30日(現地時間)、世界水泳選手権バルセロナ大会の競泳3日目が行われ、女子100メートル背泳ぎ決勝は寺川綾(ミズノ)が59秒23で銅メダルを獲得した。優勝はロンドン五輪同種目金メダリストのメリッサ・フランクリン(米国)。その他の決勝では、男子100メートル背泳ぎはマット・グレバース(米国)、同200メートル自由形はヤニック・アニエル(フランス)と、いずれもロンドン五輪王者が制した。両種目に出場した萩野公介(東洋大)は、それぞれ7位と5位だった。また男子100メートル背泳ぎ決勝には、入江陵介(イトマン東進)も出場したが4位。惜しくも2大会連続のメダル獲得はならなかった。一方、男子50メートル平泳ぎで北島康介(日本コカ・コーラ)が、男子200メートルバタフライでは、松田丈志(コスモス薬品)と小堀勇氣(セントラルスポーツ)が決勝進出を逃した。
 逞しさを増す女子のエース

 女子100メートル背泳ぎの表彰台の顔ぶれはフランクリン、エミリー・シーボム(オーストラリア)、寺川と昨夏のロンドン五輪と同じだった。「去年と色は変わらないんですけど、また違った感動を味わうことができた」と、再び銅メダルを首にかけた寺川は充実感に満ちた表情で語った。

 レースはフランクリンが58秒42で優勝し、今大会2個目の金メダルを獲得した。ロンドン五輪では100メートル、200メートル背泳ぎを含む4冠を成し遂げた。フランクリンは50メートルのターンをトップで折り返すと、ラスト50メートルも8人中一番速いタイムで泳ぎ切った。他を寄せ付けぬ勝利だった。最大7種目に挑戦する18歳の女王は、今大会いくつの金メダルをかっさらっていくのか。

 一方、寺川は決勝に「昨日良くなかったので、すごく心配だった」と、不安を抱えていた。それでも前日のレース後には、目標を問われ「メダル。それだけです」と力強く言い切った。あえて強い口調で話すことで自らを奮い立たせる思いもあったのだろう。決勝でのスタートのリアクションタイムは出場8人中トップの0秒56。前半は6位だったが、後半は29秒88と、フランクリンに次ぐタイムで3人をかわした。フランクリン、シーボムをとらえらることはできなかったが、順位を確認すると、左手で小さくガッツポーズ。「自分のレースをできた結果がメダルにつながった」と安堵の表情を浮かべていた。

 寺川はロンドン五輪後は引退も考えたという。だが現役続行を決断し、勝負の世界に身を置くことを選んだ。「あの場であきらめていたら、きっと今の自分も、学ぶものもなかったと思います。自分にメダルというお土産もできたので、続けて良かった」と述べた。前回の上海大会では、この種目でメダルを期待されながら5位だった。今大会は前年のロンドン五輪で銅メダリストとなり、メダルを求められる中できっちりと結果を残した。トビウオジャパンの女子の中では、最年長となった。かつては精神面の弱さを指摘されることもあったが、頼れる女子のエースになったと言っていいだろう。

 萩野&入江、メダル届かず

 世界大会の男子200メートル自由形で表彰台に上がった日本人はこれまでいなかった。その未踏の領域に挑戦した18歳の若武者・萩野。本人は「(200メートル自由形の)世界のレベルは高い。どこまで通用するか楽しみ」と決勝前に語っていた。同種目の決勝にはロンドン五輪金のアニエル、今季世界ランク1位のダニーラ・イゾトフ(ロシア)、前回上海大会5冠のライアン・ロクテ(米国)ら世界の猛者が、萩野の前に立ちふさがった。

 萩野は最初の50メートルを24秒80で泳ぎ、4番手につけた。先頭はロンドン王者のアニエル。100メートル、150メートルと進んでも、そのままトップを譲ることはなかった。一方、一時は7位まで順位を落とした萩野は、得意の後半勝負。ラストの50メートルでスパートをかけ、1分45秒94の自己ベストをマークした。しかし、追撃も表彰台には届かず5位。優勝したアニエルには1秒半以上の差をつけられた。日本人初の偉業は、今後に持ち越しとなった。

 このレースから50分後に始まったのが、男子100メートル背泳ぎ決勝。萩野にとって今大会3種目目のファイナルで、ロンドン五輪銅メダリストの入江も出場していた。萩野、入江の日本人コンビがそろって表彰台に上がれば、世界大会では57年ぶりの快挙だ。

