Jリーグ初代チェアマンの川淵三郎(現日本サッカー協会最高顧問)が、「Jリーグのクラブは各県2つ。いずれ日本に100のJクラブがほしい」とブチ上げたのは、忘れもしない鹿島アントラーズのクラブハウスと練習グラウンドの完成を祝う記念式典でのことだから、Jリーグ開幕の4カ月ほど前である。
 前年秋のナビスコ杯が大変な盛り上がりを見せたことで、この国初のプロリーグがスタートダッシュに成功することは目に見えていた。しかし、目標とはいえ将来的にJクラブを3ケタに増やしたいとの川淵の構想を真に受ける者はいなかった。

 20年経ってJクラブの数はJ1、J2合わせて40にまで増えた。J3がスタートする来年度は52クラブにまで膨れ上がる。3ケタも視野に入ってきた。Jリーグ関係者にはご同慶の至りと申し上げたい。

 一方でJリーグの理念に照らして腑に落ちない部分も出てきた。「J3の1枠をJ1とJ2の若手による選抜チームに与える方向で検討している」点だ。周知のようにJリーグは09年限りで“2軍戦”にあたるサテライトリーグを廃止している。若手を鍛える場が欲しいというのは、よく分かる。

 しかし、Jの理念の一丁目一番地は「地域密着」であり、興行の基本はホーム&アウェーである。選抜チームの編成はいいとして、いったい、どこを根城にするつもりなのか。サッカーのスタンダードからしても、デラシネ(根なし草)のようなチームの存在は理解しがたい。「付け焼き刃のチームでは、いくら実戦を増やしたところで本当の意味での選手強化にはならない」との声もある。地域を背負い、地場のサポーターたちの叱咤と激励の中で若者は育つのではないか。

 Jリーグの“創業者”である川淵は自著『虹を掴む』(講談社)でこう述べている。<Jリーグは理念として「地域密着」を掲げ、ホームタウンがある地域住民・行政とクラブとの緊密なパートナーシップを発展の基礎に考える>

 J3といえどもJリーグである。J3の選手といえどもJリーガーである。Jのプリンシパルを棄損する恐れのある弥縫策に対しては、そのリスクも含めて、もっと慎重に検討すべきだ。繰り返すが、「地域密着」こそはJの背骨である。理念の骨抜きは、将来に禍根を残す。

<この原稿は13年7月31日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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