ニューヨークで行なわれた今年のオールスターも無事に終了し、MLBは19日から後半戦に突入している。
 熾烈なプレーオフの座席争いをはじめとして話題豊富な一方で耳を塞ぎたくなるような厄介な問題も存在する。在米メディアも大きなスペースを割いて伝え続けている“バイオジェネシス問題”である。
(写真:風雲児A・ロッドは今季後半戦でも不名誉な形で話題の中心になる可能性が高い Photo By Kotaro Ohashi)
 6月4日、「ESPN.com」が「マイアミの老化防止クリニックから禁止薬物を供給されていた件で、MLBが約20選手に50〜100試合の出場停止処分を科す方向」と報道。この20選手の中にはA・ロッドことアレックス・ロドリゲス(ヤンキース)、2年前にMVPを獲得したライアン・ブラウン(ブリュワーズ)、レンジャーズの主砲であるネルソン・クルーズ、昨年のオールスターでMVPに輝いたメルキー・カブレラ(ブルージェイズ)、今年の球宴のメンバーにも選ばれたバートロ・コローン(アスレチックス)、今季前半戦で打率.303という好成績を残したジョニー・ペラルタ(タイガース)といった大物が含まれる。これらのビッグネームが一斉に出場停止となれば、アメリカのスポーツ史上でも最大のドーピング・スキャンダルとして記憶される事態になるはずだ。

 MLBはこれまで大金を投入して調査を継続しており、6月上旬には老化防止クリニック「バイオジェネシス」の設立者であるトニー・ボッシュ氏が面談に合意。同時に名前が挙がった選手たちとの個別聞き取りも進め、結果として今月中にも処分が発表される可能性があるという。

「結論が出ていない問題についての報道の中で、私と他の選手たちの名前を出されました。推移を見守り、適切な機会に発言するつもりです」
 股関節の故障からのリハビリを続けてきたロドリゲスは、6月6日の時点でそんな声明を発表していた。今後、まずは、このA・ロッドとブラウンという2人の最大のビッグネームへの処分がなされるのか、対応が注目されていくのだろう。
(写真:バイオジェネシス問題に関する注目度は米国内でも高い)

 ロドリゲスは2009年に1度は薬物使用を認めている。ブラウンの方もMVPを獲得した2011年にステロイドで陽性反応が出ながら、尿の管理に不備があったという微妙な理由で出場停止を逃れた過去がある。そんな過去のいきさつを踏まえ、彼らにはいきなり100試合のサスペンドが告げられるとの推測も多い。

 特にロドリゲスは間もなくリハビリを終え、来週早々にも復帰予定とも伝えられている。カムバック直後に出場停止処分発表といったようなセンセーショナルな流れになれば、メディアも手厳しいニューヨークにおいて、これまで以上の報道合戦が勃発することになるかもしれない。

 そして、騒ぎはもちろんこの2人だけに終わらない。考えようによっては“ビッグ2”の処遇以上に重要なポイントとなりかねないのは、クルーズ、ペラルタ、コローンなど、優勝争いを続けているチームに属する選手たちの動向だ。

「処分に対する異議申し立て(アピール)がなされた際、出場停止処分は来季まで実施されないかもしれない」
 MLB選手会専務理事のマイケル・ウェイナー氏は、17日にそういった趣旨の発言を残したという。実際、当該選手たちは当然のように処分にアピールするはずで、その再審査の間は試合に出場できる。

 だが、“出場停止処分”の看板を背負った選手たちは、各地で容赦ない大ブーイングと取材合戦にさらされるだろう。そんな厳しい状況の中で、これまで通りに力を発揮できるのか。地元ファンにしても、彼らの活躍で重要な試合に勝ったとして素直に喜べるのかどうか。

 そして、ウェイナー氏の見解違いで、もしも今季終盤に出場停止処分が実施されてしまった場合……その期間次第で、大事な終盤戦のゲーム、プレーオフに主力選手が出場できないという事態になりかねない。ダルビッシュ有も所属するレンジャーズでチーム最多の22本塁打を放ってきたクルーズ、ア・リーグ西地区首位を走るアスレチックスで最多の12勝をあげてきたコローンらが勝負どころで戦列から離れるようなことがあれば、チームに及ぼす影響は計り知れないはずだ。
(写真:クルーズが出場停止になれば、ダルビッシュが属するレンジャーズにも暗雲が漂う)
 
 本当にさまざまな状況、影響が考えられるだけに、この問題は今季後半戦のMLBの話題を独占してしまってもおかしくはなさそうである。不明瞭な部分が多い現時点で、ひとつだけ確かなのは……遠からず行なわれる当該選手たちへの処分発表は、長くうんざりさせられるような戦いの始まりに過ぎないということだ。

 MLB選手会の強さを考えれば、一旦は処分が発表されても、結局は全員、1試合も欠場しないで済む結果になったとしても驚くべきではない。だがその一方で“バイオジェネシス問題”が今季、そして来季の優勝争いにも何らかの形で関わってくる可能性も残念ながら十分にある。どちらにせよ、結論にたどりつくまでに、全米のメディアを巻き込んだ大騒ぎは必至だろう。

「また薬物の話か」とすでに倦怠感を感じているファン、関係者たちにとって、気が滅入るような時間が、もうしばらく続きそうな気配である。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。

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