【スリーピートの可能性】

「入団したときに思い描いた青写真がすべて現実のものとなった。苦しいこと、良いことを通じて成長し、2年連続で王座にたどりつけた。こんな素晴らしいチームの一員になれて幸せだよ」
 昨季のファイナルで2連覇を達成した直後、レブロン・ジェームス(マイアミ・ヒート)の感慨のこもったコメントが思い出深い。シンプルな内容だが、最終決戦ではサンアントニオ・スパーズに敗北寸前まで追い詰められた後だっただけに、より実感がこもって感じられたのだ。
(写真:全米のNBAアリーナに間もなく再び火が灯ろうとしている)
 そのレブロンとヒートのメンバーたちは、今季、“スリーピート(スリー(3)とリピート(連続)を合わせた造語)”の偉業に挑むことになる。

 1960年代のボストン・セルティックス(8連覇)以降、ファイナル3連覇を成し遂げたのはマイケル・ジョーダンが引っ張ったシカゴ・ブルズと、シャキール・オニール、コービー・ブライアントという強力デュオを擁したロスアンジェルス・レイカーズだけ。マジック・ジョンソン、ラリー・バード、アキーム・オラジュワン、アイザイア・トーマスといった名選手も届かなかった3連覇を果たせば、ヒートは歴史に残るチームとして記憶されることになるだろう。

 ただ、その道のりは過去2シーズン以上に厳しいものになることも予想される。
 レブロンが絶賛した“素晴らしいチーム”は、今オフにはほとんど目立った補強策を講じなわなかった。昨季は故障がちだった第2スコアラーのドウェイン・ウェイドは来年1月に32歳となり、パフォーマンスが低下しても不思議はない。主力メンバーのマンネリによる緊張感の欠如も危惧され、同時に多くのライバルチームが力を付けている。
 
 昨季のイースタン・カンファレンス・ファイナルでヒートを7戦まで追い詰めたインディアナ・ペイサーズは、主力のポール・ジョージ、ロイ・ヒバートの2人がさらに成長しそう。去年はケガに泣いたスコアラーのダニー・グランジャーも戻ってくるだけに、ヒートにとって、より手強い存在になるかもしれない。

 ウェスタン・カンファレンスに目を向けても、鋼の強さを誇るスパーズ、現役有数の司令塔クリス・ポールを中心に上昇機運のロスアンジェルス・クリッパーズ、得点王3度のケビン・デュラントが率いるオクラホマシティ・サンダー、FAの目玉だったドワイト・ハワードを獲得したヒューストン・ロケッツなどの強豪ぞろい。これらの強敵たちの挑戦を、戦力的に上積みの感じられないヒートははねのけられるのか。
(ロケッツにはドワイト・ハワードが加わり、ジェームス・ハーデン(写真)と新デュオを形成する)

 結局、すべてはレブロン次第なのだろう。昨季も平均26.8得点(8.0リバウンド、7.3アシストと驚異の成績を残し、5年間で4度目のリーグMVPを獲得。高校時代から“選ばれし者”の呼称を欲しいままにした怪物は、今まさに全盛期を迎えている感がある。ジョーダン、コービーに肩を並べる3連覇を果たすべく、今年もエンジン全開で臨んでくるに違いない。

「史上最高の選手になりたい。それが僕のモチベーションなんだ。まだその目標を果たすには遠いところにいるけど、光は見えてきたよ」
 そう語るレブロンにとって、ヒートの危機説も指摘される今季が重要なシーズンであることに疑いの余地はない。強敵を倒せば倒すほど、そこで得られる賞讃も大きくなる。“スリーピート”を果たせば、その行く手にジョーダンをはじめとする歴史的スターたちの背中がうっすらと見えてくることだろう。

