プロ野球が開幕し、ちょうど1カ月が経とうとしています。現在、セ・リーグは下馬評通り巨人が独走状態。一方のパ・リーグは投打がかみ合っている埼玉西武がトップを走っています。統一球導入以来、激減していたホームランも、今季は非常によく出ています。それだけ各バッターのレベルが高くなったということが言えるのではないでしょうか。とはいえ、ペナントレースは始まったばかり。残り約120試合、どんな展開が待っているのか、とても楽しみです。
 さて、今シーズンはルーキーピッチャーの活躍が目立っていますね。なかでも“大人のピッチング”を見せているのが、菅野智之(巨人)です。周知の通り、菅野は一昨年のドラフトで北海道日本ハムから1位指名を受けましたが、それを拒否して“浪人”という道を選択しました。当時、私は大きな決断をしたその勇気こそ高く評価したものの、実戦から離れることには懐疑的でした。彼ほどの実力があるからこそ、“浪人”はもったいないと思ったのです。

 ところが、今の彼のピッチングを見ていると、「決して浪人はムダにはなっていない」ということが、はっきりと見てとれます。25日現在、4試合に登板して3勝0敗、防御率1.86。正直、この好成績には驚いています。改めて彼の素質の高さを痛感させられているところです。

 彼のピッチングは完成度が非常に高い。キャッチャーの意図していることを理解しており、ストライクにも、ボールにも、要求通りのコースにきっちりと投げることのできる抜群のコントロールがあります。正直、ルーキーとは思わない方がいいでしょう。

 大学時代の菅野は150キロ台の真っ直ぐで押すタイプのピッチャーというイメージがありましたが、プロに入った今は、バッターとの駆け引きを覚えたのでしょう、勝てるピッチングをしています。つまり、押すだけでなく、時には引くというように、打ち取るパターンがいくつもあるのです。それが、現在の結果に表れています。

 勢いある“ライアン”小川

 同じセ・リーグでは、小川泰弘(東京ヤクルト)がいいですね。現在は3試合に登板し、2勝0敗、防御率1.00。2試合目までは防御率0.00でした。彼は菅野とは正反対のタイプで、コースを狙うのではなく、「打てるものなら、打ってみろ!」という勢いが、好成績につながっていると思います。見ていると、小川の勢いにバッターが押されている印象があります。ルーキーで最初からあれだけ腕を振れるということは、自信がある証拠。“怖いもの知らず”のピッチングはルーキーらしくもあり、見ている方も気持ちがいいですよね。

 小川と言えば、やはりノーラン・ライアンのように足を高く上げる、あの独特なフォームが話題となっています。身長171センチと小柄な彼が、あのようなダイナミックなフォームで投げることができるのは、体幹の強さと股関節の柔らかさがあるからにほかなりません。現在のプロ野球では唯一無二の存在として、注目が集まっていますね。

 前述したように、17日の中日戦では7安打4失点で6回途中に降板と、初めてプロの洗礼を浴びたかたちになりました。勢いとボールの強さに加えて、今後は緩急や勝負どころで自信をもって投げることのできるボールが必要でしょう。

 “自分らしさ”が欲しい則本&東浜

 一方、パ・リーグでは則本昂大(東北楽天)が、開幕投手に抜擢されました。勝てば、ルーキーの開幕投手としては55年ぶりの快挙ということで、注目を浴びましたね。残念ながら6安打1本塁打4失点で、7回途中に降板し、逆にプロ初黒星を喫してしまいました。しかし、2試合目でプロ初勝利を挙げ、現在は4試合に登板し、1勝2敗、防御率3.76という成績です。

 ただ、勝っても負けても、則本が登板した試合は何かバタバタ感が否めません。それは、彼本来のピッチングと、彼がやろうとしているピッチングとにギャップがあるからではないでしょうか。
「もっと真っすぐで押せばいいものを、コースに丁寧に投げようとしすぎている」
 星野仙一監督がこのようなコメントを残していましたが、私もまったく同じ気持ちです。

 小川同様、則本もまたコースを狙うというようなタイプではありません。今はまだ、きれいなピッチングをする必要はないのですから、自分の力を試すつもりで、攻めていくべきです。打たれてこそ、学ぶべきことは多いのですから。

 則本以上に自分のピッチングができず、不振に陥っているのが東浜巨(福岡ソフトバンク)です。ようやく一軍に上がってきたかと思っていたら、プロ初登板は7安打1本塁打6失点で3回1/3KO、2試合目は8安打1本塁打6失点で5回KOという散々な結果に終わりました。これでは再びファームでの調整を命じられても仕方ありません。

 もちろん、彼の実力はこんなものではありません。では、なぜこのような不甲斐ないピッチングとなってしまうのか。それはコントロールに自信があるからか、コースに投げわけようとしているのですが、そのボールに球威がないからです。これではいくらいいコースに投げられても、バッターは嫌がりません。

 コントロールやバッターの駆け引きというのは、球に強さがあってこそ。このことを東浜には早く気づいてほしいと思います。頭のいいピッチャーですから、ほんの少し意識を変えるだけで、見違えるような素晴らしいピッチングを見せてくれるはず。東浜の一軍復帰を首を長くして待っていたいと思います。

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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