中身は痛烈だが的を射ている。これくらいの荒療治をやらなければ、プロ野球は変わらないのではないか。
 NPBが統一球の仕様を無断で変更した問題で労組・日本プロ野球選手会はNPBと、この問題を調査する第三者委員会に対し<統一球問題に関する当会の要望と見解>と銘打った文書を提出した。

 文書では、統一球問題を生み出すに至った大きな原因として<NPBの組織構造>問題をあげ、<プロ野球の将来について消極的で責任回避的な人物がこれまでコミッショナーを務め続けてきたことにある>と断じている。

 名指しこそ避けているが、「責任回避的な人物」と言えば、2004年のプロ野球再編騒動の際、最高責任者でありながら「私には権限がない」と逃げ腰の姿勢に終始した根來泰周元コミッショナーや、今回の統一球問題で知らぬ存ぜぬを決め込んだ加藤良三コミッショナーの顔が、すぐに思い浮かぶ。

 文書では選手会が望むコミッショナー像についても触れられている。<プロ野球の将来についてビジョンと責任感を持った、強いリーダーシップを発揮できる人物であり、比較的若い年齢で、中立性の高い(特定の球団等と過度に密接な関係を持たない)、優れたビジネスセンスを持った人物>

 昨年12月から700人を超える選手会を率いるのが東北楽天の嶋基宏だ。東日本大震災直後の11年4月には被災地球団の選手会長として名スピーチを披露した。
「今、スポーツの域を超えて野球の真価が問われていると思います。見せましょう、野球の底力を。見せましょう、野球選手の底力を。見せましょう、野球ファンの底力を。ともに頑張ろう東北! 支え合おうニッポン!」

 嶋のリーダーシップと発信力に目を付けたのが前選手会長の新井貴浩(阪神)だ。
「オマエしかいない」
「僕はまだプロ7年目なので無理です。厳しいです」
「オマエが引き受けると言うまでは、この電話を切らないからな」
「……それじゃ、やらせていただきます」

 結果的に新井に押し切られたかたちになったが、嶋は中学校時代には学級委員、高校(中京大中京)、大学(国学院大)ではキャプテン、楽天では5年目に選手会長と常にリーダーとして集団を率いてきた。もとよりプレッシャーに押し潰されるようなタマではない。
 それが証拠に、今季の嶋は絶好調である。打率3割7厘は、目下リーグ8位(7月2日現在)。下位打線の中心的存在だ。守っては巧みなリードで田中将大の開幕11連勝を支えている。楽天の躍進(39勝30敗で2位)は嶋の攻守にわたる活躍抜きにはあり得ない。

 キャッチャーの選手会長と言えば、元ヤクルトの古田敦也以来2人目。球界再編騒動で揺れた04年、古田は選手会のトップとして陣頭指揮を執りながら、一方で自身9度目のベストナインにも輝いている。重圧をエネルギーに変えられるのがリーダーの一番の資質なのかもしれない。

<この原稿は『サンデー毎日』2013年7月21日号に掲載されたものです>

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