ニューヨークのシティ・フィールド(メッツの本拠地)で行なわれる今年のオールスターゲームまで、もうあと2週間――。今季前半戦では意外な選手の活躍、新星の台頭が相次ぎ、多くのファンを喜ばせるシーズンになっていると言って良い。そこで今回は前半戦のMVP、サイ・ヤング賞、新人王を独自に選定し、ここまでを振り返っていきたい。
(写真:ダルビッシュにもサイ・ヤング賞争いに加わるチャンスが残っている Photo By Gemini Keez)
【MVP】
ア・リーグ
 ミゲル・カブレラ(タイガース/打率.364、26本塁打、85打点)
ナ・リーグ
 ヤディアー・モリーナ(カージナルス/打率.347、6本塁打、44打点)

 完全開花を遂げたクリス・デイビス(オリオールズ/打率.324、32本塁打、83打点)は6月29日のヤンキース戦で2本塁打を放ち、この時点で両リーグ最速での30本塁打到達を果たした。82戦目での大台到達は史上5番目のスピード。一昨年まではメジャーではなかなか結果を残せなかった一発屋の大ブレイクは、上半期最大のサプライズとなった。

 そうはいっても、ア・リーグではそのデイビスの存在が飛び抜けているというわけではない。ミゲル・カブレラ(タイガース/打率.364、26本塁打、85打点)は打率、打点、出塁率、OPS(出塁率+長打率)、WAR(勝利への貢献度)といった多くの項目でデイビスを上回っており、こちらのほうがMVPにふさわしいという声も多い。

 散々迷った末に、ここではカブレラを上にしたが、差はごくわずか。この2人のペースが落ちた場合には、マイク・トラウト(エンジェルス/打率.314、13本塁打、20盗塁)、ダスティン・ペドロイア(レッドソックス/打率.322、出塁率.404、13盗塁)が浮上しても不思議はない。メジャー史に残るハイレベルなMVP争いに発展していく可能性もある。

 ナ・リーグではモリーナの総合的な貢献度が他の選手たちを上回っている。かつては「典型的な守備型捕手」と評されたモリーナだが、3年連続でOPSを引き上げ、今季は首位打者争いトップを快走中。強肩を含めた守備力も健在で、チームもナ・リーグ2位の好成績なのだから文句はない。
(写真:攻守両面を兼ね備えたモリーナはセントルイスの顔になった)

 続くのはバスター・ポージー(ジャイアンツ/打率.312、12本塁打、48打点)だが、過去3年で2度も世界一となったチームが今季は西地区最下位に低迷中。その他、ポール・ゴールドシュミット(ダイアモンドバックス/打率.302、20本塁打、69打点)、カルロス・ゴンザレス(ロッキーズ/打率.295、23本塁打、62打点)、ジョーイ・ボット(レッズ/打率.323、14本塁打、OPS.943)といった候補たちはややインパクトに欠ける。カージナルスが急降下でもしない限り、モリーナが本命であり続けそうだ。

【サイ・ヤング賞】
ア・リーグ
 マックス・シャーザー(タイガース/13勝0敗、防御率3.09)
ナ・リーグ
 マット・ハービー(メッツ/7勝2敗、防御率2.27)

 ア・リーグでは本来なら大本命となってしかるべきのジャスティン・バーランダー(タイガース/9勝5敗、防御率3.54)が、(彼にしては)もうひとつの成績だが、代わりにチームメイトのシャーザーが大エースの働きを続けている。開幕から無傷の13連勝は1986年のロジャー・クレメンス(当時レッドソックス)以来の快挙。チームは中地区首位ながら貯金8に止まっていることを考えれば、この無敗レコードの価値は大きく、連勝記録がどこまで伸びるか楽しみでもある。

