毎年のことだが、季節は突然に変わる。
 つい数日前までの暑さが、スッカリと消え、夜、街を歩いているとジャケットを羽織っても肌寒く感じる。時が流れるのは速いもので、今年も、もう10月である。
(写真:ライトフライ級では世界戦3連続KO勝利。「ライトフライ級にいる以上、王座の椅子には僕のスペースしかない」と自信をみせる井岡)
 この季節になると、格闘技界の話題が大晦日決戦に集中するのが、数年前までは常だった。『PRIDE男祭り』『Dynamite!!』といったイベントで、どのようなスーパーカードが組まれるのかにファンは胸を躍らせた。

 だが現在は、大晦日に総合格闘技の試合が地上波でテレビ中継されることはない。イベント自体は昨年まで継続されてきたが、今年はどうなるのか?

 その総合格闘技に替わって大晦日にビッグイベントを開催しているのがプロボクシングである。昨年に続いて今年も、TBS、テレビ東京が除夜の鐘を聞く前に、世界戦を放映する可能性が高い。まだ正式発表こそされていないが、TBSは3年連続で井岡一翔の試合をオンエアすることになるだろう。

 一昨年はWBC世界ミニマム級王座の2度目の防衛戦(vs. ヨーグドン・トーチャルンチャイ=タイ、1RKO勝ち)。昨年はWBA世界ライトフライ級王座決定戦に挑み、メキシコのホセ・ロドリゲスに6RTKO勝ちを収めて2階級制覇を達成した。さて今年、井岡は、いかなるテーマを持って、誰と対戦するのか。

 井岡陣営は3階級制覇を視野に入れている。WBA、WBCだけではなく、IBF、WBOの世界王座への挑戦も可能となったことから、対戦相手の選択肢は広がった。井岡はミニマム級でWBA、WBCの王座を統一、ライトフライ級でも2度の防衛を果たしている。だから、3階級制覇に挑む資格は十分にある。

 だが、あと1試合、井岡のライトフライ級での試合を見てみたいと願うファンも多いことだろう。それはライトフライ級に“絶対王者”が存在しているからだ。

 36戦全勝(30KO)……無敗のWBA世界ライトフライ級スーパー王者、ローマン・ゴンザレス(ニカラグア)。この男と井岡の対決は私もぜひ観てみたい。この一戦こそが、ライトフライ級最強……「リアルチャンピオン」を決する闘いなのである。

 ゴンザレスは11月10日、両国国技館で行われるWBC世界バンタム級タイトルマッチ、王者・山中慎介(帝拳)vs.挑戦者・アルベルト・ゲバラ(メキシコ)の前座試合に出場する。だが、これはノンタイトル戦で調整試合。大晦日、リングに上がることにコンディション的な問題はないだろう。

 現在、ゴンザレスは帝拳ジム所属の選手。だが、だからと言ってTBSが放映を行うリングには上がらないといったことにはならないはず。帝拳の度量は、そんなに狭くない。

 大晦日は3階級制覇を賭けての闘いよりも、質の高いスーパーファイト、無敗の井岡一翔が、無敗のスーパー王者、ローマン・ゴンザレスに挑む一戦が観たい。

----------------------------------------
近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実〜すべては敬愛するエリオのために〜』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー〜小林繁物語〜』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』(汐文社)ほか。
連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)
◎バックナンバーはこちらから