 レースは、ロンドン五輪で同種目を制した米国のグレバース、前回の上海大会で1位同着だったジェレミー・ストラビウス、カミーユ・ラクールのフランス人コンビが引っ張った。一方で萩野は折り返しのターンで最下位。「前半から力んでしまった」と出遅れた。後半型とはいえ、7位に体半分離される展開は苦しかった。最終結果は53秒93で7位に終わった。この日の決勝2レースでのメダル獲得はならなかった。

 前回の上海でも銅メダルを獲っている入江は前半を7位でターンすると、怒涛の追い上げを見せた。後半のタイムは8人中最速の27秒17。しかし、トップでゴールしたのはグレバース。さらに入江は4位と、3位のストラビウスに、わずか0秒08届かなかった。タッチ差で表彰台を逃す結果には「4位は4位」と受け止めた。そして「上海、ロンドンとメダルを獲ってきた種目なので、何としても獲りたいと臨んでいた」と唇を噛んだ。「“ここで終わってたまるもんか”という気持ちもある」と、入江は雪辱の思いを200メートル背泳ぎ、メドレーリレーに懸ける。

 世界も10代のスイマーが躍進

 今大会2度目の世界記録更新は、またしても16歳だった。女子1500メートル自由形決勝でケイティ・レデッキー(米国)が15分36秒53で新記録を叩き出した。同種目は五輪種目ではないが、レデッキーは昨夏のロンドン五輪800メートル自由形の金メダリスト。今大会もすでに400メートル自由形を制するなど、自由形中・長距離のスペシャリストだ。

 レースは最初の50メートルのターンから、レデッキーと前回王者のロッテ・フリース(デンマーク)の一騎打ちの様相を呈した。先頭のレデッキーは従来の世界記録より1秒以上速いペース。追いすがるフリースも、300メートルのターンでレデッキーを逆転した。そこからフリースがレデッキーを従えて、世界記録を上回るペースで泳ぎ続ける。

 1300メートルのターンを前にして、ついにレデッキーがトップの座を奪い返すと、そのまま加速。1400メートルを超えると、フリースを体ひとつ突き放した。なおも世界記録を超えるペースを刻み、ゴール板をタッチした。6年ぶりの世界新は、それまでの15分42秒54を6秒以上更新する驚異的なタイムとなった。2位のフリースも15分38秒88で、世界記録を上回っていた。

 日本では18歳の萩野の活躍が注目を集めているが、世界のティーンエイジャーも輝きを放っている。この日、女子100メートル背泳ぎを優勝したフランクリンは18歳、昨日、100メートル平泳ぎ準決勝で世界新をマークしたルタ・メイルティテ(リトアニア)は16歳だ。メイルティテは同種目の決勝では、自身の世界記録更新にはわずかに届かなかったものの、1分4秒42の好記録で制した。

 主な結果は次の通り。

<男子100メートル背泳ぎ・決勝>
1位 マット・グレバース(米国)52秒93
2位 デビッド・プラマー(米国) 53秒12
3位 ジェレミー・ストラビウス(フランス) 53秒21
4位 入江陵介(イトマン東進) 53秒29
7位 萩野公介(東洋大) 53秒93

<男子200メートル自由形・決勝>
1位 ヤニック・アニエル(フランス) 1分44秒20
2位 コナー・ドワイヤー(米国) 1分45秒32
3位 ダニーラ・イゾトフ(ロシア) 1分45秒59
5位 萩野公介(東洋大) 1分45秒94

<女子100メートル背泳ぎ・決勝>
1位 メリッサ・フランクリン(米国) 58秒42
2位 エミリー・シーボム(オーストラリア) 59秒06
3位 寺川綾(ミズノ) 59秒23
赤瀬紗也香(日本体育大)は予選敗退

<女子100メートル平泳ぎ・決勝>
1位 ルタ・メイルティテ(リトアニア) 1分4秒42
2位 ユリーヤ・エフィモバ(ロシア) 1分5秒02
3位 ジェシカ・ハーディ(米国) 1分5秒52
鈴木聡美(ミキハウス山梨)は準決勝、渡部香生子(JSS立石ダイワ)は予選敗退

<女子1500メートル自由形・決勝>
1位 ケイティ・レデッキー(米国) 15分36秒53 ※世界新
2位 ロッテ・フリース(デンマーク) 15分38秒88 
3位 ローレン・ボイル(ニュージーランド) 15分44秒71

(杉浦泰介)