 シャーザーに続くのはクレイ・バックホルツ(レッドソックス/9勝0敗、防御率1.71)、フェリックス・ヘルナンデス(マリナーズ/8勝4敗、防御率2.69)。さらに岩隈久志(マリナーズ/7勝4敗、防御率2.60)、ダルビッシュ有(レンジャーズ/8勝3敗、防御率2.78)、黒田博樹(ヤンキース/7勝6敗、防御率2.95)といった日本人投手たちの内容の良さが目立つのも今季の特徴と言える。なかでも奪三振数でメジャートップのダルビッシュは、シャーザーの動向次第では有力候補に躍り出てもおかしくはない。

 ナ・リーグの前半戦で最もセンセーショナルな存在となったのが、100マイルの豪速球でメジャーの強打者たちをなで斬りにし続けたメッツのハービーだった。
 今季が2年目ながら、防御率はメジャー4位、WHIPは同2位(ちなみに1位は岩隈)、奪三振は同2位。ノーヒッター達成の可能性を感じさせる支配的な投球を頻繁にみせ、「スポーツ・イラストレイテッド」誌の表紙を飾ったことも。メッツの本拠地で開催されるオールスターゲームでは、ナ・リーグの先発を務めることが有力視される。
(写真:ハービー(左)と女房役のジョン・バック捕手の呼吸はぴったりだ Photo By Gemini Keez)

 ただ、クレイトン・カーショウ(ドジャース/7勝5敗、防御率1.93)、アダム・ウェインライト(カージナルス/11勝5敗、防御率2.36)、クリフ・リー(フィリーズ/9勝2敗、防御率2.59)、ジョーダン・ジマーマン(ナショナルズ/12勝3敗、防御率2.46)といった名だたる好投手たちも負けず劣らずの成績を残している。初のフルシーズンとなるハービーが後半戦に疲れをみせるようなことがあれば、“ユージュアル・サスペクツ(常連候補たち)”のうちの誰かが最有力に浮上してきそうだ。

【新人王】
ア・リーグ
 該当者なし
ナ・リーグ
 シェルビー・ミラー(カージナルス/8勝6敗、防御率2.79)

 駒不足のア・リーグ、人材豊富なナ・リーグと、両極端な新人王レースとなっている。ア・リーグは規定投球回数、打席に達しているルーキーが1人もおらず、意外な高打率を残して来たフリオ・イグレシアス(レッドソックス/打率.411)にしてもチームの全87試合中、出場は42戦のみ。最終的にはジャリクソン・プロファー(レンジャーズ)、ウィル・マイヤーズ(レイズ)といった前評判の高い選手たちが候補となってきそうだが、現時点では選択の余地がない。

 一方のナ・リーグは高レベルだ。柳賢振(ドジャース/6勝3敗、防御率2.83)、ホセ・フェルナンデス(マーリンズ/5勝4敗、防御率2.72)、エバン・ガティス(ブレーブズ/打率.252、14本塁打)、フリオ・テヘラン(ブレーブス/6勝4敗、防御率3.23)、マルセル・オズーナ(マーリンズ/打率.293、3本塁打)、ディディ・グレゴリアス(ダイアモンドバックス/打率.280、4本塁打)、ジム・ヘンダーソン(ブリュワーズ/10セーブ、防御率2.05)といった好選手が続々と台頭。とりわけ開幕から常に3点以下の防御率を守ってきたミラーこそが、前半戦の新人王と考えられてしかるべきだ。

 一方で、6月3日に遅れてメジャーデヴューしたヤシエル・プイグ(ドジャース/打率.443、8本塁打)が最新のセンセーションとなり、今後に大きな期待を持たせている。
 デヴュー2戦目で2本塁打、4戦目で満塁弾を放った驚異の5ツールプレーヤーは、29戦で何と4割超の高打率をキープ。実働1カ月ながらオールスター候補に挙げる声も出たほどで、現在のMLBで最も注目されている選手と言ってよい。
(写真:「スポーツ・イラストレイテッド」誌でも特集が組まれるなど、プイグは短期間にメジャーで最もホットな選手になった)

 もちろん、まだスモールサンプルだが、その働きは新人の枠を超越しており、後半戦も楽しみ。新人王の有力候補というだけでなく、MVP争いの超ダークホースとしても記しておくべきだろうか。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。
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