2017年開催の愛媛国体に向けて、昨年4月より全面改修工事がスタートしているニンジニアスタジアム。現況、(1)ゴール裏スタンド(2)バックスタンド(3)メインスタンドの順番で、改修工事が進められている。
(写真:新たに完成した大型電光掲示板)
 ゴール裏スタンドの改修工事は、今年2月に完了した。以前の芝生席が固定席化され、大型電光掲示板も設置された。入場ゲートをくぐると、スタンドの端まで延びる屋根付きのコンコースがあり、トイレや飲料水の自動販売機コーナー、ミーティングルーム(控え室)なども設備され、大幅に環境が改善されている。

 これまでゴール裏スタンドやバックスタンドにはトイレがなく、いちいち会場の外に出て、スタジアム外周にある運動公園内のトイレで用を足さなければならなかった。また喉が渇いた場合にも、会場外に出て飲料水を購入しなければならなかった。その頃を知る人間にとってはありがたいリニューアルであると言える。

 悪天候の際、試合前後の雨や風は、このコンコース内で少しでもしのぐことができる。実際、これまでも落雷時には、一時避難の場所として活用された。
(写真:ゴール裏スタンドのコンコース)

 夕日が差し込んでも視認性が良い大型電光掲示板も素晴らしい。試合前の会場を盛り上げる演出にも使われているし、スポンサーバナーの表示により、広告効果も見込まれる。試合中には、リプレー映像が流され、会場全体で各局面の詳細が確認できるようになった。

 お客様に、お金を支払っていただき、スタジアムに試合を観に来てもらっている以上、環境を整えることは、当然の礼儀だと感じる。しかし、どう考えても利用者に対し、配慮に欠けていると思われる部分がある。たとえば、少し細かくなるが、既に完成しているゴール裏スタンドの最上段の外壁面に取り付けられている手すりだ。ステンレス手すり棒の下部に、パンチングメタルがはめ込まれている。

 もちろん、落下防止のためだろうが、パンチングの穴が極端に小さく、横断幕の設置にはとても不便なのだ。穴が大きければ、横断幕固定用のひもを通せるのだが、どうにも通しづらい。最上段にも、たくさんの横断幕を設置しなければならない私たちサポーターは本当に困っている。

 また、スタンドの各ゲートの階段下には排水溝が設けられていない。そのため雨が降ると階段から流れ落ちる雨水が行き場を失い、コンコース内の通路にあふれるのである。階段上部に排水溝は設けられているのだが、下部にないのは明らかに設備設計がおかしい。
(写真:コンコース内に設置された自動販売機)

 今後、メインスタンドやバックスタンドの改修で、より良いスタジアム環境が構築されることを信じたいが、まだまだ心配事は残っている。お客様への礼儀に加えて、アスリート(選手たち)への配慮も欠けているのではないか、という点だ。

 9月15日(日)、J2第33節となる愛媛FC対ガイナーレ鳥取の一戦を応援するため、とりぎんバードスタジアム(鳥取市)へ遠征した。この日、台風接近の影響により、試合前から大雨に見舞われた鳥取市。当然、スタジアムのピッチにも大粒の雨が何時間にも渡り、降り注いでいた。しかし、試合がスタートしても、ピッチ表面に水が浮いてくることもなく、選手たちのパス廻しも、晴天時のコンディションと大差ない状況でできていたのだ。

 つまり、グラウンドの水捌けが素晴らしいのである。いや、普段よく見るニンジニアスタジアムのピッチと比べてしまうから素晴らしく見えるだけで、これがJリーグの試合が行われる普通のグラウンドの環境なのである。

 今季のホームゲームも雨の中で何試合か行われているのだが、ニンジニアスタジアムのピッチ上にはところどころ大きな水溜りができていた。ある場所ではボールが止まったり、ある場所ではボールが長く進んだりと、本当にイレギュラーな動きを繰り返していた。

 水溜りができたり、ボールがイレギュラーな動きをするということは、単に水捌けが悪いだけではなく、不陸(凹凸があること)ができているピッチであることを証明している。ニンジニアスタジアムのグラウンド環境は、時代遅れであると言わざるを得ない。

「ホームの利」が活かされるはずのスタジアムが、逆に選手たちの足を引っ張りかねない状態であることを、改修を計画されている方々はご承知なのだろうか。グラウンドの芝の張り替えなどピッチの改修予定もあるようだが、どの程度メスを入れ、工事がなされるのか心配なところである。

 お客様への礼儀を軽んじ、アスリートに冷たい施設は、大きな不満を抱えたまま、いずれ無視され、新たな環境を求める声を高めるだけであろう。大きな資金を使い、一過性のイベントにだけ間に合わせるスタジアムなら、本当に無意味で無駄な施設になってしまう。

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックが決まり、明確な目標を持って夢に向かう子供たちが愛媛にもたくさんいる。既に工事自体は進んでおり、もう遅いのかもしれないが、その子供たちの未来のためにも、皆の意見を取り入れた価値あるスタジアムづくりを考えてほしいものだ。


松本 晋司(まつもと しんじ)プロフィール>
 1967年5月14日、愛媛県松山市出身。
 愛媛FCサポーターズクラブ「Laranja Torcida(ラランジャ・トルシーダ)」代表。2000年2月6日発足の初代愛媛FCサポーター組織創設メンバーであり、愛媛FCサポーターズクラブ「ARANCINO(アランチーノ)」元代表。愛媛FC協賛スポンサー企業役員。南宇和高校サッカー部や愛媛FCユースチームの全国区での活躍から石橋智之総監督の志に共感し、愛媛FCが、四国リーグに参戦していた時期より応援・支援活動を始める。
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