前期は残り4試合で、20勝13敗3分の首位。2位・徳島とは1ゲーム差ながら、マジック4が点灯しています。6月に入り、7勝2敗と投打の歯車がかみ合ってきました。5月後半からの徳島、愛媛との5試合を4勝1敗と勝ち越したことでチームが波に乗りましたね。
 開幕から投手陣はよく頑張っていますが、特に田村雅樹後藤真人から抑えの酒井大介につなぐ必勝パターンを確立できたことは大きいです。後ろにピッチャーが控えていれば、先発も完投を考えず、6回をメドに思い切って投げることができます。序盤でゲームを壊しさえしなければ何とかなるという雰囲気がチーム内に生まれているため、投打ともに腰を据えて戦えているのではないでしょうか。

 ルーキーの田村は開幕当初は先発でしたが、どうしても6、7回を任せられるピッチャーがいなかったため、中継ぎに回ってもらうことになりました。以前から紹介しているように、彼の良さは制球力。自滅しないタイプのため、先発が早く崩れた際のロングリリーフとしても大車輪の働きをみせています。

 16日の高知戦では先発の篠原慎平が初回に3失点し、自分のピッチングを完全に見失っていたため、2回途中からマウンドに上がってもらいました。結果は6回まで投げ切り、ノーヒットの好投。ここまで最多の28試合に登板して5勝2敗、防御率1.88と立派な成績です。短いイニングで腕も思い切って振れており、球速も140キロ台中盤が出るようになってきました。

 リリーフは1球が命とりになるポジションです。先発以上に1球1球への集中力が求められます。田村がさらに上を目指すには、右バッターへのインコースをいかに制するか。スライダー、カットボールと外へ動く変化球はいいだけに、シュートを磨けば鬼に金棒です。今はまだ自信がないのか、懐を突き切れていません。東尾修さんの“ケンカ投法”ばりに、思い切って内角を攻められるようになれば、バッターにとってはもっとイヤなピッチャーになるでしょう。

 左サイドスローの後藤は昨オフ、下半身を強化した成果が出ています。ストレートの球速は143キロが出ており、変化球の精度もアップしました。西田真二監督から「ワンポイントではなく、セットアッパーとして2イニングは抑えられるように」と課題を与えられ、取り組んだのは右バッター対策。本人なりに考え、インコースへのストレートと、アウトコースへのチェンジアップを軸にしたピッチングで防御率は0.35と安定しています。

 酒井は昨年の後期からクローザーに転向後、名実ともに香川投手陣の中心と言える存在になりました。現在、リーグトップの10セーブ。ただ、もっと高いレベルに到達する上で、2敗を喫した点は反省しなくてはなりません。そのうちの1敗である15日の徳島戦では東弘明にサヨナラ打を浴びました。これは非常に悔いの残るピッチングだったと思います。

 この日の酒井は得意のスライダーがすっぽ抜け、先頭打者に死球を当てていました。その走者が三塁まで進んだものの、アウトカウントは2つ。しかもカウントは1−2と追い込んでいますから慌てて勝負する場面ではありません。ところが、バッテリーは4球目にスライダーで仕留めに行ってしまったのです。結果、ボールが甘く入り、ライト前へ運ばれてサヨナラのホームインを許してしまいました。

 確かに酒井がいつもの調子であれば、スライダーの配球も間違いではないでしょう。ただ、ボールが抜けていたことを考えると、ミスをするリスクもあります。カウントに余裕がある点を踏まえても、まずはインコースのストレートをみせる選択肢があったはずです。内をもっと意識させておけば、たとえ同じようにスライダーが抜けても打ち損じたかもしれません。

 彼ほどの経験とレベルのあるピッチャーはマウンド上では常に冷静であるべきです。自分の調子とバッターの様子を見極め、キャッチャーのサインが違うと思えば首を振る。NPBで活躍しているセットアッパーや抑えも毎試合、絶好調ではありません。しかし、結果を出し続けられるのは、それがピッチングの波につながらないように工夫しているからです。

 打線では元横浜DeNAの大原淳也が16日の高知戦で2ホームランを放つなど復調してきました。僕もそうでしたが、元NPB選手は独立リーグでは「やって当たり前」という目で見られます。それはやりがいと同時に、時としてプレッシャーを感じるものです。僕の場合は肩を痛めており、思うようなピッチングができずに歯がゆい思いをしました。

 しかし、プロとしての姿を背中で示すこともNPB選手の使命です。大原もなかなか結果が出ず、苦しい思いをしたでしょう。それでも試合に出ている以上は内野の守備でチームに貢献してきました。そして、練習でも手を抜くことなく、しっかり振り込んでスイングを修正し、調子を上げてきました。

 残りは泣いても笑っても4試合。大原が攻撃を引っ張ってくれれば、同じく元NPBの4番・桜井広大までいいつながりができます。ある程度の得点が見込めますから、ピッチャーも早め早めの継投策になっていくでしょう。「トーナメントのつもりで、全員がいつでも投げられるように準備しよう」と選手たちには伝えています。

 ここまで来たら、何が何でも前期優勝をつかみとる。その一心でチーム一丸となって頑張ります。ファンの皆さんの熱い後押しをよろしくお願いします。


伊藤秀範(いとう・ひでのり)プロフィール>:香川オリーブガイナーズコーチ
 1982年8月22日、神奈川県出身。駒場学園高、ホンダを経て、05年、初年度のアイランドリーグ・香川に入団。140キロ台のストレートにスライダーなどの多彩な変化球を交えた投球を武器に、同年、12勝をマークして最多勝に輝く。翌年も11勝をあげてリーグを代表する右腕として活躍し、06年の育成ドラフトで東京ヤクルトから指名を受ける。ルーキーイヤーの07年には開幕前に支配下登録されると開幕1軍入りも果たした。08年限りで退団し、翌年はBCリーグの新潟アルビレックスBCで12勝をマーク。10年からは香川に復帰し、11年後期より、現役を引退して投手コーチに就任した。NPBでの通算成績は5試合、0勝1敗、防御率12.86。
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