第258回 “コアフォー”時代を終えて 〜ヤンキースの新たなチームづくり〜
“悪の帝国”の復活――。今オフのヤンキースの補強策を一見して、そんな風に感じる人も中にはいるかもしれない。FA戦線解禁後に、ジャコビー・エルスベリー、ブライアン・マッキャン、カルロス・ベルトランを次々と獲得。自前のFA選手だった黒田博樹と再契約し、デレック・ジーターとも金額を上積みした上で1年契約を結び直した。
(写真:ベルトランの加入は大きいが、36歳という年齢は懸念される Photo By Gemini Keez)
さらにブライアン・ロバーツ、マット・ソーントン、ケリー・ジョンソンといったベテランも安価でゲット。加えてポスティング制度でのメジャー入りの有無が注目される田中将大(東北楽天)獲得の有力候補に挙げられるなど、今オフは故ジョージ・スタインブレナー元オーナーの生前を彷彿とさせる存在感を見せつけている。
エルスベリー、マッキャン、ベルトラン、黒田という4人のFA選手に支払った総額だけでも約3億ドル。来季のペイロールを1億8900万ドル(贅沢税が発生しない額)の目標内に収めるのは難しそうな状況となっている。
ここ2年のヤンキースは安価なベテランを応急処置的な形で獲得することが多かった。だが、今季は地区3位に終わり、この19年間で2度目のプレーオフ逸を経験したことで業を煮やしたか。同じくプレーオフに進出できなかった直後、4億ドル以上をつぎ込んでCCサバシア、AJバーネット、マーク・テシェイラを獲得した2008年オフを思い出す人も多いだろう。
しかし……ロースターをより深く眺めていくと、首尾よく世界一奪還に成功した2009年と、2014年に予定されるメンバーには大きな違いがあることにすぐ気付くはずだ。
5年前はいわゆる“コアフォー”と呼ばれるデレック・ジーター、ホルヘ・ポサダ、アンディ・ペティート、マリアーノ・リベラがまだ元気だった。アレックス・ロドリゲスも健在で、ロビンソン・カノのような自前の強打者も台頭していた。少々大ざっぱに言えば、すでにできあがったチームの足りない部分に、サバシア、テシェイラといったピースを当てはめれば良かったのである。
それに比べて、今オフは大補強を続けている一方で、チームを去った主力選手も数多い。カノ(マリナーズ移籍)、カーティス・グランダーソン(メッツ移籍)、リベラ(引退)、ペティート(引退)、フィル・ヒューズ(ツインズ移籍)、そしてアレックス・ロドリゲス(薬物使用疑惑により出場停止処分を巡って調停中)……。(写真:“コアフォー”に続く生え抜きスターとなっていくかと思われたカノの移籍は衝撃的なニュースとなった Photo By Gemini Keez)
ポサダに続いて今季限りでリベラ、ペティートが引退し、1990年代後半以降のヤンキースを支えてきた“コアフォー”はついにジーターひとりになった。そして何より、FA権を手にしたとはいえ、当初は残留が確実視されていたカノがマリナーズに移籍を決めたのは予想外の波乱だったと言ってよい。
マリナーズが提示した10年2億4000万ドルという途方もない契約に対抗しようとせず、その分を他のFA選手たちに分配する形になったヤンキースの方向性が間違っていたとは思わない。ただ、少なくとも向こう2、3年に関しては、3割、30本前後が毎年計算できるピュアヒッターを失ったことが大きなダメージとなる可能性は高いに違いない。
こうして多くの重鎮たちが去り、一方で多くの新顔が加わり、現時点で来季のレギュラーメンバーを予想すると以下のようになる。
捕手 マッキャン
一塁 テシェイラ
二塁 ロバーツ
三塁 ロドリゲス(出場停止の場合はジョンソン、エドゥアルド・ヌネス)
遊撃 ジーター
左翼 ブレット・ガードナー
中堅 エルスベリー
右翼 ベルトラン
DH アルフォンソ・ソリアーノ
控え イチロー、バーノン・ウェルズ、ブレンダン・ライアン
投手 サバシア、黒田、イバン・ノバ、デビッド・フェルプス、マイケル・ピネダ
抑え デビッド・ロバートソン
野手はビッグネーム揃いだが、懸念される部分も少なくない。特にテシェイラ、ジーター、ロドリゲス、ロバーツの内野陣は3〜5年前なら黄金カルテットだったろうが、近年は故障に苦しんでいる選手たちばかり。マッキャンを除き、レギュラーはすべて30代というのも不安材料である。
