二刀流ルーキー大谷翔平(北海道日本ハム)の右頬を打球が直撃したのは7月11日、Kスタ宮城での東北楽天戦の試合前の練習中のことだった。

 診断の結果は「右頬骨不全骨折」。3試合欠場後の14日、代打で復帰し、本拠地で千葉ロッテの大谷智久から、バックスクリーン左にプロ2号を放った。
 軽症ですんだからよかったものの、「もし打球が目にでも当たっていたら……」と思うとゾッとする。

 古い話で恐縮だが、36年前の事故を思い出した。V9巨人を語る上で末次利光を抜きにすることはできない。ONの後の5番打者として、いぶし銀の働きを演じた。

 1977年、オープン戦前の練習で末次は同僚の打球を左目に受けた。本人によれば「目の水晶体にボールの縫い目がつく」ほどの重傷だった。
「キャッチボールのボールを捕ろうとした時だったので、目を開けたままの状態で打球を受けてしまったんです」

 幸い、利き目ではなかったものの、それでもプレーには大きな支障が出た。ボールとの距離感が、うまく測れなくなってしまったのだ。
「最初のうちは飲み物を注ぐのも、コップの手前でボトボトこぼしたりしていました。車を運転していても、気が付くと車間距離が急に接近していたり……。ゴルフをやる上でも大きなハンデになりました」

 目のケガが原因で、この年、末次はわずか3試合にしか出場できず、引退に追い込まれた。前年は2割8分1厘と好打率を残していただけに、このアクシデントさえなければ、あと3、4年は現役を続けることができただろう。

 大谷の負傷を受けた監督の栗山英樹は「4分の3は当たるような練習システムをしているオレの責任、4分の1はボールを見ていなかった翔平の責任」と語っていた。野球にアクシデントは付き物とはいえ、リスクは極力、減らさなければならない。危うく球界は将来のスーパースターを失うところだった。

<この原稿は2013年8月5日号『週刊大衆』に掲載されたものです>

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