【大補強を敢行したネッツの行方】

 3連覇の偉業に挑むヒートと並び、特に今季の前半戦、イースタン・カンファレンス内で大きな注目を集めそうなのがブルックリン・ネッツである。

 ブルックリン移転2年目の今季に向け、オフにポール・ピアース、ケビン・ガーネット、ジェイソン・テリー、アンドレイ・キリレンコといったスターたちを大補強。昨季までのチームの屋台骨を支えたデロン・ウィリアムス、ジョー・ジョンソン、ブルック・ロペスと合わせ、ここに空前の“ビッグ7”が誕生したことになる。特にセルティックス黄金期の立役者となったピアース、ガーネットの加入のインパクトは大きく、この2人が経験、タフネス、リーダーシップを注入すればネッツは怖いチームになるだろう。
(写真:ゴール周辺の守護神ガーネットはネッツにディフェンス意識を植え付けられるか)

「常にハードにプレーする粘り強いチームになっていきたい。オフェンスが機能しない日でも、ディフェンスで相手を苦しめられるようになりたいんだ」
 10月17日のヒートとのプレシーズン戦を86−62で制した後、ピアースはそう語っていた。この時期のエキジビションマッチの内容、結果などは参考にならないが、守備時のプレッシャーは昨季と比べて確かに大きな向上を感じさせたのも事実だ。スター軍団の華やかさばかりが強調されるが、開幕後も守備面の意思統一がポイントとなっていくのかもしれない。

 主力に高齢選手が多いこと、ケミストリーが証明されていないこと、新ヘッドコーチとなったジェイソン・キッドの指導力も未知数なことなどから、一般的にネッツはヒート、ペイサーズ、ブルズより下とみなされている。
(写真:ネッツの新コーチとなったジェイソン・キッドはどんな采配を振るうのか)

 ただ、未知数の部分が多いからこそ、より興味深いチームだとも言える。プレシーズン戦中から観客動員も好調の本拠地バークレイズセンターは、今季もほぼ毎試合のように満員のファンで埋め尽くされることになるのだろう。

【ケガから復帰を目指す2人のスーパースター】

 優勝争いと同時に見逃せないのが、ともに重傷からの完全復活を目指すデリック・ローズ(ブルズ)、コービー・ブライアント(レイカーズ)の動向だ。

  2011-12シーズンのプレーオフ中に左膝前十字靭帯断裂という大けがを負ったローズは、その治療、リハビリのために昨季は全休。心身ともに自信を取り戻すのを待ち、満を持して今シーズンに挑んでくる。
(写真:2010-11シーズンでMVPを獲得したローズ。プレシーズン戦では快調な動きを誇示している)

 プレシーズン戦にはすでに3試合に出場したローズは、その全戦で20分以上をプレー。10月16日のデトロイト・ピストンズ戦では22得点を挙げ、「(ケガする前よりも)爆発力は、はるかに上だと思う。故障の後はメンタルの準備が難しいものだけど、何の心配もなく動けているよ」と自信をのぞかせた。

 一方、昨シーズン終了間際にアキレス腱断裂で戦列を離れたブライアントの方は、現在復帰に向けた調整の真っ最中。10月中旬の時点でまだチーム練習には合流しておらず、開幕には間に合いそうもない。しかし、すでにシュート練習は行なっていると報道され、今季中に実現するであろう劇的カムバックに向けて少しずつ前進していることは間違いないのだろう。
(写真:レイカーズファンが待ち望むコービーの復帰戦は素晴らしい雰囲気に包まれるだろう)

 どちらも“リーグの宝物”と呼んでもオーバーではないスーパースター同士。ローズが本人の言葉通りに爆発力を完全に取り戻せば、固いディフェンスで知られるブルズはヒートの強力な対抗馬に浮上することも考えられる。レイカーズの方は今季の前評判は高くないが、コービーさえ本調子に近い形で戻ってくればダークホースになり得る。

 とにかく、雌伏の時間を過ごしてきた2人には、今後は健康な身体でコートを突っ走ってほしい。ブルズ、レイカーズのファンでない人間でも、全米中のスポーツを愛する人間は同じ想いを抱いているに違いないのである。

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。

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