マニー・パッキャオ、フロイド・メイウェザー、ノニト・ドネアという3人の人気ボクサーが、2014年上半期にビッグファイトに臨むことが確実となっている。まだ対戦相手は未定だが、4〜5月に彼らが次々とアメリカのリングに登場することになりそうなのだ。
(写真:商品価値を回復し、さらなるビッグマッチに繋げるため、次戦はパッキャオにとって極めて重要な意味を持つ)
 無敗街道を行く最強王者メイウェザー、まさかの2連敗後に再起を遂げたパッキャオ、昨年は停滞の1年となったドネア。置かれている状況はさまざまだが、今年の初戦がそれぞれにとって重要であることに変わりはない。今回は3人の相手候補を吟味し、試合の背景、今後のプランを占っていきたい。

4月12日 ラスベガス
マニー・パッキャオ(フィリピン/55勝(38KO)5敗2分)
vs.
ティモシー・ブラッドリー(アメリカ/31勝(12KO)無敗1無効試合) or ルスラン・プロボドニコフ(ロシア/23勝(16KO)2敗)

 昨年11月、ブランドン・リオスに勝って連敗をストップしたパッキャオの次戦の相手は、ブラッドリーかプロボドニコフにほぼ絞られたと言われる。
 この2人のうちでは、2012年に“疑惑の判定”で敗れたブラッドリーが本命。当時からの因縁に加え、昨年10月にブラッドリーがパッキャオの宿敵ファン・マヌエル・マルケスに判定勝ちを収めたことなどから、このリマッチはアメリカ国内でも話題を呼ぶ一戦となるだろう。

 問題は、ブラッドリーはかねてから自身の商品価値を過大評価している感があること。実力派ではあっても人気選手ではない30歳が法外なファイトマネーを要求し、パッキャオ戦の交渉は難航しているという噂も聞こえてくる。

 その場合には、現代の激闘王として名を売りつつあるプロボドニコフが有力候補として浮上する。通称“シベリアのロッキー”はパッキャオの元スパーリングパートナーであり、2人は友人同士。フレディ・ローチが両選手のトレーナーを務めていることもあり、最適の相手ではないと言われてきた。しかし、プロボドニコフはとにかく打ち合いを好むだけに、パッキャオ戦が実現すれば試合内容の面白さはお墨付きとなるだろう。

 いずれにしても、確実に全盛期は過ぎたパッキャオにとって、どちらが相手でも容易なファイトにはなるまい。ブラッドリーには今度は本当にアウトポイントを許しても、プロボドニコフには徐々に打ち負けても、特に驚くべきではなさそう。ただ、逆に言えば、この厄介な2人のどちらかを印象的な形で下せば、やや目減りした商品価値を再び回復させることができるはずだ。

 注:1月上旬、昨年5月にフロイド・メイウェザーに判定負けを喫した元4階級制覇王者ロバート・ゲレーロが、所属していたゴールデンボーイ・プロモーションとの契約を破棄したがっているという報道がなされた。これが成立した場合、急転直下でパッキャオの次戦相手候補に躍り出るシナリオも考えられる。

 
5月3日 ラスベガス
フロイド・メイウェザー(アメリカ/45戦全勝(26KO))
vs.
アミア・カーン(イギリス/28勝(19KO)3敗) or マルコス・マイダナ(アルゼンチン/35勝(31KO)3敗)

 無敗の最強王者メイウェザーの次戦の相手として、イギリスの人気者カーンが抜擢されることはしばらく前から確実視されてきた。
 しかし、この試合の前評判はまったく芳しくない。元世界スーパーライト級王者のカーンだが、ウェルター級での実績はほとんどゼロ。昨年4月には引退間近のフリオ・ディアスにダウンを奪われる大苦戦(判定勝ち)を喫し、以降は1戦も行っていない。そんな27歳の挑戦資格を問う声が挙がっているのも、まずは当然と言ってよいのだろう。

 ただ、批判的な声はもっともだと思う一方で、筆者は実はメイウェザー対カーン戦を少し楽しみにしている。スピードだけならカーンはメイウェザーとほぼ同等。カーンが無鉄砲な打ち合いを好むこともあって、少なくとも序盤はスリリングな高速の攻防が見られるだろう。結局はメイウェザーのストップ勝ちが濃厚だが、たまには最強王者の鮮やかなKO劇を見るのも悪くない。

 カーン以外に有力なコンテンダーがいるのなら別だが、選択の余地に乏しいのが現実。昨年12月に新鋭エイドリアン・ブローナーを破ったケンカ屋、マイダナがもう一人の候補だと言われるが、個人的にはメイウェザー対マイダナ戦にこそ興味が持てない。マイダナのタフネスと技術的限界、メイウェザーの無理しない姿勢を考えれば、無敗王者の退屈な判定勝利が目に浮かぶようだからだ。

 誰が相手だろうと、この興行が昨年9月のサウル・アルバレス戦のような驚異的な興行成績を叩きだすことはまず考えられない。PPVの売り上げで低調な数字が出る事態になれば、今後への影響は必至。その場合には、メイウェザーが9月に予定する次々戦では、さらなるビッグネームとの対戦を望む声が増えることになりそうだ。

 そうは言ってもオプションには乏しく、人気者ミゲール・コットとの再戦に向かうか、6階級制覇を狙ってWBO世界ミドル級王者ピーター・クイリンに挑むか、あるいは世界中が待望するパッキャオ戦についに触手を伸ばすか……。現在のボクシング界で最大の影響力を誇る選手だけに、相手選び、試合内容、興行成績とさまざまな面が注目されることは今回も変わりはない。


4〜5月 開催地未定
ノニト・ドネア(フィリピン/32勝(21KO)2敗)
vs.
ニコラス・ウォータース(ジャマイカ/23戦全勝(19KO)) or エフゲニー・グラドビッチ(ロシア/18戦全勝(9KO))

 昨年4月にギレルモ・リゴンドーとの統一戦に完敗を喫したドネアは、11月にはビッグ・ダルチニャンに勝って再起を果たした。しかし最終的にはパワーにモノをいわせて9ラウンド逆転TKO勝利を飾ったものの、この試合の内容自体は決して誉められたものではなかった。

 ストップに持ち込む直前まで、3人のジャッジのうちの2人はダルチニャン優勢と採点。フェザー級に転級直後とあってかドネアの身体には緩みが目立ち、その戦いぶりから緊張感は感じられなかった。それでも一発で劣勢を引っくり返す軽量級離れしたパワーは依然として魅力だが、この一戦でドネアの今後に不安を抱いた関係者が多かったのも無理はないだろう。

 もともと身体能力に依存する傾向が強かったボクサーだけに、31歳にしてフィジカルのピークを過ぎたと見るメディアも存在する。初の息子が生まれ、ボクシングにかける情熱が薄れてしまったという説も簡単には否定できない。

 そのように疑いの視線が注がれる中で迎える次戦は、ドネアにとって今後のキャリアを占う試金石となるはずだ。ダルチニャン戦で右眼窩を骨折したドネアは、しばらく休養し、次戦は4〜5月になる模様。場所は未定だが、フェザー級転向2戦目にしてタイトル挑戦が予定されている。

 KO率の高いウォータース、アグレッシブなグラドビッチのどちらと対戦しようと、ドネアが万全でなければ苦戦は必至。目標とするリゴンドーとの再戦に近づくためにも、ここは心身ともに最高の状態で臨む必要がある。多くのファンに愛された“フィリピーノ・フラッシュ”は、2014年、大舞台でもう一度輝くことができるのだろうか。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。

※杉浦大介オフィシャルサイト>>スポーツ見聞録 in NY
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