中を出せるでしょう」
 川田がひとつ上のレベルに到達すれば、法大はさらに“偉業”に近づくはずだ。

 3月、法大の道場には新入生に「大きく引け!」とアドバイスする川田の声が響いていた。その成果もあってか、同月に行われた新人戦で、法大は5年ぶり15度目の優勝を果たした。これで、残りの主要大会をすべて制覇し、6冠を達成する可能性が出てきた。前人未到の大記録へ――主将として、エースとして、川田はチームを勝利に導いていく。

(おわり)

川田悠平(かわた・ゆうへい)プロフィール>
1991年、8月10日、高知県生まれ。岡豊高校進学を機に弓道を始める。高校時代はインターハイに2度、高校選抜に1度出場。09年の新潟国体では遠的で8位、近的では4位入賞を果たした。法大入学後は1年時の後期から団体戦のメンバーに選出。2年時には出場した選抜で同校の2連覇に貢献。昨年は団体戦のレギュラーとして主要大会に出場。選抜3連覇、4年ぶり9度目の全日本制覇を成し遂げた。同年12月1日、法大体育会弓道部の第56代主将に就任。今年は史上初の主要大会5冠を目指す。

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(鈴木友多)
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