本命不在――。今週から始まった2013年MLBプレーオフは、そんな風に形容されることが多い。だからといって低レベルなわけではなく、戦力はむしろ高い次元で拮抗していると言ってよいのではないか。
 地区シリーズに残った全8チームがシーズン中は92〜97勝の勝ち星を挙げ、特にアメリカン・リーグの4チームはどこがワールドシリーズに進んでも不思議ではない底力を秘めている。その中で、ときには運も味方につけて勝ち進み、「運命のチーム(the team of destiny)」と呼ばれるようになるのはどこか?
(写真:老雄リーランド監督がタイガースの強力先発陣をどのくらい長いイニングまで投げさせるかにも注目だ Photo By Gemini Keez)
 今回は現地時間10月4日から開幕するア・リーグの地区シリーズに注目し、展開、行方を占っていきたい。

タイガース(93勝69敗/ア・リーグ中地区優勝)
 対
アスレチックス(96勝66敗/ア・リーグ西地区優勝)

 2年連続のワールドシリーズ進出を目指して必勝態勢のタイガースにも、不安材料は決して少なくない。
 今季も怪物的な数字を残した主砲ミゲール・カブレラ(打率.348、44本塁打、137打点)だが、ケガに悩まされ続け、最後の22戦では打率.274、1本塁打。時を同じくして、8月終了時点までは1試合平均5.1得点を挙げたタイガース打線が、9月は同3.7得点と苦しんだのは偶然ではなかっただろう。
(写真:体調が心配されるカブレラ。シーズン終了からプレーオフ初戦までの4日間でコンディションは上向いたか Photo By Gemini Keez)

 また、去年の地区シリーズ最終第5戦ではアスレチックスを4安打で完封してヒーローになった大黒柱のジャスティン・バーランダー(13勝12敗、防御率3.46)が、今季は過去5年で最悪の防御率と最後までエンジンはかからないまま。ブルペンの防御率4.01はメジャー7位と、終盤イニングのせめぎ合いにも不安が残る。

 一方、この時期は勝負弱さが指摘されるアスレチックスだが、今年はひと味違うとの見方もある。打線はメジャー3位の186本塁打を放っただけでなく、三振数は昨季の1387から1178に激減。MVP候補のジョシュ・ドナルドソン(.301、24本塁打、93打点)という核も存在する。投手陣にも地味ながらまんべんなくタレントが散りばめられ、全体の層の厚さでは全プレーオフ進出チームの中でも最高級だろう。

 ただ、それでも筆者は今年もタイガースが苦しみながらも結局はア・リーグ優勝決定シリーズ進出を果たすと見る。最大の理由は、マックス・シャーザー(21勝3敗、2.90)、アニバル・サンチェス(14勝8敗、2.57)、バーランダー、ダグ・フィスター(14勝9敗、3.67)と続くメジャー屈指の強力先発陣。この時期にモノを言うのがパワーピッチャーを軸とした先発投手力であることは、メジャーの歴史が証明している。

 そして、ここ3年連続ほぼ同じコアでプレーオフに進出してきたタイガースは大舞台での戦い方を熟知しているのも大きい。今季も必ずしも支配的な戦いぶりではなかったが、それもこの時期に照準を合わせてきたような印象も受ける。“マネーボール”で知られるビリー・ビーンGM体制下でのアスレチックスは過去6度に渡ってプレーオフに駒を進めてきたが、ワールドシリーズ進出経験はゼロ。その運命は変わらず、今季もまた歴史は動きそうにない。

 予想=タイガース 3勝2敗


レッドソックス(97 勝65敗/ア・リーグ東地区優勝)
 対
レイズ(92勝71敗/ワイルドカード)

 今季、後半戦を席巻したレッドソックスは、本来ならばア・リーグの本命に挙げられてしかるべきだろう。メジャー最多の853得点を挙げた打線は、破壊力と辛抱強さを併せ持つ。クレイ・バックホルツ(12勝1敗、防御率1.74)の復帰、ジョン・レスター(15勝8敗、3.75)の復調によって先発ローテーションも層が厚くなり、上原浩治(4勝1敗21セーブ、1.09)の驚異的な活躍のおかげでブルペンにも軸ができた。
(打線の迫力で勝るレッドソックス撃破には、ロニー(写真)、ゾブリスト、ヤングなどレイズのサポーティングキャストの貢献も欠かせない Photo By Gemini Keez)

 今季の直接対決ではレッドソックスが12勝7敗とリードし、今シリーズでも5戦中3戦を地元ボストンで開催できる(今季ホーム成績53勝28敗はア・リーグ最高)。すべてがうまくいった後半戦の圧倒的な強さを思い出しても、早期敗退する姿は想像し難いのは事実である。

 しかし……シーズン終盤からプレーオフまでの13戦中10勝を挙げてここまで辿り着いたレイズは、実に危険な相手に思える。
 デビッド・プライス(10勝8敗、3.57)、マット・ムーア(17勝4敗、3.29)、アレックス・コブ(11勝3敗、2.76)の先発3本柱は強力。「スポーツ・イラストレイテッド」誌の記者はレッドソックス打線はプライス、ムーアのようなパワーピッチャーに弱いと指摘している上に、シーズン終了からプレーオフ開始まで4日間のブランクも絶好調だった打線には災いに働きかねない。

 プライス、ムーア、救援のジェイク・マギー(対デビッド・オルティスは過去5打数1安打)、アレックス・トーレス(同3打数1安打)、シーザー・ラモス(同8打数1安打)と上質な左腕が揃っており、ボストン打線の要であるオルティス(打率.307、30本塁打も、対左投手は打率.260、7本塁打)対策も万全。レイズ打線の破壊力はレッドソックスとは比べるべくもないが、知将ジョー・マドンの機転で必要な得点は奪ってくるのではないか。
(レイズの主砲ロンゴリアを若手のマイヤーズ(写真)がサポートできるか Photo By Gemini Keez)

 そして何より、テキサスでのワンゲームプレーオフではレンジャーズを、クリーブランドでのワイルドカード戦ではインディアンズを下したレイズには、この時期の戦いには欠かせない勢いが宿り始めているようにも見える。“プレーオフは運と勢い次第”という考え方には賛否あるが、今のレイズがフェンウェイパークの異様な雰囲気もものともしないことは確かだろう。

 攻守の総合力では、レッドソックスがやや上かもしれない。しかし、どちらが2013年の“運命のチーム”に近いかと問われたら……それはレイズであるように思えてならない。

 予想=レイズ 3勝2敗

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。

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