「今季はニューヨークのバスケットボール界がこれまでにないほどに盛り上がるシーズンになるかもしれないな……」
 2013-14シーズン開幕前、地元の記者仲間とそんな話をしたのが、今ではもう遠い昔のことのように感じられる。
(写真:マディソン・スクウェア・ガーデンがブーイングに包まれ続ける日も近い? Photo by Gemini Keez)
 12月5日、ブルックリン――。同じニューヨーク市内のライバル同士、ニューヨーク・ニックスとブルックリン・ネッツの激突は、本来であれば地元の華やかな注目を集めて行なわれるはずだった。

 しかし、ネッツは直近14戦中11敗で通算5勝13敗。ニックスはこの日まで9連敗を続けて通算3勝13敗。どちらも最悪の状態で行なわれた今季初対決は、惨めな地区最下位争いのゲームとなってしまった。

「僕たちはリーグの笑い者だ。笑われるのが好きか? そんなはずがない。今の状況は耐えられないよ。この状況を改善するために務めなければいけない」 
 ニックスのカーメロ・アンソニーがそう語った通り、全米中継された“ニューヨークダービー”は別の意味で注目を集めることになったのである。

 今季に向けて必勝態勢を目指したネッツはオフに大型補強を敢行し、ロースターに総額約1億8000万ドル(年俸1億ドル+贅沢税8000万ドル)を費やしたパワーハウスになった。ニックスは昨季、19年ぶりの地区優勝を成し遂げ、今季はさらなる飛躍が望まれていた。それほど期待されていた両チームがともに破竹の勢いで負け続ければ、ファンもメディアもせっかちなニューヨークで、さまざまな不協和音が飛び出して来るのも仕方ない。

 ネッツのジェイソン・キッドHCは、12月3日、自らの片腕として入閣させたヘッド・アシスタントコーチのローレンス・フランクを降格させたと発表。まるでスケープゴートを探すような人事のイメージは悪く(その決断を支持する声も少なくないが)、ニックス戦前にキッドが地元ファンからブーイングを受けたのもやむを得なかったのだろう。
(写真:ジェイソン・キッド新HCは苦しむネッツの象徴的存在となってしまった感がある Photo by Gemini Keez)

 一方、2006年2月以来、最長の9連敗を喫したことで、ニックスのマイク・ウッドソンHCの去就も話題になり始めている。5日にネッツに勝ったおかげで一旦は沈静化したものの、今後も勝率が上がらなかった場合、指揮官の進退問題に発展するのは避けられまい(それが正当かどうかは別問題として)。

 両チームの名誉のために断っておきたいが、どちらも低迷の最大の原因は主力選手の故障である。ネッツはデロン・ウィリアムス、ポール・ピアース、ジェイソン・テリー、アンドレイ・キリレンコとスタメン級が次々と倒れ、ブルックリンのスター軍団の足並みはなかなか揃わない。ニックスも一昨季に最優秀守備選手となった守護神タイソン・チャンドラーが開幕4戦目に故障離脱し、もともと弱かったディフェンスが余計に弱体化した。

 これらの選手たちの復帰を待たずに、今季の最終評価を下すべきではない。ケガ人が戻ってくれば、どちらのチームも少なからず上向くことは確実。特にネッツはベストプレーヤーのウィリアムスが完調に近い形でカムバックすれば、劇的に向上する可能性もあるだろう。
(写真:ネッツ復活はデロン・ウィリアムスにかかっている Photo by Gemini Keez)

 ニックス、ネッツの所属するアトランティック地区は勝ち越しチームゼロという記録的低レベルになっているだけに、巻き返しの時間は十分ある。地区優勝を飾るチームが、結局はニューヨークから生まれても驚くべきではない。

 ただ……本当に底力のあるチームは、たとえ主要なケガ人が出てもこれほど大崩れはしないものである。どれだけ言い訳しようと、ニックスとネッツの今季序盤戦での脆さ、無気力さは誰にとっても想定外だったと言ってよい。

 実際にここまでの苦戦の過程で、開幕前にははっきりと見えなかった両軍の欠点があぶり出された感がある。
 ネッツのロースターには身体能力が決定的に欠けており、高齢ロースターゆえにケガ人は今後も絶えず出るだろう。体力的に下り坂のベテラン揃いのチームを率いるのに、コーチ未経験のキッドが最適の指揮官とはどうしても思えない。ニックスは余りにも層が薄く、昨季得点王のカーメロ・アンソニーをオフェンス面で助けられるハイレベルな選手が存在しない。
(写真:ニックスではカーメロ・アンソニーの負担がこれまで以上に大きくなってしまった Photo by Gemini Keez)

 これほど明白な穴のあるチームでは、たとえ徐々に帳尻を合わせてきても、プレーオフでの上位進出は望み薄ではないか。3連覇を狙うマイアミ・ヒート、今季に照準を完全に合わせてきているインディアナ・ペイサーズに太刀打ちできるとはとても思えない。特にブルックリン移転2年目にしてカンファレンス・ファイナル進出を最低目標に挙げたネッツにとって、この時期に限界が見えてしまったことは痛恨としか言いようがない。

 冒頭で述べた通り、ニューヨークのバスケットボールファンの今シーズンに対する期待は大きかった。もともとバスケが盛んな街に、上位進出が現実的に望める(ように思えた)チームが2つも揃った。

 MLBのヤンキース、メッツが2013年はプレーオフ進出を逃し、NFLのジャイアンツ、ジェッツも苦戦しているのを尻目に、ニューヨークはついに“バスケットボール・タウン”になるのではないか。そんな希望とともに、2013-14 シーズンは幕を開けたのだった。

 しかし……。期待が大きければ大きいほど、望んだようにならなかった場合の落胆も大きくなる。現状のロースターづくりのために未来のドラフト指名権も放出し続けただけに、このままでは将来への希望も見えてこない。

“ドリームシーズン”への期待感は、既に風前の灯――。それどころか、波乱の2013〜14シーズンが、一転して“ニューヨーク史上に残る失敗”に終わる可能性すら少なからず見え始めているのである。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。

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