さらに先発投手陣に目を移すと、層の薄さは歴然としている。
「サバシアは最高のピッチャーだし、ノバも素晴らしいピッチングをしてきた。それ以外(のメンバー)は……まだ詳しくは知らないんだけどね」
12月5日にヤンキースタジアムで行なわれた入団会見の際、マッキャンが残したコメントは現状を分かりやすく示している。サバシア、ノバの後が思いつけなかったのも無理もない。黒田と再契約した後でも、現状では“200億円軍団”としては意外なほどに先発投手陣は駒不足だからだ。
こんな状況下で、大金をつぎ込んだFA補強後でも、まだ来季陣容の注目ポイントは複数残っている。投手陣へのてこ入れを目指し、控えが豊富となった外野陣からイチロー、ガードナー、あるいは他の誰かがトレード要員となるのか(フロントはガードナー放出はないと一応は明言している)。211試合の出場停止から若干の処分軽減も予想されるロドリゲスの処遇はどうなるのか(調停の結果発表は1月中と目される)。そして、依然として行方が不確かな田中、もしくは他の実績ある投手を獲得に動くことになるのか。
(写真:イチローのトレードも十分に考えられる Photo By Gemini Keez)
中でも田中がピンストライプのユニフォームを着るかどうかは、日本のファンならずとも気になるところである。筆者も最近はニューヨークの記者仲間、ベースボールファンから盛んに田中の質問を受けるようになった。
ポスティング制度を通じての渡米が楽天から容認されるか定かでない今、「ヤンキースは別の補強手段を探り始めた」といった報道も目にする。しかし、状況はまた変わり得るだろう。
もしもメジャー挑戦が決まったとして、総額8000万〜1億ドルが必要と見られる年俸総額を払ってまでヤンキースは日本人エースに触手を伸ばすのかどうか。予算を考えれば、ロドリゲスの来季年俸がどれくらいカットされるかが関係してくるかもしれない(注/出場停止期間中は年俸支払う必要はなくなる)。場合によっては、マット・ガーザ(レンジャーズFA)のようなベテランに矛先を変えるか、もしくはチーム内で何とかやりくりする可能性もあるはずだ。(写真:ロドリゲスが来年いっぱい出場停止になれば年俸2500万ドルを支払う必要がなくなるが、三塁には穴が空く Photo By Gemini Keez)
この一連の田中問題がどんな結果に落ち着くか、それがヤンキースにどういった影響を及ぼすかは定かではない。ただ、いずれにしても、2014年が極めてスリリングなシーズンになりそうな予感はすでに色濃く漂っている。
今季は17試合しかプレーできなかったジーターも現状のチーム内では高価なロールプレーヤーに過ぎず、“コアフォー”が絶対中心の時代は終わった。
ジーターにとって来季が現役最後のシーズンとなり、終盤戦は今季のリベラを上回るほどの豪華絢爛な送別セレモニーの連続となっても不思議はない。それと時を同じくして、フロント、他の主力選手たちは新しい時代に足を踏み出していくことになる。
若手プロスペクトがほとんど育っていない現状で、再び常勝チームを形成するのには時間がかかるかもしれない。今のままではヤンキースを来季の優勝候補に挙げる関係者は少ないだろう。そんな状況は、逆に言えば、ブライアン・キャッシュマンGMをはじめとする首脳陣の腕の見せどころでもある。
毎年のように大物スターを獲得し、必ずプレーオフに進出していた頃、“悪の帝国”という呼称はある意味で褒め言葉だった。時は流れ、2013年冬、FA選手を立て続けに獲得した後でも、その呼び名は今のヤンキースには相応しくない。
長年頼りにしてきた主力がごっそりと去った後で、メジャーきっての名門球団はどんな方向に進んでいくか。他球団から羨望の的になるほどの鋼の強さを取り戻すべく、“元王者”の長い道のりは始まったばかりである。
杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。
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