ついにミスタータイガースが阪神に復帰した。
 OBの掛布雅之がGM付育成・打撃コーディネーターとして阪神球団と1年契約をかわした。とりあえず今秋と来春のキャンプでは2軍選手の指導にあたる。

「選手に何かひとつでもプラスになれば、という気持ちでやりたい。選手がどういう色を出すのか。その色を大切にして、もっと輝く色にしてあげればいいなと思います」(日刊スポーツ10月16日付)

 タテジマのユニホームを着るのは現役を引退した1988年以来25年ぶり。本人も期するものがあるのではないか。

 阪神の最大の課題は長打力。今季のチーム総本塁打82本はセ・リーグ最低だった。いくら広い甲子園を本拠地にしているとはいえ、この本数は少な過ぎる。
 課題を克服する上で、ホームラン王3度の掛布は適役中の適役だろう。

 この春、本人に会った際、こんな話を聞いた。
「僕らの頃は1試合に使用するボールの数は、だいたい70〜80個でした。ところが今は10ダース必要だというんです。つまり120個ですよ」

 どうして、そうなったのか。
「狙っていないボールにまで手を出すから、どうしてもファウルが多くなってしまう。コーチの指導法を見ていても、最近は“3回振ってこい!”というコーチが多すぎる。
 僕は、それじゃダメだと思う。特に4番を張るようなバッターは、1球で仕留めなければならない。ファウルは実質的にバッターの負けなんですから」

 掛布は元々、長距離ヒッターだったわけではない。デビュー当時は左右に打ち分ける巧打者だった。
 ところが“不動の4番”だった田淵幸一が西武に移籍したこともあって、ファンは掛布にヒットよりもホームランを求めるようになる。

 それについて、本人はこう語っていた。
「事実、ファンの人からは“今日は負けたけど掛布のホームランが見られてよかった”という声がたくさん聞こえてきました。チーム事情を考えた時、かつては田淵さんが果たしていた役割を僕が引き受けざるを得なかった……」

 安打製造機から長距離砲へと華麗なる転身をはかる上で、彼は独自の技術を身に付けたのだ。
 それを、どのようにして若虎に伝授するのか。これは、けだし見物である。

<この原稿は2013年11月15日号の『週刊漫画ゴラク』に掲載された原稿を一部再構成したものです>

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