米国製のボールは滑るし、縫い目のヤマにバラつきがある。翻って、日本製は指にしっくりくるし、縫い目のヤマも比較的、揃っている――。
 NPBからMLBへ。海を渡ったピッチャーの多くが口にする感想だ。

「ボールもそうですが、それ以上に日本人投手がアジャストしなければならないのがマウンドです」
 そう語ったのが東北楽天のセットアッパー斎藤隆である。7年間にわたってMLBでプレーし、通算21勝(15敗)84セーブをあげた男の話だけに説得力がある。
「日本のマウンドは傾斜が緩やかで軟らかい。逆に米国は傾斜がきつくて硬い。日本と同じ投げ方をしていたのでは苦労します」

 どういうことか?
「日本では踏み込んだ時、(右投手は)左ヒザをグッと前に出すような指導を受けます。その方が“球持ち”がよくなるからです。僕も最初のうちは、そうしていました。
 ところが、この投げ方ではボールが抜けることが多い。そこで米国の投手を真似して、前の足を突っ張り、その反動を利用してテコの原理でバーンと上から上体を倒すような投げ方をしてみた。それからですよ、スピードが増し、コントロールも安定し始めたのは……」

 日本で最速153キロだった斎藤のストレートは、投げ方を変えたことで米国では5キロ以上速くなった。07年6月には自己最速の99マイル(159キロ)をマークした。
「言葉は悪いかもしれませんが外国の投手は“投げっ放し”というタイプが多い。日本でこんな投げ方をしたら、間違いなく叱られます。“投げ切ったら、すぐにフィニッシュの状態に入れ”と。
 しかし、米国の傾斜のきついマウンドでは、そんなこと気にしていられない。勢いのあるボールを投げないと勝負にならないんですよ」

 郷に入りては郷に従え――。斎藤がMLBで成功を収めた最大の理由は硬くて傾斜のきつい米国のマウンドを考慮して、フォームを改造したことだった。
 その一方で、NPB時代に培ったフォームにこだわり、MLBでは花を咲かせなかった投手もいる。MLBの掟は「強者生存」ではなく「適者生存」なのだ。
 田中将大が“先輩”から、こうした情報を仕入れていることは想像に難くない。
 場合によってはフォームのマイナーチェンジが見られるかもしれない。

<この原稿は2013年12月27日号『週刊漫画ゴラク』に掲載された原稿を一部再構成したものです>

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